M&Aの最終契約書(DA)を結び成約に至っても、後になって売り手の説明と実態が異なる問題が見つかることがあります。買い手はこうした事態に備え、対価の一部を一時的に第三者へ預ける仕組みを契約に盛り込むことがあります。本記事では、この「エスクロー」の仕組みと、表明保証との関係を解説します。
エスクローとは
エスクローとは、契約当事者ではない第三者(エスクローエージェント)に金銭などを一時的に預託し、あらかじめ定めた条件が満たされた場合に、預けた資産を交付する仕組みのことです。英語のescrowは「第三者預託」を意味し、不動産取引などでも使われますが、M&Aでは主に買収対価の一部を対象とします。
例えば、買収対価が5億円の案件で、その一部にあたる数千万円規模を一定期間エスクロー口座に預け、表明保証違反が判明しなければ売り手に交付する、といった設計がよく見られます(預託額や期間は案件により変動します)。
エスクローエージェントを誰が務めるかは案件により異なりますが、日本では信託銀行や銀行といった金融機関が専用口座や信託契約の形で引き受けるのが一般的です。案件によっては弁護士が預り金として管理する例もあります。エスクローが実務として定着している米国では、専門のエスクロー会社が広く利用されています。
エスクローの資金の流れ
エスクローを使った資金の流れは、大きく3つのステップに整理できます。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①預託 | 買い手が対価の一部をエスクローエージェント(信託銀行等)の口座に入金する |
| ②確認期間 | 一定期間、表明保証違反など補償事由の有無を売り手・買い手間で確認する |
| ③交付 | 期間満了時、補償事由がなければ売り手へ交付し、事由があれば買い手への補償に充当する |
表明保証・アーンアウトとの関係
エスクローは、表明保証違反が判明した際の補償の支払いを裏付けるために設定されることが多く、買い手にとっては「補償金を実際に受け取れるか」という回収リスクを減らす効果があります。似た仕組みに業績条件連動で対価を後払いするアーンアウトがありますが、アーンアウトが将来の業績達成に応じた追加対価の支払いであるのに対し、エスクローはすでに合意した対価の一部を、補償に備えて一時的に留保する点で性質が異なります。
米国のM&Aではエスクローが実務として広く定着していますが、日本の中小企業M&Aではまだ普及の途上にあり、価格調整条項や表明保証保険で代替されるケースも見られます。近年は仲介会社が信託銀行などと連携し、エスクローを活用する案件も徐々に増えつつあります。
実務での意味
買い手にとって
表明保証違反が発覚した場合に、確実に補償を受けられる原資をあらかじめ確保できる点がメリットです。ただし、エスクロー口座の管理費用や、預託期間中の資金拘束というコストも考慮する必要があります。
売り手にとって
対価の一部を受け取るタイミングが遅れるため、資金計画に影響します。一方で、預託額や期間を契約交渉であらかじめ限定できれば、無制限に補償リスクを負うよりも見通しを立てやすくなる面もあります。エスクローの範囲は、クロージングまでの契約交渉で確定させておくことが重要です。
まとめ
- エスクローは対価の一部を第三者に預託し、条件成就後に交付する仕組み
- 主に表明保証違反への補償原資を確保する目的で使われる
- 日本の中小M&Aでは普及途上だが、活用は徐々に広がりつつある
次に読む
- 表明保証とは―エスクローが担保する補償条項の内容を詳しく解説します。
- クロージングとは―エスクロー口座への入金を含む成約時の実施手続きを解説します。
- 最終契約書(DA)とは―エスクロー条項が記載される契約書全体の構成を理解できます。

