M&Aの交渉が終盤に差し掛かってから、買い手によるデューデリジェンス(DD、買収監査)で簿外債務や許認可の不備が見つかり、譲渡価格が下がったり交渉が破談になったりするケースは珍しくありません。こうした事態を避けるため、売り手自身が事前に自社を調査しておく手法が注目されています。本記事ではセルサイドDD(セラーズDD)の目的・実施項目・費用感を解説します。
セルサイドDDとは
セルサイドDD(セラーズDD、英語ではSell-side Due Diligenceと呼ばれます)とは、会社や事業の売却を検討する売り手が、買い手による調査に先立って自社の財務・法務・労務などを自らの費用で点検する手続きです。例えば、譲渡対価1億円規模の案件で、売り手が事前に未払残業代や許認可の更新漏れを発見し、契約前に是正しておけば、買い手側のDDで同じ問題を指摘されて価格を減額されたり、信頼を損ねて交渉が長引いたりするリスクを抑えられます。
セルサイドDDとバイサイドDDの違い
M&Aで一般的に「DD」と呼ばれるのは、買い手が自社の判断のために行うバイサイドDDです。これに対しセルサイドDDは、売り手が主体となって自ら実施する点が異なります。両者は目的やタイミング、費用負担の面でも性格が異なります。
| 項目 | セルサイドDD | バイサイドDD(通常のDD) |
|---|---|---|
| 実施主体 | 売り手 | 買い手 |
| 目的 | リスクの事前把握・交渉力の強化 | 買収可否の判断・価格算定の裏付け |
| タイミング | 基本合意(LOI)の前後、買い手DDの開始前 | 基本合意の締結後、最終契約の前 |
| 費用負担 | 売り手 | 買い手 |
セルサイドDDで確認する項目
調査対象は財務・法務・労務など多岐にわたり、個別の視点はビジネスDDや法務DDといった各分野のデューデリジェンスの考え方と共通します。主な確認項目は次のとおりです。
- 財務:簿外債務・不良在庫・関係者取引の有無
- 法務:契約書の内容・訴訟リスク・チェンジオブコントロール条項の有無
- 労務:未払残業代・社会保険の加入状況
- 許認可:業種ごとに必要な許認可の有効性・更新状況
- 事業性:業績の持続性・主要取引先への依存度
費用は対象範囲によって幅があり、財務・税務を中心に絞る場合は数十万円程度から、法務・労務まで含める場合は100万円を超えることもあるとされ、会社の規模や調査範囲により変動します。
誰が行うのか(内製と外注)
セルサイドDDは、外部の専門家に依頼するのが一般的です。自社の問題点を自社で洗い出すことには客観性の限界があり、買い手側のDDで「どこを見られるか」を知る専門家の視点が調査の精度を左右するためです。依頼先は分野ごとに分かれ、財務・税務は公認会計士や税理士、法務は弁護士、労務は社会保険労務士が担うことが多く、仲介会社やFAを通じて紹介を受けるケースもあります。
一方、経理・法務部門によるセルフチェック(内製)は費用を抑えられますが、網羅性や客観性に欠け、重大なリスクを見落とすおそれがあります。小規模な案件では、チェックリストによる自己点検で全体を整理したうえで、簿外債務や労務など論点になりやすい分野に絞って専門家のレビューを受ける、といった組み合わせも現実的な選択肢とされます。
実務での意味
売り手にとって
事前に問題点を把握し是正しておくことで、買い手側DDでの指摘による価格減額や交渉決裂を防ぎ、買い手との信頼関係を築きやすくなります。開示情報の精度が高まることで、交渉全体のスピードが上がる効果も期待できます。会社売却に向けた準備全般については、売却準備・磨き上げの進め方もあわせて参考にしてください。
買い手にとって
売り手がセルサイドDDを実施済みの案件は、資料の整理状況や情報開示の質が高く、買い手側のDDが効率的に進みやすい傾向があります。ただし、セルサイドDDはあくまで売り手視点の調査であるため、買い手は自らのバイサイドDDを省略せず実施することが原則です。
まとめ
- セルサイドDDは、売り手が売却前に自社の財務・法務・労務などを自ら点検する手続き
- 買い手が行うバイサイドDDとは、実施主体・タイミング・費用負担が異なる
- 問題点の事前把握により、価格減額や交渉決裂といったリスクを抑えられる
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