経営する管工事会社をどう次の世代に引き継ぐか、悩んでいる経営者は少なくありません。給排水衛生設備や空調設備の配管を担う管工事業は、生活とインフラを支える一方で人手不足と経営者の高齢化が進んでいます。近年はM&Aによる第三者承継が現実的な選択肢として広がっています。
業界の構造とM&Aが起こる背景
管工事業は建設業許可29業種の一つで、給排水衛生設備や空調設備の配管工事を担います。国土交通省の調査によると、管工事業の許可業者数は2025年3月末時点で90,483業者です。前年より1,144業者(1.3%)増えていますが、業界の担い手の多くは中小企業で元請からの下請が受注の主体です。
技能者の高齢化も進んでいます。日本建設業連合会が総務省の労働力調査をもとに集計したデータでは、2025年の建設業技能者は296万人で、ピークだった1997年の464万人から4割近く減りました。建設業就業者全体でみると55歳以上が約37%を占め、29歳以下は約12%にとどまり、若手の確保が課題になっています。
こうした状況を背景に、後継者が見つからない経営者が増えています。帝国データバンクの調査では、2025年の建設業の後継者不在率は57.3%で全業種の中で最も高い水準です。前年からは2.0ポイント低下したものの改善は道半ばで、後継者不在率の高さが第三者への承継を後押ししています。
最近の動向
管工事業を含む建設業全体では倒産も増えています。東京商工リサーチの調べでは、2025年の建設業倒産は2,014件で前年比4.6%増え、12年ぶりに2,000件を超えました。同社によると電気工事や管工事などを含む「設備工事業」の倒産は420件を超え、2014年以来11年ぶりの高水準となっています。後継者難による倒産も2026年上半期に264件と過去最多を記録しています。
管工事業のM&Aで買い手となるのは主に3タイプです。1つ目は後継者不在に悩む同業や総合設備会社です。施工エリアや技術者を補いながらロールアップ型の連続買収を進める例が目立ちます。
2つ目はゼネコンや大手設備会社です。下請けの技術者を内製化することで、発注を安定させる狙いがあります。3つ目は人手不足に対応したい異業種です。売り手は事業を譲る相手を探す経営者で、買い手は技術者と許可を確保したい企業という構図が共通しています。
実例:2023年4月、東証スタンダード上場の大成温調は消火設備工事や一般管工事を手がけるウッドテック(千葉県印西市)を完全子会社化しました。ウッドテックの完全親会社をファンドから買い取る形で、売上高20億円規模の同社を傘下に収め首都圏の施工管理機能を強化しています。
この業界のM&Aの特徴
管工事会社のM&Aで評価されやすいのは資格と許可、そして顧客基盤です。1級・2級の管工事施工管理技士や配管技能士などの資格者が複数在籍していれば、大臣許可や特定建設業許可を維持したまま事業を続けられます。元請との継続的な取引関係や公共工事の入札実績も評価対象になります。
典型的なM&Aスキームは株式譲渡による会社ごとの譲渡です。許可を持つ法人を丸ごと引き継ぐため、許認可の承継で空白期間が生じにくくなります。2020年10月に施行された建設業法改正では、事業譲渡や会社分割でも国の認可を受ければ許可を引き継げる制度が新設されました。国土交通省によると、2024年度の事業承継認可件数は1,060件で、このうち譲渡・譲受けが868件と8割を占めています。
売り手・買い手それぞれの視点
売り手の視点
管工事会社が含まれる大分類「建設業」は後継者不在率が全業種で最も高く(前掲の帝国データバンク調査で57.3%)、中小企業白書(2021年版)の調査でも売り手がM&Aを検討したきっかけとして「後継者不在」や「従業員の雇用の維持」が上位に挙がっています。同調査では売り手としてM&Aを実施する際に「従業員の雇用維持」を重視すると回答した経営者が82.7%にのぼり、雇用を引き継げる相手を選べるかどうかが譲渡先選びの中心的な論点になっています。
買い手の視点
買い手にとっては、技術者と許可をまとめて確保できる点が最大の魅力です。求人だけでは増やせない有資格者をM&Aによって一度に獲得できます。一方で技術者の離職リスクや工事品質の把握には時間がかかるため、統合後の体制づくりを丁寧に進める必要があります。
管工事会社の売却相場の目安(実測データ)
中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、管工事会社が含まれる大分類「建設業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値11.6倍、四分位範囲5.9〜22.6倍(n=532)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値5.4倍(n=310)です。
たとえば年間の純利益が2,000万円の管工事会社で考えてみます。中央値11.6倍を単純に当てはめると約2.3億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.2億円〜約4.5億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。
この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、資格者や許可・元請との取引関係が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。
この倍率は大分類全体の集計であり、管工事会社に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。
まとめ
- 管工事業の許可業者数は約9万社で、経営者の高齢化と人手不足が同時に進んでいます
- 買い手はロールアップを進める同業、内製化を狙うゼネコン、資格と許可を求める異業種の3タイプに分かれます
- 評価の軸は資格者・許可・顧客基盤で、2020年施行の制度改正により許可承継の手続きも整っています
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