事業承継やM&Aには、専門家への相談費用や設備投資など、まとまった資金が必要になります。「補助金を使えないか」と考える経営者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、事業承継・M&A補助金の仕組みと対象経費、申請の大まかな流れを一次情報にもとづき解説します。
事業承継・M&A補助金とは(全体像)
「事業承継・M&A補助金」は、中小企業・小規模事業者が事業承継やM&Aに際して行う設備投資、専門家活用、経営統合(PMI)、廃業などの取り組みにかかる経費の一部を補助する制度です。中小企業庁の中小企業生産性革命推進事業の一つとして実施されています。
もともとは「事業承継・引継ぎ補助金」という名称で運用されていましたが、令和6年度(11次公募)以降は「事業承継・M&A補助金」として実施されています。過去の公募情報を調べる際は、名称が変わっている点に注意してください。
補助率は1/3〜2/3程度、補助上限額は枠により最大2,000万円程度とされますが、具体的な上限額・補助率は枠および公募回により異なるため、申請を検討する際は最新の公募要領で必ず確認してください。
申請枠の構成
2026年時点の公募では、大きく「事業承継促進枠」「専門家活用枠」「PMI推進枠」「廃業・再チャレンジ枠」の4枠が設けられており、専門家活用枠の中には買い手支援・売り手支援に加え、直近の公募から新設された「小規模売り手支援類型」が含まれます。どの枠を使えるかは、承継の形態(親族内承継・従業員承継・M&Aによる譲渡や譲受)や事業規模によって変わります。事業承継そのものの選択肢を先に整理したい方は事業承継の選択肢まとめもあわせてご覧ください。
| 申請枠 | 主な対象 | 対象経費の例 |
|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 親族内承継・従業員承継を契機に設備投資等を行う企業 | 設備費、産業財産権等関連経費、謝金、旅費、外注費、委託費 |
| 専門家活用枠 | M&Aによる譲渡・譲受を予定する買い手・売り手(小規模事業者向け類型を含む) | M&A仲介・FA費用、DD(デューデリジェンス)費用、マッチングサイト利用料など |
| PMI推進枠 | M&A後の経営統合(PMI)に取り組む企業(専門家活用・事業統合投資の2類型) | PMI専門家への謝金・委託費(専門家活用類型)/統合に伴う設備費・外注費・委託費(事業統合投資類型) |
| 廃業・再チャレンジ枠 | M&Aで譲り渡せなかった事業の廃業と再チャレンジ(単独申請)、他の枠と併用する廃業費の上乗せ | 廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リース解約費、土壌汚染調査費など |
対象経費と申請の流れ
専門家活用枠の対象経費とM&A仲介・FA費用
専門家活用枠でCV(成約)に直結しやすいのが、M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に支払う仲介手数料が対象経費に含まれる点です。着手金や成功報酬、DD費用、表明保証保険料などが対象になるとされます。ただし、仲介・FA費用が補助対象となるのは、原則として「M&A支援機関登録制度」に登録された仲介・FA業者を利用した場合に限られます。相見積を取得する場合も、相見積先が同制度の登録業者である必要がある点に注意してください。なお、専門家費用がレーマン方式にもとづく算出金額以下である場合などは、相見積が不要となる取り扱いもあるとされます。
一方、DD費用やシステム利用料など一部の経費は、必ずしも登録FA・仲介業者である必要はないとされています。どの経費がどの条件で対象になるかは公募回ごとに細かく規定されるため、契約前に必ず公募要領・FAQで確認することをおすすめします。
そのほかの3枠の対象経費と補助上限(15次公募の例)
事業承継促進枠は、親族内承継・従業員承継を契機とした生産性向上のための設備投資等が対象です。対象経費は設備費・産業財産権等関連経費・謝金・旅費・外注費・委託費で、15次公募では補助率2分の1以内(小規模事業者等は一部3分の2以内)、補助上限800万円(賃上げ要件を満たす場合は1,000万円以内)とされています。承継の相手方(被承継者)へ支払う株式・資産の譲受費用そのものは対象外で、認定経営革新等支援機関による事業承継計画の確認が必要です。
PMI推進枠は2つの類型に分かれます。PMI専門家活用類型は、M&Aのクロージング後3年以内に取り組む経営統合でのPMI専門家への謝金・旅費・委託費が対象で、補助率2分の1以内・上限150万円以内とされています。事業統合投資類型は、統合に伴う設備費・外注費・委託費が対象(M&A仲介手数料やDD費用はこの類型では対象外)で、補助率・上限は事業承継促進枠とおおむね同水準です。M&A後の統合の全体像はPMIとはで解説しています。
