M&Aの企業価値評価ではフリーキャッシュフローという指標が土台になります。利益ではなく手元に残る現金の余力を示す点が特徴です。本記事ではフリーキャッシュフローの定義と計算式、M&A実務での使われ方を解説します。
フリーキャッシュフローとは
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、企業が事業活動で生み出した現金のうち自由に使える余剰分を指します。英語のFree Cash Flowを略してFCFと呼ばれます。借入金の返済や新規投資、株主への配当に回せる現金の目安になります。
FCFの計算方法は2通りあります。もっとも簡便な方法は営業キャッシュフロー(本業で得た現金)から投資キャッシュフロー(設備投資などに使った現金)を差し引く方法です。例えば営業CFが5,000万円、投資CFが2,000万円の場合、FCFは3,000万円です。
より厳密な理論式はFCFF(Free Cash Flow to Firm)と呼ばれます。営業利益に税引後の調整を加えて算出する方法です。式は「営業利益×(1−実効税率)+減価償却費−設備投資−運転資本の増加額」です。営業利益8,000万円・実効税率30%・減価償却費1,000万円・設備投資2,500万円・運転資本増加400万円の場合、FCFFは3,700万円になります。
FCFFとFCFEの違い
FCFにはFCFF(企業全体に帰属するキャッシュフロー)とFCFE(株主だけに帰属するキャッシュフロー)の2種類があります。両者は有利子負債の扱いで区別します。
| 指標 | 対象範囲 | 主な用途 |
|---|---|---|
| FCFF | 株主と債権者の両方に帰属する現金(負債の利払い前) | 企業価値(EV)の算定に使用 |
| FCFE | 株主のみに帰属する現金(負債の利払い・返済後) | 株主価値の算定に使用 |
近縁の指標にEBITDA(本業のもうけを示す指標)があります。FCFは投資や運転資本の増減まで反映する点でEBITDAと差があります。
フリーキャッシュフローがマイナスの場合の読み方
FCFがマイナスになる要因は大きく2つに分かれます。ひとつは、売上拡大に向けた設備投資や在庫の積み増しが先行して一時的に現金が流出する「成長投資型」。もう一つは、本業の収益力そのものが弱まり継続的に現金が不足する「資金繰り悪化型」です。
両者の見分け方は営業CFの水準です。営業CFが安定して稼げているなら成長投資型、営業CFそのものが細っているなら資金繰り悪化型の可能性があります。決算上の利益が出ていても現金が不足する状態が黒字倒産ですが、これは資金繰り悪化型のFCFマイナスと関係が深いテーマです。
M&A実務での意味
フリーキャッシュフローはM&Aの現場で買い手・売り手双方にとって重要な指標です。それぞれの視点を確認します。
買い手にとって
買い手にとってFCFは企業価値評価の出発点です。DCF法では将来のFCFを予測し現在価値に割り引いて企業価値を算定します。買収資金を借入で調達する場合はFCFが返済原資になります。買収後にFCFを安定して確保できるかは審査の重要な論点です。
売り手にとって
売り手にとってFCFの改善は譲渡価格の向上に直結します。営業利益の拡大だけでなく不要な設備投資の見直しや在庫の圧縮でも改善できます。企業価値評価の場面でFCFの水準と持続性が問われるため、譲渡前からの改善に価値があります。
まとめ
- フリーキャッシュフローは企業が自由に使える手元現金を示す指標
- 計算式は簡便法(営業CF−投資CF)と理論式(FCFF)の2通り
- マイナスの場合は成長投資型か資金繰り悪化型かを営業CFの水準で見分ける

