非上場企業の株式を相続すると、上場株式にはない評価や名義変更、会社側からの請求への対応が必要になります。株式を引き継ぐ相続人だけでなく、承継させる経営者本人にとっても理解しておきたい内容です。本記事では非上場株式の相続税評価から名義変更の手続き、売却の選択肢までを解説します。
相続手続きの全体像
非上場株式の相続には複数の手続きが伴います。遺産分割・評価・申告・名義変更を経て、保有を続けるか売却するかを判断する流れです。下表で全体像を確認しましょう。
| 手続き | ポイント |
|---|---|
| 遺産分割・準共有の解消 | 権利行使者を1人定めて会社に通知(会社法106条) |
| 相続税評価 | 原則的評価方式または配当還元方式で評価額を算定 |
| 相続税の申告・納税 | 相続開始を知った日の翌日から10か月以内 |
| 株主名簿の名義書換 | 譲渡制限株式でも会社の承認は原則不要 |
| 会社からの売渡請求への対応 | 定款規定があれば会社が1年以内に請求可能 |
| 保有継続か売却かの検討 | 発行会社への譲渡・第三者へのM&Aなど |
遺産分割と相続税評価の考え方
非上場株式は相続財産の一部として遺産分割の対象になります。遺産分割が完了するまで、株式は共同相続人全員の準共有状態です。会社に権利を行使するには、共同相続人の間で権利行使者を1人定めて会社に通知する必要があります(会社法106条)。
相続税は、非上場株式を財産評価基本通達に基づいて評価します。経営支配力を持つ同族株主等が取得した場合は原則的評価方式を用い、会社規模に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・両者の併用のいずれかで算定します。少数株主(同族株主以外の株主等)が取得した場合は配当還元方式を使い、年間配当額を10%で割り戻して評価します。例えば年間配当5万円の株式なら、評価額はおおむね50万円という計算です(実際には資本金等の額による調整があります)。具体的な評価方式の選び方や計算例は自社株評価の基礎をご覧ください。
相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。評価に時間がかかる株式ほど早めの着手が望ましいでしょう。
名義変更と会社からの売渡請求
相続による株式の取得は、会社法上の「譲渡」には該当しません。そのため譲渡制限株式であっても、相続人への名義書換に会社の承認は原則不要です(会社法134条4号)。相続人は戸籍謄本や遺産分割協議書などを添えて、発行会社に株主名簿の名義書換を請求します。
一方で発行会社は、定款に定めがあれば対抗手段を持てます。相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、会社への株式の売渡しを請求できる規定です(会社法174条)。請求できる期間は、会社が相続を知った日から1年以内です(会社法176条1項)。実行には株主総会の特別決議が必要で、対象となる相続人本人は議決権を行使できません(会社法175条)。
売買価格は当事者間の協議での決定となりますが、まとまらない場合は売渡請求から20日以内に裁判所へ価格決定を申し立てることができ、株式を相続したものの経営に関与していない相続人がこの規定により株式を手放すことになる場合もあります。相続前に定款の売渡請求規定の有無を確認しておくと安心です。
株式を保有し続けない場合の選択肢
相続した株式を保有し続けない場合、主な選択肢は金庫株としての発行会社への譲渡と、第三者への譲渡(M&A)の2つとなります。会社そのものを売却する場合の考え方は相続した会社を売却するにはをご覧ください。ここでは株式そのものを譲渡する場合の税務上の特例を確認します。
発行会社に株式を譲渡すると、通常は対価の一部がみなし配当として総合課税されます。ただし相続税を納めた人が一定期間内に発行会社へ譲渡すれば、みなし配当課税を行わず譲渡所得として扱う特例があります(措置法9条の7)。期間は相続開始日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。適用には譲渡前に発行会社への届出書提出が必要です。
譲渡所得の計算では、相続税額の一部を株式の取得費に加算できる特例もあります(措置法39条)。加算額は相続税額に、譲渡した株式の相続税評価額が相続税の課税価格全体に占める割合を乗じて計算します。例えば相続税額500万円のうち株式の評価額が課税価格全体の10%を占める場合、加算できる金額は50万円です。この加算により譲渡益と納税額を抑えられます。
相続税そのものの納税資金が不足しそうな場合の対策は自社株の相続税が払えないときの対策で解説しています。株式を売却するかどうかにかかわらず、早い段階で税理士に評価と納税資金の見通しを相談しておくと安心です。
よくある失敗・注意点
- 権利行使者を決めないまま放置:準共有のまま株主総会を迎え、議決権を行使できない場合があります
- 定款の売渡請求規定を確認していない:相続後に会社から株式売渡しを求められ、事業への関与を断たれることがあります
- 評価や申告の準備が遅れる:相続税の申告期限は10か月と短く、非上場株式の評価には時間がかかります
- 特例の適用期限を把握していない:みなし配当課税の特例と取得費加算の特例は、いずれも申告期限の翌日以後3年を経過する日までが期限です
まとめ
- 非上場株式は準共有の解消と相続税評価が最初の関門です。評価方式は保有する株主の立場で変わります
- 名義書換に会社の承認は原則不要ですが、定款の売渡請求規定には注意が必要です
- 保有を続けるか売却するかは、金庫株特例や取得費加算の特例も踏まえて税理士に相談しましょう
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