「後継者が自社株を買い取りたいが、株価が上がっていて資金が足りない」「相続のたびに株式が分散し、経営権が不安定になるのではないか」——事業承継を検討する経営者から、こうした悩みをよく聞きます。この課題への対応策のひとつが、持株会社(ホールディングス)を活用した承継スキームです。本記事では、その基本的な仕組みとメリット・注意点、事業承継税制との関係を解説します。
結論・全体像:後継者が持株会社を設立し、借入で自社株を買い取るのが基本形
持株会社スキームの基本形は、後継者が新たに設立した会社(持株会社)を経由し、金融機関からの借入によって先代経営者から事業会社の株式を買い取るという流れです。事業会社そのものを後継者個人が直接買い取るのではなく、持株会社という「器」をひとつ挟むことで、経営権の集約や資金調達の面で柔軟な設計がしやすくなります。おおまかな流れは次のとおりです。
| ステップ | 主な内容 |
|---|---|
| ①持株会社設立 | 後継者が新会社(持株会社)を設立する |
| ②銀行借入 | 持株会社が金融機関から自社株取得資金を借り入れる |
| ③自社株買取 | 持株会社が先代経営者から事業会社の株式を買い取る |
| ④配当で返済 | 事業会社から持株会社への配当を借入の返済原資に充てる |
メリット:株価上昇の抑制・議決権集約・相続対策・資金の一括化
持株会社スキームが検討される主な理由として、次のような点が挙げられます。
- 株価上昇の抑制:事業会社の利益が直接、後継者個人の資産評価に反映されにくくなるため、将来の株価上昇による評価額の増加を一定程度抑えられるとされます
- 議決権の集約:後継者が持株会社を通じて事業会社株式を保有する形にすることで、経営権を一元的に集約しやすくなります
- 相続対策:先代の資産構成を、値上がりが続く「事業会社株式」から「借入金と一体化した持株会社株式」へ組み替えることで、相続財産の設計がしやすくなる場合があります
- 資金の一括化:複数の事業や不動産などの資産管理を持株会社の下に集約し、グループ全体の資金繰りを一括して管理しやすくなります
デメリット・注意点:借入返済負担・税務否認リスク・維持コスト
一方で、持株会社スキームには次のような留意点もあります。
- 借入返済の負担:持株会社は事業会社からの配当を原資に借入を返済する仕組みのため、事業会社の業績が悪化すると返済計画そのものに影響が及びます
- 税務否認のリスク:借入の目的や配当設計に事業目的が乏しく、租税回避的と判断された場合、原則として税務当局から否認されるリスクがあります。個別の設計が問題ないかは税理士等への確認が前提です
- 維持コスト:持株会社の設立・維持には登記費用や税理士報酬などのランニングコストが継続的に発生します
向くケース・向かないケース
持株会社スキームは、後継者が既に決まっており事業会社の収益が安定している会社、将来の株価上昇が見込まれる成長企業、複数の事業や資産をグループとして一元管理したい会社に向くとされます。反対に、後継者が未定の段階や、業績が不安定で借入の返済見通しが立てにくい会社、設立・維持コストの増加を吸収しにくい小規模な会社では、無理に導入すると負担が先行してしまう可能性があります。
事業承継税制との比較・併用
持株会社スキームと並んでよく検討されるのが、事業承継税制による贈与税・相続税の納税猶予です。事業承継税制は原則として贈与・相続による株式の承継を対象とする制度であり、持株会社スキームのような借入・有償買取による株式移転とは適用場面が異なります。両者は別の制度ですが、実務では「後継者への経営権集約は持株会社スキームで行い、残る株式の移転には事業承継税制の納税猶予を活用する」といった併用が検討される場合もあります。いずれの手法を選ぶ場合も、前提となる自社株評価の考え方や適用要件の確認が欠かせないため、税理士等の専門家への相談が前提となります。
よくある失敗・注意点
- 借入計画だけを先行させ、返済原資となる事業会社の収益見通しを十分に精査しないまま実行してしまう
- 税務メリットのみを目的化し、事業目的が不明確なまま設計を進めてしまい、否認リスクを高めてしまう
- 持株会社設立後のグループガバナンス(役員構成や議決権の配分)を曖昧にしたまま進めてしまう
まとめ
- 持株会社スキームは、後継者が新会社を設立し、金融機関からの借入で自社株を買い取る仕組み
- 株価上昇の抑制や議決権集約などのメリットがある一方、返済負担・税務否認リスク・維持コストへの注意が必要
- 事業承継税制とは適用場面が異なるため、両者の違いを踏まえたうえで税理士等の専門家に相談しながら検討する
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