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インサイダー取引とM&A|公表前情報の取り扱いに注意

インサイダー取引とM&A|公表前情報の取り扱いに注意|M&A Times

「M&Aの話が進んでいるが、この情報を誰にどこまで話していいのか」——買収提案を受けた企業の経営者からも、上場企業の株主や取引先からも、こうした戸惑いの声を聞くことがあります。

M&A、特に上場企業が関わる案件は、株価に大きな影響を与える情報を扱うため、金融商品取引法が定めるインサイダー取引規制と隣り合わせの領域と考えられます。未上場企業の経営者であっても、上場企業との交渉や自社株主とのやり取りの中で、この規制と無縁ではいられない場面があります。

なぜM&Aの現場でインサイダー取引が問題になるのか

M&Aの交渉、とりわけ上場企業が買い手・売り手となる案件では、株価に影響を与えうる情報が早い段階から関係者の間で共有されます。交渉は数か月から1年以上に及ぶことも珍しくなく、その間に経営陣・仲介者・専門家など多くの関係者が情報に触れることになります。こうした状況は、金融商品取引法が定める会社関係者による内部者取引の禁止と密接に関わっていると考えられます。

インサイダー取引規制の基本的な枠組み

金融商品取引法166条は、上場会社の役員や従業員などの会社関係者が、職務等に関して知った重要事実の公表前に、その会社の株式等を売買することを禁止しています。重要事実には、業績予想の修正や災害による損害だけでなく、合併や株式交換などの決定事実も含まれます。さらに、会社関係者から情報を伝え聞いた情報受領者が公表前に売買を行うことも、同様に規制の対象とされています。

上場企業に対する公開買付け(TOB)が絡む場面では、金融商品取引法167条が別途の規制を設けている点も押さえておきたいところです。公開買付け等の実施または中止に関する事実を知った関係者が、公表前にその上場会社の株式等を売買することは禁止されています。加えて、情報を伝達したり売買を推奨したりする行為そのものを規制する情報伝達・取引推奨規制(167条の2等)も設けられており、口頭で話しただけでも対象になり得る点に注意が必要です。

違反した場合、個人には5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金(併科されることもあります)、法人には5億円以下の罰金が科される可能性があります。あわせて、得た利益相当額を国庫に納付する課徴金納付命令の対象にもなります。課徴金は刑事罰ではなく、市場の公正性を確保するための行政上の措置として位置づけられています。

M&Aの交渉が規制と交差する具体的な場面

M&Aでインサイダー取引が問題になりやすい背景には、交渉期間の長さ、関係者の多さ、株価インパクトの大きさがあると考えられます。特にTOBは成立が公表された瞬間に株価が大きく動くため、規制の目が向きやすい取引類型です。未上場企業の経営者であっても、この規制と無縁ではいられない場面があります。

たとえば、自社が上場企業への売却を交渉している最中に、相手企業の株式を売買すれば、規制の対象になり得ます。また、交渉の事実を取引先や知人に話し、それが情報伝達や取引推奨とみなされれば、伝えた側も責任を問われる可能性があります。トップ面談のような初期段階から、こうした情報の扱いには注意が必要と考えられます。

実務への示唆

実務上の対応としては、まず情報に触れる関係者を必要最小限に限定することが基本になります。社内外の関係者リストを作成し、案件をコードネームで管理する運用は、M&A実務で広く行われています。関係者との間で秘密保持契約(NDA)を締結し、口頭を含めた情報の取り扱い範囲を明確にしておくことも欠かせません。

加えて、交渉期間中は自社株式および相手企業株式の売買を役員・関係者に控えてもらう社内ルールを設けておくと、疑義を未然に防ぎやすいと考えられます。上場企業との交渉では、相手方の情報管理部門とも連携し、公表のタイミングをすり合わせておくことが望ましいでしょう。こうした運用は特別なものではなく、基本合意書(LOI)の締結前後から段階的に整えていくのが実務的と考えられます。

まとめ

  • インサイダー取引規制は、会社関係者・情報受領者が重要事実の公表前に売買することを禁じる制度です
  • TOBを含むM&Aは交渉期間・関係者数・株価インパクトの面から規制と交差しやすい取引類型です
  • 関係者の限定・コードネーム管理・NDA・売買自粛といった情報管理の実務が、未上場企業の経営者にも求められます

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