フジタコーポレーション(証券コード3370・東証スタンダード。北海道苫小牧市に本社を置き、ミスタードーナツやモスバーガーなどのフランチャイズ運営を主力とする企業)は2026年9月16日、農地所有適格法人である株式会社市川牧場の株式を取得し連結子会社とすることを取締役会で決議しました。
発表の概要
市川牧場は北海道中川郡美深町に所在する酪農法人です。生乳の生産や飼料作物の栽培、乳牛の飼育などを手がけています。2010年4月設立で資本金は100万円です。
株主は個人6名が発行済株式の全てを保有しており、本人の意向により氏名は非公表とされています。2026年3月期の売上高は263,090千円、営業損失は11,671千円、経常利益は17,129千円、当期純利益は16,379千円です。過去3期は増収が続き経常利益と当期純利益も黒字ですが、営業損益は3期とも損失となっています。
取引の主な条件は次の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 譲渡元(売り手) | 個人6名(本人の意向により氏名は非公表) |
| 取得対象 | 株式会社市川牧場(北海道中川郡美深町) |
| 事業内容 | 酪農業(生乳生産、飼料作物の栽培、乳牛の飼育等) |
| スキーム | 株式取得(連結子会社化)。普通株式の一部を無議決権の種類株式に転換 |
| 取得価額 | 株式113百万円+アドバイザリー費用等(概算)26百万円=合計(概算)139百万円 |
| 契約締結日 | 2026年9月30日(予定) |
| 株式譲渡実行日 | 2026年9月30日(予定) |
対象会社は農地法第2条第3項が定める農地所有適格法人(法定の要件を満たし、農地を所有できる法人)です。この要件の維持には、農業に従事しない出資者の議決権比率を2分の1未満に抑える必要があります。フジタがそのまま全株式を保有すると議決権要件を満たせなくなるため、普通株式の一部を無議決権の種類株式(A種優先株式)に転換し、議決権と経済的な取り分を切り分ける設計をとっています。
手続きは次の3段階で進められます。
| ステップ | 主な内容 |
|---|---|
| ①全株式の一旦取得 | フジタが個人株主6名から発行済普通株式1,000株(100%)を取得 |
| ②種類株式への転換 | 対象会社の臨時株主総会で定款変更を決議し、普通株式1,000株を普通株式10株とA種優先株式(無議決権)990株に転換 |
| ③役員への議決権株式譲渡 | フジタが保有する普通株式10株のうち6株(議決権比率60.0%)を、対象会社の常時従事役員予定者に譲渡 |
この手続きを経て、フジタは普通株式4株(議決権比率40.0%)とA種優先株式990株を保有し、議決権は40.0%にとどまる一方で経済的持分は99.4%になります。常時従事役員予定者は普通株式6株(議決権比率60.0%)を保有し、年間150日以上の現場作業に従事することで農地所有適格法人の要件を満たす体制を維持する予定です。現代表取締役の市川博氏は取引後も取締役として経営に携わり、地域社会や農業委員会との関係維持と円滑な事業承継を図るとしています。
議決権が40.0%にとどまるもののフジタが連結子会社とする判断の根拠として、同社はグループから派遣する役員が対象会社の取締役会で過半数を占める予定であることと、対象会社の役員株主との間で株主間契約を締結することを挙げています。事業計画・予算の承認や多額の借入、重要な財産の処分、代表取締役等の選任についてフジタの事前承諾を義務付ける内容です。
背景
株式取得の理由についてフジタは、対象会社が「優秀な酪農経営基盤と高品質な生乳生産能力を有する」酪農法人であることを挙げたうえで、北海道企業として道産食材を活用したアグリビジネスの展開と食品供給チェーンの強化を進める中で、日本の農業・酪農業界における後継者不足問題への対応と持続可能な酪農モデルの構築を目指すと説明しています。あわせて無議決権株式で経済的持分99.4%を保有し、事業シナジーと投資リターンの極大化を図るとのことです。
フジタは本件以前から農畜産部門を持ち、子会社TOMONIゆめ牧舎(1拠点)で乳牛の飼育や生乳生産を手がけています。2027年3月期第1四半期決算短信によると、搾乳量の増加目標を掲げて栄養管理や牛舎環境の改善、牧草の自社栽培などによるコスト削減を進めた結果、農畜産部門の売上高は53,026千円(前年同期比2.6%増)となり、セグメント損失も3,801千円まで縮小しました。
決算補足説明資料でも乳牛増頭施策による部門売上の伸長や、黒松内町産生乳を使ったアイスなど新商品の開発が進んでいることが示されています。同短信の時点で農畜産部門は1拠点であり、市川牧場の子会社化はこれに続く牧場拠点の追加にあたります。
買い手の経営戦略から見ると、フジタは自社の中期経営計画(2022年3月期〜2026年3月期)で、既存事業の強化・FC加盟開発と並ぶ経営戦略の基本方針の一つとして商品マーチャンダイジング事業の推進を掲げ、その具体策として食品製造事業(トワ・ヴェール事業)への参入と卸売・直売による収益拡大を打ち出していました。
トワ・ヴェール事業は2020年4月に北海道黒松内町と業務提携し、2021年10月から指定管理業者として乳製品や肉製品の製造・加工・販売を手がける事業です。生乳を生産する市川牧場の子会社化は、この乳製品・食品製造領域を川上から強化する位置づけといえます。
今後の予定
契約締結、対象会社の臨時株主総会(定款変更・株式転換)、普通株式1,000株の取得実行、常時従事役員予定者への普通株式譲渡は、いずれも2026年9月30日を予定しています。フジタは本件による2027年3月期の連結業績への影響を軽微と見込む一方、中長期的には業績向上とアグリビジネス基盤の強化に寄与するとしています。
解説
本件では個人株主6名の全株式をいったんフジタに譲渡したうえで、普通株式の一部を無議決権のA種優先株式に転換し、議決権60%を現場の常時従事役員に委ねる設計がとられました。農地所有適格法人特有の議決権規制と買い手の経済的持分確保を、種類株式と株主間契約の組み合わせで両立させた事例です。現代表の市川博氏が取締役として経営に残る設計は、開示のいう地域社会や農業委員会との調和を保ちながら経営権を移す一つの形といえます。
農業法人の事業承継に限らず、許認可や取引関係の維持を理由に経営者が交代後も一定の関与を続けたい会社では、株式の種類や議決権配分を工夫する余地があります。自社の事業承継やM&Aを検討する際は、株式譲渡の条件交渉に入る前にこうした資本構成の選択肢を専門家と確認しておくことが準備の一つです。具体的な進め方は会社売却の進め方完全ガイドで確認できます。
※本記事は2026年9月16日時点の開示情報に基づいています。最新の状況は当事会社の適時開示をご確認ください。
出典
- 農地所有適格法人である株式会社市川牧場の株式取得(連結子会社化)に関するお知らせ(日本経済新聞 適時開示)
- フジタコーポレーション 2027年3月期第1四半期決算短信(日本経済新聞 適時開示)
- フジタコーポレーション 2027年3月期第1四半期決算補足説明資料(日本経済新聞 適時開示)
- フジタコーポレーション 中期経営計画(2022年3月期〜2026年3月期)
- フジタコーポレーション IR情報

