創業から数十年、有限会社のまま経営を続けてきたという方は少なくありません。しかし有限会社は2006年の会社法施行以降、新しく設立することができなくなり、既存の会社は「特例有限会社」という特殊な株式会社として存続しています。本記事では、特例有限会社ならではの制度上の特徴を踏まえ、事業承継や売却をどう進めればよいかを解説します。
結論:特例有限会社にも承継・売却の道は複数ある
結論から言うと、有限会社(特例有限会社)も株式会社と同じように事業承継や売却が可能です。進め方は主に、持分(株式)の譲渡、株式会社への商号変更をしてからのM&A、事業譲渡の3つに分かれます。すでに株式会社へ商号変更済みの方は、通常の株式会社と同じ手続きになるため事業承継の選択肢まとめもあわせてご覧ください。
特例有限会社とは
2006年5月1日の会社法施行により有限会社法は廃止され、有限会社を新しく設立することはできなくなりました。会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」)の規定により、施行時に存在していた有限会社は自動的に株式会社として存続します(整備法第2条第1項)。ただし商号の中には「有限会社」の文字を引き続き使わなければならず(整備法第3条第1項)、この会社を一般に特例有限会社と呼びます。
特例有限会社は株式会社と同じ会社法の適用を受けますが、一部の規定は適用されず独自のルールが定められているため、承継や売却では特例部分の理解が欠かせません。
承継・売却に影響する特例有限会社ならではの制限
特例有限会社には、通常の株式会社と異なる制度上の制約がいくつかあります。承継や売却の方法を検討するうえで、あらかじめ押さえておきたいポイントを整理します。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式(持分)の譲渡制限 | 定款で撤廃できず、譲渡には会社の承認が必要 | 整備法第9条 |
| 取締役の任期 | 任期の定めがなく、重任登記が不要 | 整備法第18条 |
| 決算公告 | 決算公告の義務がない(本店での計算書類の備置きは必要) | 整備法第28条 |
| 合併・株式交換等 | 吸収合併の存続会社、吸収分割の承継会社になれない。株式交換・株式移転・株式交付の当事会社にもなれない | 整備法第37条・第38条 |
もっとも影響が大きいのは株式の譲渡制限です。特例有限会社の株式は、譲渡にあたって会社の承認を要する旨が法律上定められており、定款で緩和や撤廃をすることはできません(整備法第9条)。株式を後継者や買い手に譲渡する際は、株主総会や取締役会での承認手続きを省略できない点に注意が必要です。手続きの流れは譲渡制限株式の承認手続きで解説しています。
買い手側の事情にも関わるのが、合併や株式交換に関する制限です。特例有限会社は吸収合併の存続会社や吸収分割の承継会社にはなれず、株式交換・株式移転・株式交付の当事会社にもなれません(整備法第37条・第38条)。買い手がこうしたスキームでの統合を希望する場合は、あらかじめ株式会社へ移行しておく必要があります。一方、取締役の任期がない点や決算公告の義務がない点は、承継後の実務負担が軽い要素です(整備法第18条・第28条)。
承継・売却の進め方
持分(株式)譲渡
最もシンプルなのは、特例有限会社の株式(実務上は「持分」とも呼ばれます)を後継者や買い手に譲渡する方法です。手続きは通常の譲渡制限株式を発行する会社と同じで、譲渡には会社の承認を要します。既存株主が取得する場合は承認したものとみなされる定めが法律上置かれているため、親族内承継など株主間の移転であれば実務上の手間は限定的です(整備法第9条第1項)。手続きの詳細は株式譲渡の手続きと流れ・必要書類を参照してください。
株式会社へ商号変更してからのM&A
買い手が合併の受け皿や株式交換の完全親会社になることを求める場合、特例有限会社のままでは対応できません。この場合は定款を変更して商号中に「株式会社」の文字を用いる形に移行できます(整備法第45条)。株主総会の特別決議で商号変更を決めた日から2週間以内に、解散登記と株式会社の設立登記をあわせて行います(整備法第46条)。
登録免許税は設立登記分が資本金の額の1,000分の1.5(計算した額が3万円未満のときは3万円)、解散登記分が3万円です(登録免許税法第17条の3、別表第一)。これに加えて司法書士報酬などの実費がかかります。
事業譲渡
会社そのものではなく、事業の一部または全部だけを譲渡する方法です。特例有限会社かどうかにかかわらず、事業譲渡では契約や許認可を個別に引き継ぐ手続きが必要になります。取引先や従業員との契約を一件ずつ移す手間がかかる点は共通の注意点です。株式譲渡との違いは株式譲渡と事業譲渡の違いで詳しく解説しています。
親族内承継・第三者承継それぞれの注意点
親族内承継
子どもや親族に会社を引き継ぐ場合は、経営者が保有する株式を後継者に集約していく必要があります。特例有限会社の株式は譲渡に会社の承認が必要ですが、既存株主間での譲渡は承認したものとみなされるため、親族内での移転自体は進めやすい設計です(整備法第9条第1項)。一方で株価評価や相続税・贈与税の考え方には、通常の株式会社と同じ基準が適用されます。生前贈与や遺言を組み合わせた進め方は親族内承継の進め方で解説しています。
第三者承継(M&A)
社外の第三者やM&Aによる承継では、買い手が特例有限会社のままでの取得を認めるかどうかがポイントになります。買い手が合併や株式交換での統合を前提にしている場合は、事前に株式会社へ移行しておく必要があります。決算公告の義務がない分、買い手側のデューデリジェンスでは追加の資料提出を求められることが多く、早めの準備が交渉をスムーズにします。相談先に迷う場合は、国が設置する事業承継・引継ぎ支援センターで無料相談を利用できます。
よくある失敗・注意点
特例有限会社ならではの落とし穴もあります。実務でよく見られる失敗例は次のとおりです。
- 「有限会社だから自由に譲渡できる」と誤解し、会社の承認手続きを省いてしまう
- 買い手から株式会社への移行を急に求められ、定款変更や登記の準備が間に合わない
- 決算公告がない安心感から財務資料の整理を後回しにし、デューデリジェンスの段階で慌てる
税務上の扱いや登記の要否は、会社ごとの事情によって異なります。具体的な手続きに入る前に、税理士や司法書士など専門家に確認することをおすすめします。
まとめ
- 有限会社は2006年の会社法施行後は新設できず、既存の会社は「特例有限会社」として存続する
- 株式の譲渡制限が法定されている、合併の存続会社になれないなど、通常の株式会社と異なる制約がある
- 承継・売却の方法は持分譲渡、株式会社への商号変更後のM&A、事業譲渡の3つが基本で、早めに専門家へ相談するとよい
次に読む
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- 株式譲渡の手続きと流れ:持分譲渡を選ぶ場合の具体的な手続きを知りたい方はこちら。
- スモールM&Aとは?:小規模な会社の売却プロセス全体を知りたい方はこちら。
本記事は、e-Gov法令検索「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成十七年法律第八十七号)および「登録免許税法」(昭和四十二年法律第三十五号)の条文を参照しています。

