「うちは赤字だから、どうせ買い手なんてつかない」——そう諦めて、相談すらしていない経営者は少なくありません。しかし実際には、赤字企業でもM&Aが成立しているケースは存在します。廃業を選ぶ前に、まず売却の可能性を検討することが、経営者にとっても従業員にとっても有益な場合があります。
本記事では、赤字でも買い手がつくケースの特徴、売却を難しくする要因、そして評価を上げるために今からできることを解説します。廃業を視野に入れている方はもちろん、資金繰りに不安を感じ始めた段階でこそ、ぜひ読んでいただきたい内容です。
結論:赤字でも「買い手にとっての価値」があれば売却は可能
M&Aにおける売却価格は、将来の収益力をベースに算定されます。そのため赤字企業は確かに価格が低くなりやすく、交渉が難航する場面もあります。しかし「売れない」とイコールではありません。
重要なのは、買い手にとっての「価値ある資産」があるかどうかです。財務諸表上の利益だけでなく、人材・技術・顧客・許認可といった見えにくい価値も評価対象になります。売却価格が希望を下回っても、廃業コスト(在庫処分・原状回復・雇用終了費用など)と比べれば、売却の方が良い結果になる場合があります。
赤字でも買い手がつくケース
買い手が赤字企業に関心を持つ主なパターンを整理します。
- 人材・技術・許認可に価値がある場合:建設業や介護・医療・運送業など、許認可取得に時間と費用がかかる業種では、既存の許認可ごと買収する方が新規参入より合理的です。深刻な人手不足が続く業界では、訓練された従業員チームそのものが価値ある資産になります。
- 顧客基盤・販路に価値がある場合:既存の取引先リストや販売網は、買い手の事業とシナジーを生みます。同業の買い手には顧客囲い込みや地域シェア拡大、異業種の買い手には新市場への参入コスト削減という形で価値になります。
- 赤字の原因が構造的でない場合:過大な役員報酬の計上、一過性の特別損失、本業と無関係な支出など、「経営の仕方」に起因する赤字であれば、買い手の下では黒字化が見込めます。このような場合、正常収益力(調整後利益)を示せれば評価は大きく変わります。
- 繰越欠損金の節税メリット(限定的):税務上の繰越欠損金は、買収後の利益と相殺できる場合があります。ただし、この目的のみでの買収には税制上の制限があるため、あくまで副次的なメリットとして捉えてください。詳細は必ず税理士に確認することをお勧めします。
売却を難しくする要因
一方で、赤字であることに加え、以下の要素が重なると売却の難易度は大きく上がります。
- 債務超過と経営者保証の問題:債務超過では買い手が負債を引き継ぐリスクを負います。金融機関への個人保証(経営者保証)が残っている場合、その解除交渉が成立の障壁になります。「経営者保証に関するガイドライン」に基づく交渉が論点となるため、早期に専門家と連携することが重要です。
- 簿外債務・係争リスク:財務諸表に現れていない未払い残業代、保証債務、訴訟リスクなどは、デューデリジェンス(買収監査)で発覚した時点で交渉破談の原因になります。心当たりがある場合は、事前に専門家と整理しておくことが不可欠です。
- 事業の属人化:経営者や特定の個人がいないと業務が回らない状態は、買い手にとって大きなリスクです。引き継ぎが困難と判断されれば、それだけで見送られるケースもあります。
評価を上げるためにできること
売却を検討しているなら、今から着手できる準備があります。
- 赤字原因の説明資料を整備する:なぜ赤字なのかを客観的に説明できる資料は、買い手の不安を取り除く最大の武器です。役員報酬や一時費用を除いた「正常収益力(調整後EBITDA等)」を示すことで、潜在的な収益力をアピールできます。
- 磨き上げを行う:不採算事業の整理、不要資産の売却、コスト削減など、売却前に事業を整理・強化することを「磨き上げ」と呼びます。短期間でも財務状況を改善すれば、評価額の引き上げにつながります。
- できるだけ早く相談する:資金繰りが厳しくなってからでも相談は可能ですが、余裕があるうちの方が選択肢は格段に広がります。「まだ大丈夫」と思っている段階での早期相談が、最も良い条件での成約につながりやすいのです。
よくある失敗・注意点
実際の案件で見られる失敗パターンを知っておくことも重要です。
- ギリギリまで粘って選択肢を失う:資金繰りが底をつく直前まで動かなかった結果、時間的余裕がなくなり条件の悪い相手に安値で売るか廃業しかない状況に追い込まれるケースがあります。
- 赤字の実情を隠して交渉が破談になる:赤字や債務を隠すと、デューデリジェンスで発覚した時点で信頼関係が崩れ破談になります。最初から正直に開示し、その上で価値を説明する方が成立率は高まります。
- 廃業コストとの比較をしない:「安値なら廃業の方がまし」と思いがちですが、廃業には在庫処分費・原状回復費・従業員対応コストなど想像以上の費用が伴います。売却と廃業のどちらが得策か、具体的な数字で比較することが重要です。
赤字企業のM&A売却について、ポイントをまとめます。
- 赤字でも「買い手にとっての価値」(人材・許認可・顧客基盤・シナジー)があれば売却は可能
- 赤字の原因が構造的でないことを正常収益力として示せると評価は上がる
- 廃業費用との比較を行い、資金繰りが尽きる前に早めに専門家へ相談することが最良の選択につながる
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