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障害福祉事業のM&A動向|就労支援・グループホームの売却相場

障害福祉事業のM&A動向|就労支援・グループホームの売却|M&A Times

「うちの事業所も、そろそろ潮時かもしれない」——就労継続支援A型やグループホームを営む経営者から、こうした声を聞く機会が増えています。報酬改定のたびに収支が揺れ、人材確保のコストは上がり続ける一方、運営を引き継ぐM&A・事業譲渡という選択肢も、この業界で着実に広がってきました。

業界の構造とM&Aが起こる背景

障害福祉サービスは、就労継続支援A型・B型、就労移行支援、共同生活援助(グループホーム)、放課後等デイサービスなど多様な事業から成り、いずれも国が定める障害福祉サービス等報酬(公定価格)で収入の大半が決まります。自社の努力だけでは価格も利用者数の上限(定員)もコントロールしにくく、報酬改定という制度変更が経営に直結する構造です。

2024年度改定では就労継続支援A型の基本報酬がスコア方式に見直され、生産活動収支の実績が反映される仕組みが強化されました。2026年2月には3年に一度の改定サイクルを待たず「令和8年度における臨時応急的な見直し」も示され、処遇改善加算の対象拡大などが2026年6月に前倒しで施行される見通しとなっています。

加えて、生活支援員・職業指導員などの人材確保は他産業とも競合が激しく、人件費の上昇が収支を圧迫しやすい業態です。後継者不在の小規模法人も多く、「制度の追い風で事業所数が増える局面」と「人件費・報酬改定で淘汰が進む局面」が同時に進行しているのがこの業界の背景です。

最近の動向

厚生労働省「令和6(2024)年社会福祉施設等調査」によると、2024年10月時点の事業所数は共同生活援助(グループホーム)や就労継続支援B型、放課後等デイサービスが大きく増加した一方、就労継続支援A型と就労移行支援は前年から減少に転じました。拡大を続ける障害福祉サービス全体の中で、A型・就労移行支援は数少ない「減少」区分です。

事業事業所数(令和6年10月)前年比
共同生活援助(グループホーム)14,241+6.7%
就労継続支援B型17,973+7.5%
放課後等デイサービス22,643+7.2%
就労継続支援A型4,634△0.9%
就労移行支援3,240△1.8%
厚生労働省「令和6(2024)年社会福祉施設等調査の概況」より作成

収支面でも変化がみられます。福祉医療機構(WAM)が2023年度決算を分析したレポートによると、就労継続支援A型のサービス活動増減差額比率(就労支援事業部分を除く利益率にあたる指標)は0.7%と前年度の1.2%から低下し、人件費率の上昇が主因とされています。一方で就労支援事業(工賃を生む生産活動)の収支改善も進み、赤字事業所の割合自体は41.5%と前年度の44.7%から縮小しました。制度対応を進められた事業所とそうでない事業所の差が、じわじわ広がっている状況がうかがえます。

倒産面にも表れています。東京商工リサーチによると、2026年上半期(1〜6月)の障害者福祉サービスの倒産は33件で前年同期比26.9%増、2012年以降の15年間で上半期として最多を更新しました。負債総額は284億4,200万円(前年同期比15.2倍)にのぼり、6月にはグループホームや就労継続支援B型などを運営する絆ホールディングスとグループ3社が会社更生法・破産を申請し、4社合計の負債は268億7,500万円に達しています。

人件費・光熱費のコスト増に加え、不正受給等のコンプライアンス違反を一因とする倒産も6件含まれていました。

収支が行き詰まる前に、廃業ではなく譲渡先を探すという判断が、経営の選択肢として現実味を帯びています。就労移行支援大手のmanabyが子会社のITエンジニアリング事業をルネッサンスルパンに譲渡した例のように、大手による事業単位の切り出しも進んでいます。

実例:名証ネクスト上場のQLSホールディングス(7075)傘下のエルサーブは2023年11月、破産手続き開始決定を受けた沖縄県の株式会社AKから、障がい者グループホーム事業「g-port」(22拠点、利用者約130名)を譲受けました。経営破綻後も利用者の生活の場を維持したまま引き継ぐ受け皿として、M&Aが機能した事例です。

この業界のM&Aの特徴

評価されやすい資産は、指定(許認可)そのものと利用者基盤、経験のある生活支援員・職業指導員などの人材です。指定は事業者ごとに都道府県・市町村から受けるため、事業譲渡の形をとると譲渡先が新たに指定を取り直す必要が生じる場合があり、空白期間や再申請の手間が生じます。そのため指定を維持しやすい法人ごとの株式譲渡が選好されやすい一方、承継可否は自治体・案件によって扱いが異なるため早期の確認が必要です。

前述のg-portのように経営破綻後の事業譲渡で生活の場を維持する例もあれば、健全経営のうちに株式譲渡するケースもあります。バリュエーションは純資産へ利益の一定年数分を加味する考え方が多いとされますが、指定区分や稼働率、赤字・黒字の状態で差が大きく、断定的な相場は示しにくい領域です。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手側の視点

売り手の最大の関心事は、利用者・入居者の生活が途切れずに引き継がれるかです。特にグループホームは生活の場そのものであるため、廃業による退去より、運営主体が変わっても住み続けられる譲渡を選ぶ経営者は少なくありません。従業員の雇用継続や、今後の報酬改定リスクを引き受けられる資本力・運営ノウハウを持つ買い手かどうかも重要な判断材料です。

買い手側の視点

買い手には、同業として地域内シェアの拡大を狙う障害福祉事業者から、隣接領域(介護・保育等)からの多角化を図る事業者まで複数のタイプがあります(買い手類型はこちらで解説)。障害福祉分野では特に、複数拠点で採用・研修・請求事務といった後方支援機能を集約できる規模のメリットが評価されやすい傾向があります。

障害福祉事業の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、障害福祉事業が含まれる大分類「医療・福祉」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.2倍、四分位範囲3.5〜20.6倍(n=220)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値8.5倍(n=150)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.2倍を単純に当てはめると約1.8億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約7,000万円〜約4.1億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、障害福祉事業に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 就労継続支援A型・就労移行支援は事業所数が減少に転じる一方、B型・グループホーム・放課後等デイは増加が続いており、障害福祉業界の中でも明暗が分かれています
  • 2026年上半期の障害者福祉サービス倒産は15年間で最多を更新しており、廃業ではなく事業譲渡による承継を選ぶ動きが現実の選択肢になっています
  • 指定の承継可否がスキーム選択に影響するため、法人ごとの株式譲渡か事業譲渡かは、制度面から早い段階で専門家に確認することが重要です

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