廃業・再チャレンジ枠は、廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・原状回復費などの廃業関連経費が対象です。M&Aに着手したものの譲り渡しに至らなかった場合の単独申請(補助率3分の2以内・上限300万円以内)と、ほかの枠に廃業費を上乗せする併用申請(上乗せ300万円以内)の2つの使い方があります。単独申請には「2020年以降にM&Aへ着手し成約に至らなかったこと」など細かな前提条件があるため、該当するかは公募要領での確認が必要です。
ここに挙げた補助率・上限額はいずれも15次公募(2026年)時点の内容で、公募回により変更されることがあります。申請の際は必ず最新の公募要領をご確認ください。
申請の流れ
| ステップ | 主な内容 |
|---|---|
| ①公募開始・要領確認 | 中小企業庁・事業承継・M&A補助金事務局が公募要領を公表。対象枠・経費・スケジュールを確認 |
| ②事前準備 | M&A支援機関登録制度の登録業者への相談、必要書類(事業計画等)の準備 |
| ③電子申請 | Jグランツ等を通じて電子申請 |
| ④採択・交付決定 | 審査を経て採択が発表され、交付決定を受けてから対象期間内の契約・支払いが補助対象になる |
| ⑤実績報告・補助金受領 | 補助事業完了後に実績報告を行い、確認を経て補助金が交付される |
公募は年に複数回実施され、申請の締切日は公募回ごとに設定されます。具体的な締切は変動するため、検討している場合は事業承継・M&A補助金の公式サイトで最新の公募情報を確認してください。専門家への相談を先に進めたい場合は事業承継の準備の進め方も参考になります。
よくある失敗・注意点
- 交付決定前に契約・支払いをしてしまう――原則として交付決定後の契約・支払いのみが補助対象となるとされ、先に専門家と契約してしまうと対象外になる可能性があります。
- 未登録の仲介・FA業者に依頼してしまう――専門家活用枠の仲介・FA費用は、M&A支援機関登録制度への登録業者利用が前提となるとされます。契約前に登録状況を確認しましょう。
- 事業承継税制など他制度と混同する――事業承継・M&A補助金と事業承継税制は別の制度です。対象となる承継の形態や手続きが異なるため、それぞれの適用範囲を個別に確認する必要があります。
まとめ
- 事業承継・M&A補助金は、旧「事業承継・引継ぎ補助金」から名称変更された制度で、承継やM&Aに関する経費の一部を補助します。
- 申請枠は事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠・廃業・再チャレンジ枠の4枠が中心で、M&A仲介・FA費用は専門家活用枠の対象経費に含まれるとされます(登録M&A支援機関の利用が前提)。
- 補助上限額・補助率・締切は公募回により異なるため、申請前に必ず最新の公募要領を確認しましょう。
次に読む
- 事業承継の選択肢まとめ――親族内承継・従業員承継・M&Aなど、承継全体の選択肢を整理したハブ記事です。
- 事業承継税制とは――補助金とは別枠の税制上の支援策で、適用対象や納税猶予の仕組みを解説しています。
- M&A仲介の手数料相場――専門家活用枠の対象になりうる仲介・FA費用の相場感を確認できます。
出典
- 中小企業庁「中小企業生産性革命推進事業『事業承継・M&A補助金』(十五次公募)の公募要領を公表します」https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260522001.html
- 事業承継・M&A補助金 公式サイト https://shoukei-mahojokin.go.jp/
- 事業承継・M&A補助金 12次公募 専門家活用 よくある質問 https://shoukei-mahojokin.go.jp/r6h/12-experts_faq/
- 事業承継・M&A補助金(事業承継促進枠)公募要領(15次公募)https://shoukei-mahojokin.go.jp/assets/documents/r7h/15-succession/requirements_succession_15.pdf
- 事業承継・M&A補助金(PMI推進枠)公募要領(15次公募)https://shoukei-mahojokin.go.jp/assets/documents/r7h/15-pmi/requirements_pmi_experts_15.pdf
- 事業承継・M&A補助金(廃業・再チャレンジ枠)公募要領(15次公募)https://shoukei-mahojokin.go.jp/assets/documents/r7h/15-challenge/requirements_challenge_15.pdf
- ミラサポplus(中小企業庁)「事業承継・M&A補助金」https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/syokei/

