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なぜ大企業は子会社を売却するのか?カーブアウト増加の背景

なぜ大企業は子会社を売却するのか?カーブアウト増加の背景|M&A Times

大手企業が祖業や主力事業まで売却するニュースが2026年も続いています。かつて子会社売却は経営不振の象徴として語られがちでした。しかし近年の事例では黒字事業の切り出しも珍しくありません。なぜ大企業は子会社や事業を手放す判断を増やしているのでしょうか。

子会社売却は後ろ向きから前向きな経営戦略へ

子会社や事業の売却は長らく「リストラ」の文脈で語られてきました。業績不振や過剰債務を整理する手段という位置づけです。一方で近年は黒字事業でも非中核と判断すれば切り出す動きが目立ちます。背景には「売却を迫る資本市場の圧力」「売却にお墨付きを与えた政策」「売却を受け止める買い手の広がり」という3つの変化があります。順に見ていきます。

①資本市場からの圧力 PBR改革とアクティビストの増加

東京証券取引所は2023年3月31日、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。売上や利益だけでなく資本コストや資本収益性を意識した経営を求める内容です。PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れる企業は解散価値すら市場に評価されていない状態と指摘され、収益性の低い事業を抱え続けることのコストが可視化される契機になりました。

この要請を受け企業は保有事業の収益性を個別に見直す必要に迫られています。非中核事業が資本効率を下げていると判断されれば売却が選択肢に入ります。

加えて物言う株主の増加も背景にあります。アクティビストは事業ポートフォリオの入れ替えや低収益事業の売却を求める傾向があり、経営陣が先回りして再編を進める例も増えています。

②政策の後押し 事業再編実務指針と選択と集中

子会社売却を促す動きは国の政策にもあります。経済産業省は2020年7月31日、閣議決定「成長戦略実行計画」を受けて「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~」を公表しました。上場企業の取締役会に対し、事業ポートフォリオ(保有する事業の組み合わせ)を定期的に点検し、入れ替えの要否を判断する仕組みをつくるよう促す内容です。

ポイントは、指針が「自社がその事業の最良の所有者(ベストオーナー)といえるか」という視点で見直しを求め、そうでない事業は売却してより適した担い手に委ねることを推奨した点です。かつて「切り売り」と受け取られがちだった子会社売却に、国が前向きな経営行動というお墨付きを与えた形になり、経営陣は売却を決断しやすくなりました。カーブアウト(特定事業を会社分割や事業譲渡で切り出す手法)は、この入れ替えを実行する具体的な手段です。

③買い手の広がり PEファンドと事業会社が受け皿に

売りたい理由と売ってよいお墨付きがそろっても、買い手がいなければ取引は成立しません。カーブアウト増加の3つ目の背景は、切り出された事業の受け皿が厚くなったことです。投資待機資金を抱えるPEファンドは、大企業の非中核事業を買い取って価値を高める投資を積極化しています。事業会社も同業や周辺領域を買い増すロールアップ戦略の一環として、大手が手放す事業の取得に動いています。売り手にとって「探せば買い手が見つかる」環境が整い、売却の決断を実行に移しやすくなりました。

実際に取引は増えています。レコフデータの集計では、上場企業のカーブアウト系売却は2021年に409件・5兆2,390億円にのぼり、うち9割超を外国企業への売却(OUT-IN)が占めました。2025年1〜5月期も225件(前年同期比29.3%増)・金額1兆9,815億円と増勢が続き、同社は過去最多だった2008年の489件を上回る初の年間500件超えを見込むと報じています(2025年6月時点)。

本サイトの既報にもこの構図通りの事例が続いており、例えば住友電工グループは電子リード線事業を切り出してサンエツ金属に譲渡し、ウェルビーHDは療育事業をAIAIグループに譲渡と言った事例があります。いずれも大手グループが非中核と位置づけた事業を切り出し、その領域を主力とする事業会社が受け皿になった取引です。

経営者への示唆

大企業の事業切り出しの増加は企業の経営者にとって機会にもなり得ます。大手が持て余す非中核事業には既に顧客基盤や技術・人材が備わっているケースが少なくありません。ゼロから新規事業を立ち上げるより投資回収が早い場合があり、既存事業と重なる領域か、取引先が継続するか、キーパーソンが残留するかなどを見ながら買収が自社の収益向上に寄与するかを判断すると良いでしょう。

逆に自社の事業を大手に譲渡する選択肢もあります。特定分野で強みを持つ中小企業の事業は、大手のロールアップ戦略の取得対象になり得ます。後継者不在の承継とは別に、成長パートナー探しとして事業譲渡を検討する余地があります。

まとめ

  • 東証のPBR改革要請とアクティビストの増加が資本市場側から事業ポートフォリオ見直しを促している
  • 経産省の事業再編実務指針が「自社がベストオーナーか」の視点で見直しを促し、非中核事業の売却を前向きな経営行動と位置づけた
  • PEファンドの待機資金や事業会社のロールアップが受け皿となり、売却は件数・金額とも増加傾向にある

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