「後継者に自社株式を集中させたいが、相続税の納税資金や少数株主からの買い取り資金をどう用意すればよいか」と悩む経営者は少なくありません。会社が株主から自社の株式を買い取る金庫株(自己株式の取得)は、こうした資金確保の手段として事業承継でも活用されています。本記事では金庫株の基本と事業承継での使い方、課税の原則と相続時の特例、実務上の注意点を解説します。
結論:金庫株は納税資金確保と株式集約に使える手段
金庫株とは、会社が株主から自社の発行済株式を買い取り、自己株式として保有することをいいます。事業承継では、相続で取得した自社株を後継者が発行会社に売却して相続税の納税資金を確保する場面や、分散した少数株主の株式を会社が買い戻して議決権を集約する場面で使われます。本記事は、相続や株式分散を背景に自社株の取り扱いを検討する経営者・後継者向けに解説します。事業承継税制の納税猶予とは適用される場面が異なるため、あわせて事業承継税制とはも確認しておくと理解が深まります。
金庫株の基本と財源規制
会社が自己株式を取得するには、原則として株主総会の決議で譲渡人・取得株式数・対価の総額の上限などを定める必要があります。取得できる金額には上限があり、会社法は剰余金の配当と自己株式の取得をあわせて分配可能額の範囲内に制限しています(会社法461条)。分配可能額を超えて取得すると、業務執行者等が会社に支払義務を負う場合があるため、実行前に決算内容から分配可能額を確認しておく必要があります。
中小企業の多くは株式に譲渡制限を付けているため、株主から会社への譲渡には株主総会や取締役会の承認手続きも別途関わります。手続きの詳細は会社の定款により異なるため、司法書士や弁護士に確認しながら進めると安心です。
事業承継で金庫株を使う場面
事業承継で金庫株が活用される典型的な場面は、大きく2つあります。
- 相続税の納税資金の確保:後継者が相続で取得した自社株式を発行会社に売却し、換金しにくい非上場株式を現金化して納税資金に充てます
- 分散した株式の集約:先代経営者の兄弟姉妹や古い株主に分散した少数株式を会社が買い戻し、後継者の議決権比率を高めます
いずれの場面も自社株式を発行会社が買い取るという点は共通していますが、課税の扱いは相続で取得した株式かどうかで変わります。次の章で、原則的な課税と相続時の特例を分けて解説します。
課税の原則とみなし配当、相続時の特例
個人株主が自己株式を発行会社に譲渡し、対価の額がその株式に対応する資本金等の額を超える場合、超える部分は「みなし配当」として配当所得になります。みなし配当は原則として総合課税の対象となり、他の所得と合算した上で超過累進税率が適用されるため、住民税とあわせて最大55%程度の税負担になり得ます。
ただし、相続で取得した非上場株式を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社へ譲渡した場合には、一定の要件のもとみなし配当課税を行わず、譲渡対価の全額を株式の譲渡所得の収入金額とする特例があります(租税特別措置法9条の7)。この特例が適用されると、譲渡益には申告分離課税20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)が課され、総合課税より税負担を抑えられる場合があります。適用には、譲渡の時までに「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を発行会社に提出し、発行会社が譲渡年の翌年1月31日までに税務署へ提出する手続きが必要です。
| 区分 | 適用要件 | 税率・課税方式 |
|---|---|---|
| 原則(みなし配当) | 発行会社への自己株式譲渡全般 | 総合課税(配当所得、超過累進税率) |
| 相続時の特例(措置法9条の7) | 相続開始日翌日から相続税申告期限翌日以後3年以内に発行会社へ譲渡等 | 申告分離課税20.315%(みなし配当課税なし) |
また、この特例とあわせて活用できるものに相続税の取得費加算の特例(租税特別措置法39条)があります。相続税額の一定額を株式の取得費に加算できる制度で、適用期限は取得費加算の特例も同じく相続税申告期限の翌日以後3年以内です。取得費が増えると譲渡所得の計算上の利益が圧縮され、結果として税負担を抑えられます。両特例とも期限管理と要件確認が重要なため、早い段階で税理士に相談することをおすすめします。
よくある失敗と注意点
- 分配可能額を超えて金庫株を取得することはできません。決算後に業績が悪化すると取得できる金額が縮小するため、事前に最新の分配可能額を確認します
- 発行会社への譲渡は原則みなし配当課税です。相続株式の特例は3年以内の譲渡と届出書の提出が要件のため、期限を過ぎると総合課税に戻ります
- 買い取り価格が税務上の時価と大きく乖離すると、贈与や寄附とみなされる課税リスクがあります。評価の考え方は自社株評価の基礎を参照してください
- 会社の資金繰りへの影響も考慮が必要です。金庫株以外の資金調達もあわせて検討する場合は事業承継の資金調達方法が参考になります
- 専門家への相談・手続き費用は案件の規模や内容により異なり、継続的な報酬が発生することもあります。契約前に見積もりを確認しましょう
まとめ
- 金庫株(自己株式の取得)は、相続時の納税資金確保や分散した少数株式の集約に使えます
- 発行会社への譲渡は原則みなし配当課税(総合課税)ですが、相続株式は3年以内の譲渡等の要件を満たせば申告分離課税20.315%になる特例があります
- 財源規制・評価・期限管理は専門的な判断が必要なため、実行前に税理士等の専門家に確認しましょう
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