非上場会社の株式(自社株)を相続する後継者や株主にとって、相続税の負担は大きな課題です。自社株は評価額が高くなりやすい一方、上場株式のように市場で売却して現金化できません。相続税の申告・納付期限は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月です。本記事では自社株の相続税を納付できない場合の対策を解説します。
なお非上場株式の評価や名義変更を含めた相続手続き全体の流れは非上場株式の相続で解説しています。本記事は納税資金の対策に絞って解説します。
自社株の相続税が払えないときの選択肢
自社株の納税資金が不足する場合、対策は主に6つあります。それぞれ使える場面と注意点が異なります。状況に応じて複数を組み合わせるのが実務の基本です。まず全体像を下表で確認します。
| 対策 | 使える場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 金庫株(発行会社への売却) | 自社株以外に納税資金となる資産が少ない場合 | 特例期限は相続開始後3年10か月。会社側の買取原資が必要 |
| 延納 | 不動産等はあるが現金が不足する場合 | 担保提供が必要。利子税が発生する |
| 物納 | 延納でも納付が困難な場合 | 非上場株式は物納の順位が低い |
| 事業承継税制(納税猶予) | 贈与・相続で後継者に無償承継する場合 | 有償のM&A売却には使えず、適用中の売却で打ち切りとなる |
| 円滑化法の金融支援 | 後継者個人の納税資金や買取資金が必要な場合 | 都道府県知事の認定が必要 |
| 生前対策(評価引き下げ・保険等) | 相続開始前に準備の時間がある場合 | 効果が出るまで時間がかかる |
金庫株の活用で発行会社に売却する
自社株を現金化する代表的な方法が金庫株の活用です。相続人が取得した株式を発行会社に売却し、会社は自己株式として保有します。通常この売却は配当とみなされ総合課税の対象です。
相続で取得した株式には特例があります。相続開始後3年10か月以内に発行会社へ譲渡すると、みなし配当ではなく譲渡所得として20.315%の分離課税になります(租税特別措置法9条の7)。譲渡益5,000万円なら税額は約1,016万円です。適用には発行会社経由の届出書提出が要件です。
取得費加算の特例(租税特別措置法39条)も同じ期限内なら併用できます。相続税額のうち一定額を取得費に加算でき、譲渡益をさらに圧縮できます。ただし発行会社は会社法上の分配可能額の範囲内でしか自己株式を取得できず、買取原資の確保も必要です。
延納・物納・事業承継税制で納税を遅らせる
現金が不足する場合は延納が選択肢になります。相続税額が10万円を超え金銭納付が困難な範囲内であれば、担保提供により分割納付が認められます。延納税額100万円以下かつ期間3年以内なら担保は不要です。延納には利子税が別途かかり、不動産等の割合によって税率が変わります。
延納でも納付が困難なときの最終手段が物納です。物納できる財産には順位があり、不動産や上場株式等が第1順位です。非上場株式等は第2順位で動産より優先されますが、先順位に適当な財産がない場合等に限り認められます。自社株のみで物納を進めようとすると、順位の関係で認められない場合があります。
後継者への承継が贈与や相続であれば、事業承継税制の検討余地があります。認定を受けた中小企業の株式を後継者が取得すると相続税・贈与税の納税が猶予され、要件を満たせば将来免除されることもあります。ただし対象は贈与・相続による無償の承継に限られ、第三者への有償のM&A売却には使えません。適用中に対象株式を売却すると猶予は打ち切られます。
もし打ち切りとなった場合は猶予税額と利子税をまとめて納付します。特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、対象となる贈与・相続の実行期限は2027年12月31日です(2026年8月時点)。制度の詳細は事業承継税制の記事で解説しています。
金融支援と生前対策で備える
後継者個人の資金を用意する方法もあります。経営承継円滑化法に基づき都道府県知事の認定を受けた中小企業の代表者は、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金を利用できます。設備資金や長期運転資金が対象で、通常より低い特別利率が適用されます。
時間の余裕があるなら生前対策も有効です。生命保険や死亡退職金を準備しておけば、相続発生時にまとまった現金を確保できます。自社株そのものの評価額を引き下げる方法は自社株評価の引き下げの記事で解説しています。相続税を減らす対策と納税資金を増やす対策は両輪で検討するとよいでしょう。
よくある失敗と注意点
- 事業承継税制の適用中に株式を第三者へ売却し、納税猶予が打ち切りになるケース。M&Aによる有償売却には猶予が使えない
- 非上場株式のみで物納を申請し、順位の関係で認められないケース。先順位となる不動産や上場株式の有無を先に確認しましょう
- 金庫株特例の期限(相続開始後3年10か月)を過ぎてから譲渡し、みなし配当課税で税負担が重くなるケース
- 延納の担保提供が期限までに整わず、申請が認められないケース。不動産の担保評価には時間がかかることを認識
まとめ
- 自社株は評価額が高くなりやすい一方、現金化しにくいため納税資金対策が必要です
- 金庫株・延納・物納・事業承継税制・金融支援・生前対策を状況に応じて組み合わせます
- 事業承継税制はM&A売却に使えないなど適用範囲を確認し、税理士へ相談することが重要です
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