M&Aの契約では、売り手が財務や法務の状態について表明保証をします。ただし契約後に違反が判明しても、売り手に賠償の資力がなければ買い手は損害を回収できません。本記事では、この違反リスクを保険会社に移転する表明保証保険(W&I保険)の仕組みと費用について解説します。
表明保証保険(W&I保険)とは
表明保証保険(W&I保険)とは、表明保証の違反により生じた損害を保険会社が補償する保険です。英語ではWarranty and Indemnity Insuranceと呼ばれ、頭文字を取ってW&I保険と呼ばれます。表明保証は売り手が財務諸表の正確性や訴訟の不存在などを保証する契約条項ですが、締結後に違反が発覚するケースもあります。
たとえば買収後に簿外債務が発覚し、買い手が5,000万円の損害を被ったとします。従来は売り手個人や旧株主に賠償を請求しますが、資力不足や連絡不能で回収できないリスクがあります。W&I保険を付保していれば、保険会社から直接補填を受けられます。
仕組み
W&I保険には買主用(バイサイド)と売主用(セルサイド)の2種類があります。実務では買主用が主流とされます。買い手が保険金請求権を直接持ち、売り手への請求という手間を省けるためです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 填補範囲 | 表明保証条項の違反により生じた損害 |
| 免責金額(デダクティブル) | 一定額までは保険金の対象外となる自己負担部分 |
| 填補限度額 | 保険金として支払われる上限額 |
| 保険期間 | 一般条項は数年、税務関連は税務調査の期限に合わせ長期に設定されることが多い |
詐欺や故意による表明保証違反、契約締結時点で買い手・売り手が既に認識していたリスクは、原則として補償の対象外です。デューデリジェンス(DD)で発見済みの問題を、保険でカバーすることはできません。
保険料の目安
保険料は填補限度額(保険金額)の数%程度とされますが、対象国や業種、保証事項の広さにより変動するため、具体的な料率は案件により異なります。保険料を売り手・買い手のどちらが負担するかも交渉事項であり、契約条件の一部として決められます。
実務での意味
売り手にとって
売り手にとっての最大のメリットはクリーンイグジットです。売却後に補償請求を受ける不安を保険に移転でき、資金を長期間留保する必要がなくなります。補償の担保手段としてはエスクローもありますが、W&I保険はエスクローの代替として使われる点が特徴です。
買い手にとって
買い手にとっては、表明保証の填補限度額や期間をめぐる売り手との交渉が緩和される利点があります。売り手の資力に依存せず保険会社から補償を受けられるため、交渉のスピードも上がります。近年は国内損害保険会社から中小M&A向けの簡易な商品も提供されているとされ、大型案件に限らず利用の裾野が広がっています。
利用の流れ
W&I保険の付保は、保険会社への引受審査から始まります。DD資料を提出し、表明保証条項の内容をもとに引受条件が提示され、最終契約書の締結からクロージングまでに付保を完了させるのが一般的な流れです。手続きは保険ブローカーやM&AのFAを通じて進めることが多く、専門知識が必要なため自社のみで完結させることは通常ありません。
まとめ
- W&I保険は表明保証違反による損害を保険会社が補償する仕組みで、実務では買主用が主流
- 填補範囲・免責金額・填補限度額・保険期間を保険会社との交渉で設定し、詐欺や既知のリスクは対象外
- 売り手はクリーンイグジット、買い手は交渉の摩擦低減というメリットがあり、保険ブローカーやFAを通じて手配する
次に読む
- 表明保証とは W&I保険の前提となる契約実務の基礎を解説します
- エスクローとは 補償の担保という同じ目的を持つ代替手段を紹介します
- 最終契約書(DA)とは W&I保険の付保タイミングとなる契約条項全体の位置付けを確認します

