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会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率

会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率|M&A Times

「会社を売ったらいくらになるのか」――一般的にはこれまで時価純資産に営業利益の数年分を上乗せする「年買法」のような簡便な目安が中心とされています。しかしながら実際に成約した価格のデータに基づく相場情報は、ほとんど公開されていません。本記事では、これから売却を検討する経営者の視点を中心に、中小企業庁が公表した約1.4万件の成約報告データから、業種ごとの譲渡価格倍率の実態を解説します。

業種によって倍率は2倍以上違う

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&A・譲渡側報告 約1.4万件)を集計すると、株式譲渡価額を純利益で割った倍率(PER)の全業種中央値は11.9倍(n=3,010)です。ただし業種別に見ると、不動産業・物品賃貸業の22.6倍から教育・学習支援業の8.6倍まで幅があります。「相場は何倍か」という問いに、業種を無視した一つの答えはありません。まずは業種別の実測値を見ていきます。

業種別PERの中央値と四分位範囲

以下は主要13業種の中央値と、分布の幅を示す四分位(下位25%・上位25%が位置する倍率)です。中央値だけでなく四分位の幅を見ると、同じ業種の中でも成約倍率のばらつきが大きいことが分かります。

業種中央値四分位範囲n
不動産業・物品賃貸業22.6倍10.1〜40.8倍139
情報通信業14.3倍7.8〜27.4倍232
サービス業(他に分類されないもの)13.9倍7.5〜29.2倍253
運輸業・郵便業13.2倍7.6〜27.6倍130
卸売業・小売業12.0倍5.9〜21.0倍484
建設業11.6倍5.9〜22.6倍532
学術研究・専門技術サービス業11.3倍5.9〜21.7倍168
宿泊業・飲食サービス業11.3倍4.1〜22.9倍90
製造業10.7倍5.6〜18.5倍551
生活関連サービス業・娯楽業9.5倍5.8〜18.2倍102
医療、福祉9.2倍3.5〜20.6倍220
農業・林業9.1倍4.8〜17.2倍21
教育・学習支援業8.6倍4.9〜19.5倍35
全業種(合計)11.9倍6.1〜23.4倍3,010
出典:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」2022〜2024年度成約報告(譲渡側)を集計。PER=株式譲渡価額÷純利益

不動産業・物品賃貸業の中央値22.6倍は、医療・福祉の9.2倍の2倍以上にあたります。一方で、教育・学習支援業(n=35)のようにサンプル数が少ない業種は、値が偏りやすい点にも注意が必要です。

EV/EBITDAでも同じ傾向、ただし2024年度限定

譲渡価額を「株式譲渡価額+純有利子負債」に置き換え、利益を「営業利益+減価償却費」で割った倍率がEV/EBITDAです。中小企業庁のデータでは2024年度分のみこの分析軸が公開されており、全体の中央値は7.3倍(n=1,987)、不動産業・物品賃貸業は19.6倍とここでも突出しています。

業種中央値n
不動産業・物品賃貸業19.6倍107
宿泊業・飲食サービス業10.3倍72
情報通信業9.0倍153
卸売業・小売業7.7倍336
全業種(合計)7.3倍1,987
建設業5.4倍310
生活関連サービス業・娯楽業5.1倍72
出典:同上、2024年度成約報告(譲渡側)より主な業種を抜粋。EV/EBITDA=(株式譲渡価額+純有利子負債)÷(営業利益+減価償却費)。2024年度のみの集計のため年次比較はできません

試算例と年買法との関係

中央値を使うと、大まかな試算はできます。たとえば年間純利益2,000万円の建設業の会社とします。建設業のPER中央値は11.6倍のため、2,000万円×11.6倍で単純計算すると2億3,200万円です。

あくまでこれは実際に成約した案件の真ん中の水準を機械的に当てはめた参考値であり、個社の適正価格を保証するものではありません。四分位で見ると建設業は5.9倍〜22.6倍の幅があり、同じ利益水準でも成約額は1億〜4億円台までばらつきますが、おおまかな目安として参考になります。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

従来、簡易的な売却価格の目安としては、時価純資産に営業利益の数年分を加える時価純資産法とは?計算方法とメリット・デメリットのような年買法的な考え方が使われてきました。今回紹介した業種別倍率は、その目安を実際の成約データで裏づけ・補正するための材料と位置づけられます。価格の決まり方の全体像は会社売却の相場はいくら?価格の決まり方と高く売るためのポイントで解説しています。

このデータを読むときの注意点

  • 譲渡価額・財務データの報告は任意項目のため、報告した支援機関・案件に偏りがある可能性があり、純資産・利益の算定基準(帳簿価額か時価反映後か)も案件ごとに異なります(中小企業庁自身も「相当程度ばらつきのあるデータ」と注記)
  • 教育・学習支援業(n=35)など業種によりサンプル数が少なく、中央値の安定性には差があります
  • 中小企業のPERは役員報酬の水準など経営判断で変動しやすく、上場企業のPERと単純比較はできません
  • EV/EBITDAは2024年度のみの集計で年次比較はできず、いずれのデータも中小企業庁に登録した支援機関経由の成約に限られます

まとめ

  • 業種別PERの中央値は不動産業・物品賃貸業22.6倍から教育・学習支援業8.6倍まで幅があり、全業種の中央値11.9倍だけでは業種差を見落とします
  • 同じ業種でも四分位には大きな幅があり、中央値は個別案件の成約価格を保証するものではありません
  • EV/EBITDAでも不動産業が突出する傾向は共通していますが、2024年度限定のデータのため年次比較には使えません

出典:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(https://ma-shienkikan.go.jp/statistics-report、2026年8月2日取得)

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