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クリーニング業界のM&A動向と売却相場

クリーニング業界のM&A動向と売却のポイント|M&A Times

「昔からのお客様はいるが、店を継ぐ人がいない」。町のクリーニング店を営む経営者から、こうした声を聞く機会が増えています。クリーニング業界では店舗数の減少と経営者の高齢化が同時に進み、廃業ではなくM&Aで事業を託す動きが目立つようになりました。本記事では統計と実例をもとに、クリーニング業界のM&A動向と売却のポイントを解説します。

業界の構造とM&Aが起こる背景

クリーニング業は、店主自らが集配・仕上げ・接客までを担う家族経営の店舗が大半を占める業界です。クリーニング所の開設は保健所への届出制で、洗たく物の処理を行うクリーニング所ごとにクリーニング師(国家資格)を置く必要があります。高齢の店主が引退すると、有資格者を新たに確保できず営業を続けられなくなるケースが少なくありません。

需要面でも逆風が続いています。ビジネスカジュアルの浸透やテレワークの定着、家庭用洗濯機・乾燥機の高機能化により、スーツやワイシャツをクリーニングに出す機会そのものが減っているのです。一方で溶剤や資材、光熱費の値上がりは続いており、値上げに踏み切れば客足が鈍るという価格転嫁の難しさも重なります。単独での存続は年々厳しくなっていると言えるでしょう。

最近の動向

厚生労働省の「令和6年度衛生行政報告例の概況」によると、2024年度末時点のクリーニング所数(取次所・無店舗取次店を含む)は69,855施設で、前年度から3,081施設(4.2%)減少しました。2020年度の83,700施設と比べると4年間で16.5%減っており、店舗網の縮小基調が続いていることがわかります。自店の商圏でも、近隣の同業が店を閉じたと感じる経営者は多いはずです。

経営の悪化も鮮明です。帝国データバンクの調査(2025年1〜9月)によると、クリーニング店の倒産は18件、休廃業・解散は34件の合計52件にのぼりました。同調査は、テレワーク普及やカジュアル化による需要減少に加え、洗剤やハンガーなどの資材・燃料費の高騰、そして値上げに慎重にならざるを得ない価格構造を背景として挙げています。

こうした状況を受け、M&Aの主役となっているのはオーナー高齢化を背景にした事業承継型の第三者承継です。買い手の中心は、同業の大手クリーニンググループが地域トップクラスの同業を取得して店舗網を広げるロールアップで、法人契約や工場設備、集配ルートをそのまま引き継ぐ形が一般的です。加えて、物流やリネンサプライなど周辺事業を持つ企業が、生活支援分野への多角化を目的にクリーニング会社を取得する異業種の買い手によるM&Aも見られます。

実例:2021年11月、物流大手のセンコーグループホールディングス(東証プライム上場)は、岡山県を拠点に中四国・兵庫県で店舗を展開するダイヤクリーニングの全株式を取得し、子会社化しました。ダイヤクリーニングはその後も店舗網を維持・拡大しており(2025年3月時点で186店舗)、生活支援サービスの拡充を狙う事業会社によるクリーニング業買収の代表例といえます。

この業界のM&Aの特徴

クリーニング業のM&Aでは、店舗そのものより継続的な収益を生む資産が評価の中心になります。以下のような資産は買い手が独自に築くのが難しく、価値が認められやすいポイントです。

資産買い手が重視する理由
集配ルート・法人契約ホテル・病院・アパレル企業等との継続契約は新規開拓が難しく、即座に収益へ直結するため
クリーニング工場・設備新設には多額の投資と稼働までの準備期間が必要で、稼働中の設備は時間を買う効果があるため
取次店網商業施設内・駅前などの好立地は代替が利きにくく、集客チャネルとして機能するため
クリーニング師などの有資格者資格保有者の確保自体が難しく、技術継承の受け皿として評価されるため

スキームは株式譲渡が中心です。株式譲渡であれば法人格がそのまま存続するため、クリーニング所の届出も引き継がれます。一方、事業譲渡で特定の店舗網だけを譲り渡す場合は、譲受側が改めて保健所へ届出を行う必要があります(M&Aで許認可は引き継げる?スキーム別の注意点も参照)。バリュエーションは稼働率や法人契約の比率、設備更新の要否によって変化します。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手にとって

売り手にとって廃業との大きな違いは、お金の流れです。M&Aで売却すれば工場設備や集配ルート、法人契約といった資産が譲渡対価というお金に変わりますが、廃業ではむしろ設備の処分費用や預かり品の対応にコストがかかり、築いてきた資産が負担に変わります。従業員の雇用や顧客との関係を残せる点も、廃業にはない利点です。廃業とM&A売却の比較も参考に、早めに選択肢を整理しておくとよいでしょう。

買い手にとって

買い手にとっては、店舗網とクリーニング師などの人材を一度に確保できる点が魅力です。新規出店には物件取得や設備投資、有資格者の採用など時間がかかりますが、M&Aであれば稼働中の拠点をそのまま事業に組み込めます。一方で、設備の老朽化や環境規制への対応状況、法人契約の継続条件などは、デューデリジェンスでの丁寧な確認が欠かせません。

クリーニング業の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、クリーニング業が含まれる大分類「生活関連サービス業・娯楽業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.5倍、四分位範囲5.8〜18.2倍(n=102)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値5.1倍(n=72)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.5倍を単純に当てはめると約1.9億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.2億円〜約3.6億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、クリーニング業に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • クリーニング所数は4年間で16.5%減少するなど、業界の縮小と経営者の高齢化が同時に進んでいる
  • M&Aの中心は同業によるロールアップと異業種による多角化で、集配ルートや法人契約、工場設備が評価される
  • 売り手は廃業を避けて雇用と顧客を残せ、買い手は店舗網と人材を短期間で獲得できる

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