コインランドリーは施設数が増え続ける一方で、設備の入れ替えや賃貸契約の更新期に、事業を続けるか譲渡するかの判断を迫られる業態です。オーナーの世代交代よりも投資回収の節目で売買が動く点に特徴があります。この記事ではコインランドリー業界のM&Aの構図と、売却相場を考えるうえでの基本を整理します。
業界の構造とM&Aが起こる背景
クリーニング業は大きく二つに分かれます。有人で洗濯・仕上げを行う一般の「クリーニング所」と、利用者が自分で機器を操作する「コインオペレーションクリーニング営業施設」、いわゆるコインランドリーです。どちらも都道府県等への届出制で開業でき、参入のハードルは比較的低い業態です。
コインランドリーは洗濯機・乾燥機という設備への投資が収益の土台になります。設備の稼働率がそのまま収益を左右するため、開業から数年で投資回収の見通しが立ち、次の判断を迫られる経営者が少なくありません。不動産契約の更新期や設備の更新期は、事業継続か譲渡かを見直す典型的な節目になっています。
最近の動向
厚生労働省の「令和6(2024)年度衛生行政報告例」によると、クリーニング業の施設数は69,855施設で、前年度に比べ3,081施設(4.2%)減少しました。店舗型の「クリーニング所」(取次所を除く)は19,379施設で、前年度比1,099施設(5.4%)減とさらに速いペースで縮小しています。令和2年度末の23,403施設からは5年で17%以上減った計算です。
一方でコインランドリーは増加基調にあります。時事通信の報道(2024年6月)によれば、厚生労働省の調査でコインランドリーは1996年度の10,228店から2013年度に16,693店まで増加しました。業界誌『ランドリービジネスマガジン』の推計では2017年度に2万店を超え、同報道時点では約2万5000店規模とされています。クリーニング業界のM&A動向で扱う一般クリーニング店の減少とは対照的な動きです。
コインランドリーのM&Aは後継者不在を理由にした事業承継とは事情が異なります。買い手の多くは投資目的の個人オーナーで、居抜きに近い形で設備と契約をまとめて取得する事業譲渡のスキームが中心です。土地・建物を所有している場合は不動産の売買契約とセットになる例もあります。売り手側は稼働率の低下や設備の更新期を機に撤退を選ぶ個人オーナーが多く、複数店舗を運営するチェーンやFC本部が既存店を買収して規模を拡大する動きも見られます。
なお、個人オーナー間の店舗売買は公表されないため、報道で確認できる実例は大手の再編に限られますが、撤退時に事業が譲渡で引き継がれる構図は共通します。ファミリーマートは2018年にコンビニ併設型の「ファミマランドリー」でコインランドリー事業に参入しましたが、店舗を計画どおり増やせず2024年1月末で事業を終了しました。流通ニュースの報道によると、店舗運営はコレカ傘下のランドリーサポートと、ENEOSグループの「ENEOS Laundry」に引き継がれています。大手でも稼働が伸びなければ撤退を選ぶ競争環境であることと、撤退の受け皿として同業への事業引き継ぎが機能していることを示す一例です。
この業界のM&Aの特徴
コインランドリーM&Aで評価される資産は主に三つあります。まず立地条件で、稼働する時間帯の人通りや近隣の住宅密度が集客力を左右します。次に設備の残存価値で、耐用年数が近い機器は更新コスト分だけ評価が下がりやすくなります。そして稼働データで、機器ごとの利用回数や売上ログが収益力を裏づける材料になります。
典型的なスキームは、店舗設備と契約をまとめて引き継ぐ事業譲渡です。土地・建物を所有しているケースでは、不動産の売買契約とセットになる例もあります。買収価格は立地・設備・稼働率による個別性が強く、業種平均の相場を単純に当てはめにくい点が特徴です。業種別の会社売却相場でも触れているとおり、小規模店舗ほど個別条件による差は大きくなります。
売り手・買い手それぞれの視点
売り手の視点
投資回収や撤退を検討する売り手にとって重要なのは、稼働率が落ち切る前に動くことです。設備の耐用年数が残っているうちに売却すれば、更新コスト分の価格交渉を避けやすくなります。店舗単位の小規模な案件はM&Aマッチングサイトで売買される例が多く、小規模でも買い手を探しやすい業態といえます。
買い手の視点
買い手にとっては、稼働データをどこまで開示してもらえるかが判断の分かれ目になります。口頭説明だけで利回りを見積もると、想定と実績がずれるリスクが残ります。FC本部や同業チェーンが買収する場合は、既存の巡回メンテナンス網に組み込めるかどうかも取得判断の材料になります。
コインランドリーの売却相場の目安(実測データ)
中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、コインランドリーが含まれる大分類「生活関連サービス業、娯楽業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.5倍、四分位範囲5.8〜18.2倍(n=102)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値5.1倍(n=72)です。
たとえば年間の純利益が2,000万円の運営会社で考えてみます。中央値9.5倍を単純に当てはめると約1.9億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.2億円〜約3.6億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。店舗単位の事業譲渡では、この株式譲渡ベースの倍率がそのまま当てはまらない点にも注意してください。
この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、立地や設備の残存価値が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。
この倍率は大分類全体の集計であり、コインランドリーに特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。
まとめ
コインランドリー業界のM&Aには、次のような特徴があります。
- クリーニング所は減少が続く一方、コインランドリーは施設数が増加基調にある
- 買い手は投資目的の個人オーナーが中心で、後継者不在型の事業承継とは構図が異なる
- 評価は立地・設備の残存価値・稼働データで決まり、事業譲渡や不動産セットのスキームが典型
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