親から子へ自社の株式を引き継ぐ場面で、多くの経営者が悩むのが税負担です。非上場株式であっても評価額次第では贈与税・相続税が高額になり、後継者の資金繰りを圧迫することがあります。本記事では、親族内承継を前提に、自社株を生前贈与で引き継ぐ際の課税方式の選び方と、税負担を抑えるための考え方を解説します。
後継者がまだ決まっていない場合や、承継の選択肢自体を検討している場合は、先に事業承継の選択肢まとめ|親族内・従業員・M&Aの3つの道を比較をご覧いただくと全体像がつかみやすくなります。
結論
自社株は評価額が高くなりやすく、贈与方式の選択と株価を下げる対策が後継者の税負担を大きく左右します。暦年課税と相続時精算課税のどちらを選ぶか、そして生前にどこまで株価対策を行うかが、実務上のポイントです。以下で順に整理します。
なぜ自社株の承継が課題になるのか
非上場株式は市場で売買されないため、贈与税・相続税の計算では財産評価基本通達に基づく方法で評価額を算定します。長年利益を積み上げた会社ほど、純資産価額や類似業種比準価額が高くなり、株価評価額が想定以上に大きくなることがあります。後継者は株式から現金を得られるわけではないのに、評価額に応じた税負担を負う点が、自社株承継特有の難しさです。詳しい評価の考え方は自社株評価の基礎|事業承継で知っておきたい非上場株式の評価方法で解説しています。
贈与税の2つの課税方式
自社株を生前贈与する場合、贈与税の課税方式として暦年課税と相続時精算課税のいずれかを選択します。両者は控除額・税率・相続時の扱いが異なるため、比較したうえで選ぶことが重要です。
| 項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 対象者 | 制限なし | 原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫 |
| 控除額 | 毎年110万円(基礎控除) | 累計2,500万円(特別控除)に加え、2024年以降の贈与には年110万円の基礎控除も新設 |
| 控除超過分の税率 | 累進税率(最大55%) | 一律20% |
| 相続時の扱い | 相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算(生前贈与加算。期間は段階的に7年へ延長中) | 基礎控除を除き、贈与財産は相続財産に合算して精算 |
| 一度選択すると | 継続して利用可能 | 同じ贈与者からの贈与について暦年課税へは戻れない |
暦年課税は、受贈者ごとに毎年110万円の基礎控除の範囲内であれば贈与税がかからず、複数年に分けて贈与すれば税負担を抑えやすい方式です。ただし、贈与者が死亡すると、相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算して相続税を計算する「生前贈与加算」という仕組みがあります。この加算対象期間は2024年1月1日以後の贈与から段階的に延長されており、2026年までの相続は相続開始前3年以内が対象ですが、2031年1月1日以後の相続からは相続開始前7年以内が対象となる見込みです。延長分については、経過措置として総額100万円までは加算しない扱いが設けられています。
一方、相続時精算課税は、累計2,500万円までの特別控除枠内であれば贈与税がかからず、超過部分にも一律20%の税率が適用されます。2024年1月1日以後の贈与からは、この特別控除とは別に年110万円の基礎控除が新設され、基礎控除の範囲内の贈与は贈与税がかからないうえ、相続財産にも加算されません。ただし、いったん選択すると、同じ贈与者からの贈与についてはその後は暦年課税に戻せない点に注意が必要です。どちらが有利かは株価水準や贈与のタイミングで変わるため、個別のシミュレーションが欠かせません。
自社株の評価を下げる工夫
税負担は株価評価額に比例するため、評価額そのものを引き下げる対策もあわせて検討する価値があります。代表的な考え方として、役員退職金の支給などで一時的に利益・純資産を圧縮する方法、持株会社を設立して株式の保有構造を組み替える方法などが挙げられます。具体的なスキームは持株会社(ホールディングス)を活用した事業承継スキームで解説しています。株価対策は会社の財務状況や事業計画に影響するため、実行前に必ず税理士へ相談してください。
事業承継税制はM&A売却には使えない
自社株の承継に関連してよく話題になるのが事業承継税制(納税猶予)です。この制度は、贈与・相続によって自社株を後継者へ承継する場合に、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税が猶予される仕組みです。有償で会社を第三者へ売却するM&Aには適用されません。また、納税猶予の適用を受けた後に対象株式を譲渡した場合、猶予されていた税額の納付を求められる(取消事由に該当する)ことがある点にも注意が必要です。適用要件や手続きの詳細は事業承継税制とは?贈与税・相続税の納税猶予の仕組みを解説をご確認ください。
専門家への相談
暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かは、株価水準や贈与のタイミングなどで変わるため、実行前に税理士へ相談し、複数年のシミュレーションを行うことが望ましいです。顧問税理士がいない場合は、中小企業庁の委託を受けた公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターが原則無料で相談を受け付けており、入り口として活用できます。税理士報酬は事案により異なるため、見積もりは相談時に確認してください。
まとめ
- 自社株は評価額が高くなりやすく、贈与税・相続税の負担が後継者の資金繰りを圧迫することがある
- 暦年課税と相続時精算課税は控除額・税率・相続時の加算ルールが異なり、状況に応じた選択が重要
- 事業承継税制はあくまで贈与・相続による承継が対象で、M&A売却には使えない
次に読む
- 自社株評価の基礎:贈与・相続の課税額を決める株価評価の考え方を詳しく知りたい方はこちら
- 事業承継税制:納税猶予とあわせた税負担の検討をしたい方はこちら
- 持株会社を活用した事業承継スキーム:株価対策の代表的なスキームを知りたい方はこちら

