中小企業の株主名簿を確認すると、実際に出資した人と名簿上の株主が食い違っているケースが少なくありません。これが名義株で、放置すると相続や事業承継、M&Aの場面で思わぬ紛争のもとになります。本記事では、名義株の定義と生まれた歴史的な経緯、放置するリスク、解消の方法を解説します。
名義株とは
名義株とは、株主名簿上の名義人と、実際に出資し株式を保有する実質的な株主とが異なる株式のことです。英語では「nominee shares」と呼ばれることがあります。会社の設立時や増資の際に、資金を出した本人ではなく別の人物の名前で株式を引き受けた場合に生じます。
たとえば発行済株式1,000株のうち200株について、友人5名の名前で株式を引き受けてもらい、払込みは創業者が全額行ったとします。名簿上の株主は友人5名ですが、実際に配当を受け取り議決権を行使しているのが創業者であれば、この200株は名義株にあたります。
なぜ名義株が生まれたのか
名義株が広く生じた背景には、平成2年(1990年)の商法改正前は株式会社の設立に発起人が7名以上必要だったという制度があります。当時は発起人各自が最低1株を引き受ける義務があり、資金を用意できない創業者が身内や友人から名義だけを借り、実際の払込みは自分で行うケースが少なくありませんでした。
- 会社設立時に発起人の人数要件を満たすため、身内や友人の名義を借りた
- 相続税・贈与税を意識し、あえて親族名義に株式を分散させた
- 増資の際に、資金負担を避けるため名義だけを借りた
平成2年の改正で発起人数の下限は撤廃されましたが、設立時に生じた名義株がそのまま株主名簿に残り続けている会社は珍しくありません。
実務での意味
経営者・後継者にとって
名義株を放置すると、まず相続の際に誰の財産かをめぐって紛争になるリスクがあります。名義人が死亡すると、その相続人が「自分たちの株式だ」と主張し、実質株主との間でトラブルになることがあるためです。また、名義株であったことを裏付ける資料(払込みの記録や配当の受領実績など)が残っていないと、名義変更が贈与と扱われて贈与税が課される可能性もあります。解消には、名義人本人に実質株主が誰であるかを認めてもらう確認書に、実印で署名してもらう方法が一般的です。
買い手・M&Aの視点から
M&Aでは、法務デューデリジェンス(DD)で株主構成の正確性が必ず確認され、名義株の存在は高い確率で指摘の対象になります。最終契約書に含まれる表明保証条項には株主名簿の正確性が含まれるのが通例で、名義株を開示せず後から発覚すると、損害賠償を求められるおそれがあります。
解消の実務は、名義人との合意書作成や、名義株の買い取りが中心です。合意書の作成や買い取り価格の妥当性は弁護士、贈与税など税務上の判断は税理士に相談するのが一般的です。買い取り価格を検討する際は、自社株評価の考え方が参考になります。
名義人の協力が得られない場合は、弁護士に依頼して訴訟による株主名簿の書き換えを検討することになります。専門家への報酬は継続的に発生することもあるため、依頼前に見積もりを確認しておくと安心です。
まとめ
- 名義株は株主名簿上の名義人と実質株主が異なる株式で、旧商法の発起人7名要件を背景に多くの会社で生じました。
- 放置すると相続時の紛争や贈与税課税、M&AのDDでの指摘・表明保証違反のリスクがあります。
- 解消には名義人との合意・確認書の取得、または買い取りが必要で、弁護士・税理士への相談が有効です。
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