「自分が持っている非上場株式を現金化したいが、どこに売ればいいのか分からない」。そう感じているオーナー経営者や少数株主は少なくありません。上場株式と違い、非上場株式は証券取引所で自由に売買できないため、売却先を自分で見つける必要があります。本記事では、非上場株式の売却先の種類と、それぞれの価格の決まり方・税金の基本を解説します。
本記事は、会社の株式を保有するオーナー経営者や少数株主が、その株式を現金化したい場面を想定して解説します。会社そのものを売却する具体的な進め方を知りたい場合は、会社売却の進め方完全ガイドもあわせてご確認ください。
非上場株式の売却先は3パターン
非上場株式は、不特定多数の投資家が参加する市場では売却できません。売却先は、①発行会社自身、②他の株主や第三者、③会社ごとのM&Aによる譲渡先、の3パターンに整理できます。どれを選べるかは、保有株式に譲渡制限が付いているか、会社の経営権を握るオーナーか少数株主かによって変わります。まずは3パターンの違いを一覧で確認しましょう。
3つの売却先を比較
それぞれの売却先について、方法・税金の扱い・主な手続きを比較すると、以下のようになります。
| 売却先 | 方法 | 課税の扱い | 主な手続き |
|---|---|---|---|
| ①発行会社への売却 | 発行会社が自社の株式を買い取る(自己株式取得・金庫株) | 対価のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当(総合課税)、残りは譲渡所得 | 分配可能額の範囲内であることなど会社法上の財源規制、株主総会決議 |
| ②他の株主・第三者への譲渡 | 既存株主や第三者が株式を買い取る | 譲渡所得として申告分離課税(税率20.315%) | 譲渡制限株式の場合は会社の譲渡承認手続き(会社法136条以下) |
| ③会社ごとM&Aで売却 | オーナーが保有株式の全部を買い手に譲渡(株式譲渡スキーム) | 譲渡所得として申告分離課税(税率20.315%) | 株式譲渡の手続きを含むM&Aプロセス一式 |
①発行会社への売却(自己株式取得)
発行会社が株主自身から株式を買い取る方法を自己株式取得(金庫株)といいます。会社が保有する現金で株式を買い戻すため、外部の買い手を探す必要がなく、オーナーの意思だけで話を進めやすい点が特徴です。ただし会社法上、分配可能額の範囲内でしか実行できないなどの財源規制があります。詳しい活用法は金庫株(自社株買い)を活用した事業承継で解説しています。
税務上の注意点は、対価の一部がみなし配当として扱われることです。株主が受け取る金額のうち、会社の資本金等の額に対応する部分は株式の払い戻しとして譲渡所得になりますが、それを超える部分は配当とみなされ総合課税の対象になります。総合課税は他の所得と合算される仕組みのため、譲渡所得の分離課税より税負担が重くなるケースがあります。
②他の株主・第三者への譲渡
非公開会社の株式には多くの場合定款で「譲渡には会社の承認を要する」と定められているため譲渡制限が付いています。この場合株主は会社に対して譲渡承認請求を行い、取締役会設置会社なら取締役会、非設置会社なら株主総会の承認を得る必要があります(会社法136条以下)。
会社が譲渡を承認しない場合は、会社自身または会社が指定する買取人が株式を買い取る仕組みが用意されています。手続きの具体的な流れは譲渡制限株式の承認手続きで解説していますので、あわせてご確認ください。
③会社ごとM&Aで売却
オーナー経営者が保有株式の全部または過半数を買い手企業に譲渡し、会社ごと売却する方法です。中小企業のM&Aではこの株式譲渡スキームが最も多く使われています。買い手候補の選定からデューデリジェンス、株式譲渡契約の締結まで、一連のM&Aプロセスを経て実行されます。
手続きの流れや必要書類は株式譲渡の手続きと流れで詳しく紹介しています。オーナー1人の意思で決められる自己株式取得と異なり、買い手企業との交渉や合意形成に一定の期間がかかる点は押さえておく必要があります。
価格はどう決まるか
非上場株式には市場価格がないため、売却先に応じて異なる基準で価格が決まります。相続税や贈与税を計算する際に使う相続税評価額と実際の売買で使われる時価は、前提や算定方法が異なるため必ずしも一致するとは限りません。会社ごとのM&Aでは純資産法やDCF法など複数の評価アプローチを組み合わせて交渉することが一般的となります。
価格の決まり方や評価方法をさらに詳しく知りたい場合は後述の「次に読む」もあわせてご覧ください。自社の株価がどの水準にあるかを把握することが、売却先を検討する出発点になります。
税金の基本
他の株主・第三者への譲渡や会社ごとのM&Aで売却した場合、譲渡所得は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算します。取得費が不明な場合は、譲渡価額の5%相当額を取得費とみなす概算取得費の制度もあります。
税率は申告分離課税で20.315%で、内訳としては所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%になります。給与所得など他の所得とは合算せず、単独で税額を計算します。
一方、発行会社への売却では対価のうち資本金等の額を超える部分がみなし配当となり、譲渡所得とは別の配当所得として総合課税されます。総合課税は所得が大きいほど税率が上がる累進課税のため、どちらの売却先を選ぶかで手取り額が変わる可能性があります。税額の試算は個別の状況によって大きく異なるため、税理士など専門家に確認することをおすすめします。
よくある失敗・注意点
- 譲渡制限を確認せずに買い手と合意してしまう:定款で譲渡制限が付いている株式は、会社の承認を得られなければ譲渡の効力が生じません。交渉前に定款と株主名簿を確認しましょう。
- みなし配当の税負担を見落とす:発行会社への売却は総合課税になる部分があるため、譲渡所得だけを前提に手取り額を見積もると想定より少なくなることがあります。
- 相続税評価額と時価を混同する:相続税評価額はあくまで相続・贈与の課税目的の評価であり、第三者との実際の売買価格とは前提が異なります。
まとめ
- 非上場株式の売却先は①発行会社、②他の株主・第三者、③会社ごとのM&Aの買い手、の3パターンに整理できる
- 発行会社への売却はみなし配当(総合課税)、それ以外は譲渡所得(申告分離課税20.315%)と課税の扱いが異なる
- 価格の決まり方や税額の試算は個別事情の影響が大きいため、原則として専門家への相談を検討する
次に読む
- 譲渡制限株式の承認手続き|会社の承認を得る流れ:他の株主や第三者に譲渡する場合の、会社への承認請求から買取りまでの流れを詳しく解説します。
- 自社株評価の基礎|事業承継で知っておきたい非上場株式の評価方法:価格がどのように決まるかを、評価方式ごとに掘り下げて解説します。
- みなし配当とは?発生するケースと税金の計算方法:発行会社に株式を売る場合の税務論点と計算例はこちら。

