中小企業の経営者交代率は長期的に低下し、後継者不在のまま廃業する企業が後を絶ちません。国は早期の準備着手を促すため事業承継の指針を整備してきました。本記事では中小企業庁「事業承継ガイドライン」の内容と実務での使い方を解説します。
事業承継ガイドラインとは
事業承継ガイドラインとは、中小企業庁が経営者や支援機関向けに事業承継の進め方を体系的に示した公的な指針です。2006年の策定後、2016年の改訂を経て、2022年3月に現行の第3版へ改訂されました。
第3版では、早期取組の重要性、5ステップの承継プロセス、地域の支援体制強化の3点を柱に、実務慣行を反映した加筆が行われています。想定読者は経営者本人にとどまらず、税理士や金融機関など支援機関も含み、特に第三章・第四章は支援の標準的な手引きとして詳しく書かれています。
事業承継の3類型と3つの構成要素
ガイドラインは事業承継を親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の3類型に整理しています。
| 類型 | 特徴 | 近年の傾向 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 心情的に受け入れられやすく、後継者の早期決定で準備期間を確保しやすい | 割合は減少傾向 |
| 従業員承継 | 能力を見極めて選べ、経営方針の一貫性を保ちやすい | 種類株式等の活用で増加傾向 |
| 社外への引継ぎ(M&A) | 親族や社内に適任者がいなくても候補を広く探せる | 後継者難を背景に増加傾向 |
また事業承継は株式や代表者交代だけでなく、「人(経営)」「資産」「知的資産」の3要素からなるとガイドラインは説明します。経営権や後継者教育といった人の承継、株式や事業用資産といった資産の承継に加え、経営理念や取引先との人脈、ノウハウといった知的資産の承継を欠くと、後継者は経営基盤を維持できません。
5ステップで進める承継プロセス
ガイドラインは承継準備を5段階に分けて示しています。
- ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識
- ステップ2:経営状況・経営課題等の把握(見える化)
- ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
- ステップ4:事業承継計画の策定(親族内・従業員承継)またはM&Aの工程の実施(社外への引継ぎ)
- ステップ5:事業承継の実行またはM&Aの実行
ステップ1から3は類型を問わず共通の準備段階です。支援機関は経営者への積極的な声かけとして「事業承継診断」を活用し、後継者候補の有無や準備の進捗を対話形式で確認します。診断は10分程度が基本で、近年は年間16万件超が実施されています。
後継者への移行期間は3年以上を要する割合が半数を超えるため、概ね60歳頃には準備着手が望ましいとガイドラインは示しています。
実務での意味
経営者にとって
経営者にとっての要点は、後継者の有無にかかわらず早期に準備へ着手することです。特に70歳を超えている場合は、すぐにでも身近な支援機関に相談すべきとガイドラインは明記しています。相談先は事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所・商工会、顧問税理士、取引金融機関などです。
親族内承継なら早期の家族会議、社外への引継ぎならM&A支援機関への相談が次の一手になります。事業承継税制の活用を検討するなら、納税猶予の仕組みも併せて確認すると計画が立てやすくなります。
支援機関にとって
支援機関にとっては、経営者のプライベートな領域に踏み込む難しさを踏まえ、日常の関わりの中で対話のきっかけを提供することが求められます。ガイドラインは、支援機関同士が事業承継ネットワークを構成し、事業承継・引継ぎ支援センターを中心に切れ目のない支援体制を築くことを想定しています。
士業等専門家には、形式的な報告書作成に終始せず、経営者や後継者が自ら考えを整理する「聞き出し役」に徹する姿勢が求められています。
まとめ
- 事業承継ガイドラインは中小企業庁が策定し、2022年3月に第3版へ改訂された公的指針
- 承継は親族内・従業員・M&Aの3類型、人・資産・知的資産の3要素で捉える
- 5ステップの準備プロセスと事業承継診断を通じ、経営者は概ね60歳までの着手が望ましい
次に読む
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- 事業承継計画の作り方|記載事項とステップ|ガイドラインが推奨する計画策定の実務を解説
- 中小M&Aガイドラインとは?第3版の要点|姉妹制度であるM&A版ガイドラインの要点

