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学習塾・教育業界のM&A動向と売却相場

学習塾・教育業界のM&A動向|M&A Times

学習塾や予備校、幼児教育など教育業界は、少子化の影響を長く受け続けてきた業界の一つです。近年は経営者の高齢化や後継者不在も重なり、事業を第三者に譲るM&A(合併・買収)を選ぶ経営者が増えています。本稿では、業界研究の一環として教育業界のM&A動向を、確認できた統計をもとに整理します。

業界の構造とM&Aが起こる背景

厚生労働省の人口動態統計(速報)によると、2025年の出生数は67万1,236人で、前年から2.2%減り、1899年の統計開始以来もっとも少なくなりました。合計特殊出生率も1.14と過去最低を更新し、低下は10年連続です。学習塾や予備校の主な顧客層である子どもの数が中長期で減り続けることは、業界の構造そのものに影響を与えています。

加えて、経営者の高齢化と後継者不在も業界再編を後押しする要因です。帝国データバンクの「全国後継者不在率動向調査(2025年)」によれば、全国企業の後継者不在率は50.1%で過去最低となり、7年連続で改善しました。もっとも、これは全業種平均であり、家族経営が多い中小の学習塾では、依然として後継者を確保できない経営者が少なくないとみられます。こうした経営者にとって、後継者不在問題と第三者承継は避けて通れないテーマです。

そのほか、オンライン教育(EdTech)の普及で対面型の中小塾が競争にさらされていること、講師人材の確保が難しくなっていることも、単独での存続を難しくしている一般的な要因として挙げられます。

最近の動向

帝国データバンクの「学習塾」の倒産動向(2025年、速報)によると、2025年の学習塾の倒産は46件で、前年の40件を上回り過去最多を更新しました。倒産した学習塾の約9割は資本金1,000万円未満の小規模事業者でしたが、地域で一定のシェアを持っていた中堅塾の淘汰も見られたとされています。同レポートでは、講師人材の確保難や物価高騰による授業料の値上げ難など、複数の要因が中小塾の経営を圧迫したと分析されています。

一方、業界全体の市場規模については、矢野経済研究所の「2025年版教育産業白書」(日本経済新聞報道、2025年10月)によると、教育産業市場(主要15分野合計)は2024年度で約2兆8,556億円と前年度比0.7%増でした。学習塾・予備校市場はこの中で最大のセグメントとされていますが、事業者間の業績格差や少子化の影響を受け、市場全体としては停滞傾向にあると報じられています。

M&A市場全体では、レコフデータの集計によると2025年(1〜12月)の日本企業のM&A件数は5,115件で前年比8.8%増となり、2年連続で過去最多を更新しました。教育業界に限定した公表統計は確認できていませんが、全国チェーンや地域チェーンが中小・個人塾を譲り受ける動きは、業界の構造要因からみても続きやすい局面にあるといえます。

実例:ヒューリック(東証プライム)による東大受験指導専門塾「鉄緑会」運営会社の完全子会社化は、2026年7月7日に発表されました。ベネッセグループ傘下だった株式会社東京教育研の全株式(100%)を取得するもので、少子化下でも高い合格実績とブランド力を持つ学習塾がM&Aの対象となる事例とみられます。

この業界のM&Aの特徴

評価されやすい資産買い手が重視する理由
生徒基盤・継続率退塾が少なく通い続ける生徒が多いほど、収益を読みやすい
講師・教室長の人材指導力のある講師の定着は、引き継ぎ後の安定に直結する
立地・商圏駅前や住宅地など、生徒を集めやすい立地は評価が高い
ブランド・合格実績地域での知名度や合格実績は、集客力の裏づけになる
FC加盟の有無本部の教材やブランドを使える加盟権も、価値になりうる

学習塾・教育業界のM&Aで評価されやすい資産は、既存の生徒基盤や継続率、講師人材、地域でのブランド・合格実績、フランチャイズ(FC)契約の有無などです。生徒の入れ替わりが少なく、継続率が高い塾ほど、買い手にとって収益の見通しを立てやすいとされます。

スキームとしては、株式譲渡による事業承継型のM&Aが中心ですが、教室単位・生徒名簿単位で譲渡する事業譲渡が使われることもあります。バリュエーション(企業価値評価)の目線は案件ごとに大きく異なり、講師や教室長への依存度、賃貸物件の契約条件なども影響するため、一概に相場を示すことはできません。譲渡を検討する際は、企業価値評価の考え方を早い段階で理解しておくと、交渉の見通しが立てやすくなります。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手側の視点

個人経営や小規模法人の塾では、後継者がいないまま経営者が高齢化し、事業継続そのものが課題になるケースが少なくありません。第三者への譲渡は、生徒や講師の学びの場・雇用を維持しながら経営者が引退する選択肢の一つになります。譲渡を検討する経営者は、まず会社売却の進め方を把握し、早めに準備を始めることが望ましいとされます。

買い手側の視点

買い手にとっては、新規出店よりも既存の生徒基盤や講師人材を引き継げる点が、M&Aの主な魅力です。特に地域での認知度やブランド、合格実績を持つ塾は、単独出店では得にくい価値とされます。一方、少子化という業界共通の逆風があるため、統合後の生徒数維持や講師の定着といった実務面の見極めが重要になります。

学習塾の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、学習塾が含まれる大分類「教育・学習支援業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値8.6倍、四分位範囲4.9〜19.5倍(n=35)でした。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値8.6倍を単純に当てはめると約1.7億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約9,800万円〜約3.9億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、学習塾に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 少子化による出生数の減少(2025年67万1,236人、過去最少)が業界の構造的な逆風となっています。
  • 学習塾の倒産は2025年に46件(帝国データバンク調べ)と過去最多を更新し、小規模事業者ほど厳しい状況です。
  • 生徒基盤や講師人材、ブランドを評価したM&Aは、売り手・買い手双方にとって現実的な選択肢の一つになっています。

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