会社の売却価格を考えるとき、まず思い浮かぶのは「今の会社の財産はいくらか」という視点ではないでしょうか。決算書の純資産をそのまま使わず、資産・負債を実際の価値(時価)に置き換えて計算し直す方法が「時価純資産法」です。企業価値評価の手法の一つで、特に中小企業の売買では実務上よく使われます。本記事では時価純資産法の考え方・計算方法・メリットとデメリットを解説します。
時価純資産法とは
時価純資産法とは、貸借対照表上の資産と負債をそれぞれ時価で評価し直し、その差額(時価純資産)を株式価値とみなす評価方法です。「修正純資産法」とも呼ばれます。英語では net asset value method と表現されることがあります。
帳簿上の純資産は取得時の価格(簿価)をもとにしているため、不動産の値上がりや退職給付債務の未計上分など、時価との差(含み損益)が反映されていないことが多くあります。時価純資産法では、この含み損益を帳簿純資産に加減算して、より実態に近い純資産額を求めます。
簡単な計算例を示します。ある会社の帳簿上の純資産が5,000万円だったとします。保有する土地の含み益が2,000万円、退職給付引当金の不足(簿外債務)が500万円あった場合、時価純資産は次のように計算します。
- 帳簿純資産:5,000万円
- 土地の含み益:+2,000万円
- 簿外債務(退職給付引当金不足):▲500万円
- 時価純資産:5,000+2,000-500=6,500万円
この6,500万円が、時価純資産法による株式価値の目安となります。
企業価値評価の3つのアプローチと時価純資産法の位置づけ
企業価値評価の手法は、大きく3つのアプローチに分類されます。時価純資産法は、このうちコストアプローチの代表的な手法です。
| アプローチ | 考え方 | 代表的な手法 |
|---|---|---|
| コストアプローチ | 現在の資産・負債の時価をもとに評価 | 時価純資産法 |
| インカムアプローチ | 将来生み出すキャッシュフローをもとに評価 | DCF法 |
| マーケットアプローチ | 類似する上場企業・取引事例と比較して評価 | マルチプル法 |
コストアプローチは「今ある財産」を基準にするため客観性が高い一方、インカムアプローチやマーケットアプローチは「将来どれだけ稼ぐ力があるか」を反映しやすいという特徴があります。この違いが、後述するメリット・デメリットにつながります。
時価純資産法のメリット・デメリット
| 内容 | |
|---|---|
| メリット | 決算書をベースに算定するため客観性が高く、算定過程も比較的分かりやすいこと |
| メリット | 清算価値に近い、いわば「最低限の価値」を確認できること |
| デメリット | 将来の収益力(成長性・稼ぐ力)を評価に反映しにくいこと |
| デメリット | ブランド力や顧客基盤など、貸借対照表に表れない無形の価値(のれん)を捉えにくいこと |
特にデメリットの面は重要です。好業績で将来性のある会社ほど、時価純資産法だけでは実態より低い評価になりやすいとされます。そのため中小企業のM&Aでは、時価純資産法を土台にしつつ、営業権(のれん)を加味した「年買法」に近い実務が広く使われています。これは時価純資産に、EBITDAや営業利益の数年分を営業権として上乗せする考え方です。
実務での意味
買い手にとって
買い手にとって時価純資産法は、対象会社の「財産的な裏付け」を確認する手段になります。過大な評価を避けるための下支えの基準として使われることが多く、デューデリジェンスで判明した簿外債務や資産の減価も反映しやすいという利点があります。一方で、将来の収益力を過小評価しないよう、他の手法と併用して総合的に判断することが一般的とされます。
売り手にとって
売り手である中小企業のオーナー経営者にとっては、時価純資産法だけで算定された金額は、これまで築いてきた事業の将来性や取引先との関係性が反映されにくく、物足りなく感じられることがあります。営業権(のれん)分の上乗せ交渉の余地があることを理解したうえで、複数の評価手法の結果を比較しながら希望価格の根拠を整理しておくことが望ましいといえます。
まとめ
- 時価純資産法は、資産・負債を時価評価し直した純資産を株式価値とするコストアプローチの代表手法
- 客観性が高い一方、将来の収益力やのれんを反映しにくいという弱点がある
- 中小M&Aでは時価純資産に営業権(のれん)数年分を加える実務が広く使われている

