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農業法人のM&A動向とは?売却相場と承継のポイント

農業法人のM&A動向とは?売却と承継のポイント|M&A Times

「後継ぎがいないまま、この農地をどうするか」——農業の現場でよく耳にする悩みです。家族経営を中心に営まれてきた日本の農業では、経営者の高齢化と担い手不足が同時に進み、事業の継続そのものが難しい農業法人・農家が各地で目立つようになりました。本記事では、統計データに基づく業界の現状と、農業法人のM&Aに特有の制度面の論点を整理します。

業界の構造とM&Aが起こる背景

日本の農業は長らく、家族経営を軸に世代を重ねてきました。しかし後継ぎとなる子や親族が都市部で就職するケースが増え、経営者自身の高齢化とも重なって、事業を続けたくても続けられない農業法人・農家が増えています。

加えて、肥料・燃料・資材の価格高騰や、機械化・大規模化への投資負担も重荷です。個人経営のままでは設備更新や規模拡大の原資を確保しづらく、法人化したうえで外部資本や提携先を受け入れる動きが広がる土壌になっています。

最近の動向

農林水産省が2026年3月に公表した2025年農林業センサス(確定値)によると、2025年2月時点の農業経営体数は83万6千経営体で、5年前から24万経営体(22.3%)減少しました。一方で法人経営体は3万4千経営体と、5年前から10.1%増えています。個人経営から法人経営への転換が、統計の上でも鮮明です。

同センサスによると、個人経営体の基幹的農業従事者の平均年齢は67.7歳で、65歳以上が69.6%を占めます。自園・自社に置き換えれば、経営の中心を担う世代が10年以内に大きく入れ替わる計算です。後継者の有無にかかわらず、承継の準備を先送りできる状況ではありません。

農業法人のM&Aで実際に多いのは、大きく3つのパターンです。1つ目は、後継者がいない法人を地域の同業・周辺農業法人が農地ごと引き継ぐ承継型の統合。2つ目は、食品メーカーや小売・外食など異業種の買い手が原料調達や自社ブランド強化を目的に農業関連企業を子会社化するケース。3つ目は、農地を所有せず賃借権で参入するリース方式による新規参入です。

農地所有適格法人には議決権要件があるため、買い手企業が直接株式を持つのではなく、買い手側の役員個人が株式を譲り受けて常時従事者に就任する形が使われることもあります。

実例:化学専門商社の稲畑産業は2025年1月、グループの食品商社・大五通商を通じて、静岡市で茶の栽培から製造・販売までを一貫して手がける佐藤園の全株式を取得し、子会社化しました。国内外で拡大する抹茶需要を取り込む狙いで、茶園を持つ農業法人を商社グループが直接傘下に迎えた事例であり、農地や製茶工場への投資による生産拡充も計画されています。

この業界のM&Aの特徴

評価の対象になりやすいのは、農地の権利関係が整理されているか、認定農業者などの認定状況、JAや直売先との取引関係、機械・ハウスなどの設備、通販やふるさと納税の返礼品といった販路です。個人の信用に紐づく取引関係も多く、承継後も維持できるかが評価の分かれ目になります。

買収額の目線は、農地そのものの評価だけでなく、認定状況や許認可、取引関係を含めた事業全体で判断されることが多く、一律の相場を示すことは難しいのが実情です。一方で、農業法人のM&Aには他業種にはない制度面の論点が伴います。主なものを整理すると、以下の通りです。

論点内容
農地法3条の許可農地の所有権・賃借権を移転する際は、農業委員会の許可が必要です。許可を得ずに行った譲渡は無効となるため、株式譲渡と併せて農地の権利を動かすスキームでは、審査期間をスケジュールに織り込む必要があります。
農地所有適格法人の要件維持法人形態、事業要件(売上高の過半が農業関連)、議決権要件(農業関係者以外は原則2分の1未満)、常時従事者要件を承継後も満たし続ける必要があります。要件を欠いた状態が続くと、農業委員会から是正を求められ、従わなければ農地の処分にまで発展しかねません。
補助金・交付金の扱い経営体の交代に伴い、経営所得安定対策や機械導入補助金などの交付要件(認定農業者・法人形態等)を満たすかどうかを再確認する必要があります。名義変更の手続きや、要件を満たさない場合の返還義務が生じるケースもあります。
JA・自治体との関係出荷ルート、共同利用施設、農地中間管理機構(農地バンク)を通じた借入地など、JAや自治体との関係は経営者個人の信用に紐づいていることが多く、承継後も関係を維持できるかを事前に確認しておくことが欠かせません。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手にとって

売り手にとって廃業との大きな違いは、農地や機械、販路といった資産が譲渡対価というお金に変わる点です。廃業ではむしろ設備の処分や農地の管理に費用がかかり、後継者不在のままでは農地が耕作放棄地になりかねません。M&Aなら地域の農業生産そのものを次の担い手へつなげられ、従業員の雇用も維持できます。

買い手にとって

買い手にとっては、一から農地を借りて農業経営を軌道に乗せるより、既存の農地の権利関係・出荷ルート・従業員ごと引き継げる方が立ち上がりが早いという利点があります。ただし許認可の引き継ぎと同じく、農地法上の許可手続きや農地所有適格法人の要件維持を怠ると、農地の保有自体を続けられなくなるリスクがある点には注意が必要です。

農業法人の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、農業法人が含まれる大分類「農業・林業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.1倍、四分位範囲4.8〜17.2倍(n=21)でした。なお、農業・林業はサンプル数が少ないため、値のばらつきに特に注意が必要です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.1倍を単純に当てはめると約1.8億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約9,600万円〜約3.4億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、農業法人に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 農業経営体数は5年で22.3%減少した一方、法人経営体は10.1%増加し、法人化・大規模化が進んでいます。
  • 個人経営体の基幹的農業従事者は平均年齢67.7歳、65歳以上が69.6%を占め、承継の準備は先送りできない状況です。
  • 農業法人のM&Aは、農地法3条の許可や農地所有適格法人の要件維持など、他業種にはない制度面の確認が欠かせません。

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