「自社株買い」という言葉は、上場企業の決算発表でも、中小企業の事業承継の相談でも耳にします。ただし同じ用語でも、株主還元が目的の場合と、経営権を集約するための株式整理が目的の場合とでは、手続きの重みも変わります。本記事では会社法上の仕組みと手続きを整理したうえで、目的別の違いと非上場オーナー企業での活用ポイントを解説します。
自社株買いとは
自社株買いとは、株式会社が発行済みの自社株式を、株主から対価を払って買い戻すことです。会社法上は「自己株式の取得」と呼びます。買い戻した株式は「金庫株」と呼ばれ、消却(発行済株式数を減らすこと)するか、保有したまま再放出することもできます。
たとえば発行済株式1万株、資本金等の額5,000万円の会社なら、1株あたりの資本金等の額は5,000円です。この会社がある株主から1株1万円で自己株式を取得すると、差額の5,000円部分は税務上「みなし配当」として扱われます。
結論として、自社株買いは「株主還元」「少数株主の整理」「相続・承継対策」という3つの目的で使われ、非上場企業では特に事業承継の場面で活用されます。本記事では非上場オーナー企業における承継対策としての視点を中心に解説しますが、贈与税・相続税の納税猶予による承継を検討したい場合は事業承継税制もあわせてご確認ください。
仕組みと手続き(会社法のルール)
自己株式の取得には、原則として株主総会の普通決議が必要です。会社法156条により、①取得する株式の数、②対価として交付する金銭等の内容・総額、③取得できる期間(1年以内)を決議します。特定の株主だけから買い取る場合は、他の株主が不公平にならないよう特別決議とし、他の株主にも売主として参加できる権利(売主追加請求権)を認めるのが原則です。
もう一つの重要な制約が財源規制です。会社法461条により、自己株式の取得対価の総額は、その時点の分配可能額(剰余金の額をもとに算定される上限)を超えてはなりません。分配可能額を超える取得は無効とする見解が有力とされており、業績が悪化している会社では自己株式の取得自体ができないことがあります。
目的別に見る自社株買い
自社株買いは目的によって性格が大きく異なります。代表的な3つを整理すると、次のとおりです。
| 目的 | 主な文脈 | ポイント |
|---|---|---|
| 株主還元 | 上場企業 | 市場での買い付けにより1株当たり利益や株価を押し上げる。市場取得はみなし配当の対象外 |
| 少数株主の整理 | 非上場企業全般 | 分散した株式を会社が買い取り、議決権を集約する |
| 相続・承継対策 | 非上場オーナー企業 | 相続人の納税資金確保や、後継者以外が持つ株式の整理に「金庫株」を活用 |
非上場企業では株式の時価を示す市場がないため取得価格の妥当性が問題になりやすく、自社株評価の考え方を踏まえて算定するのが一般的です。
実務での意味
発行会社にとって
発行会社にとって最大の論点は財源規制の確認です。分配可能額の算定には決算数値の精査が必要なため、税理士や公認会計士に確認を依頼するのが一般的です。株主総会の招集や登記といった手続きは司法書士に依頼するケースが多く、報酬は取得を行う発行会社が負担します。取得のつど発生する費用のため、事前に見積もりを確認しておくとよいでしょう。
譲渡する株主にとって
株式を譲渡する株主にとって最大の論点は税務です。対価のうち資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得の課税対象になり、非上場株式の場合は総合課税のため税率が高くなることがあります。これは所得税法25条に基づく扱いです。
ただし相続で取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに発行会社へ譲渡した場合は、事前に届出書を提出することでみなし配当課税を行わず、譲渡対価の全額を譲渡所得として課税する特例があります。相続で株式を引き継いだ場合は、この期限を意識しておく必要があります。
まとめ
- 自己株式の取得(自社株買い)には株主総会決議と、分配可能額の範囲内という財源規制が必要です
- 目的は株主還元・少数株主の整理・相続承継対策の3つに大別され、非上場企業では承継対策としての活用が中心です
- 対価のうち資本金等の額を超える部分は譲渡株主にみなし配当として課税されますが、相続株式には申告期限後3年以内の譲渡で税負担を抑えられる特例があります
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