中小企業では、社長が唯一の代表取締役を兼ねているケースが多く見られます。突然の死去に際し、会社の経営や銀行取引はどうなるのでしょうか。本記事では、社長急死後に直面する法的な論点と、事前にできる備えを解説します。
結論として、会社は社長の死亡で消滅せず、代表者不在の期間を短くすることが最優先です。自社株は相続財産となり、遺産分割が終わるまで相続人全員の共有状態に置かれる点にも注意が必要です。後継者が決まっており事前準備を先に知りたい方は事業承継計画の作り方もご覧ください。
社長が急死すると何が起こるか
代表取締役が死亡すると、会社法上はその時点で代表取締役が退任したものと扱われます。取締役会の有無にかかわらず、後任が決まるまで会社としての意思決定は事実上止まり、銀行取引や取引先との契約にも影響が及びかねません。
法人名義の口座は社長個人の口座ではないため、死亡で口座自体が凍結されるわけではありませんが、新代表者の届出まで出金や新規融資が制限されることがあります。融資・取引先との契約は効力自体は続きますが、名義や窓口の変更手続きが必要です。
自社株は相続財産になる
社長個人が保有していた自社株も、預貯金や不動産と同様に相続財産の一部です。相続人が複数いる場合、遺産分割協議がまとまるまで自社株は相続人全員の共有(準共有)状態に置かれます。民法上、相続財産は共同相続人の共有に属すると定められており、特定の相続人が単独で議決権を行使できるわけではありません。
会社法上、共有株式は権利行使者を一人定め、会社に通知しなければ議決権を行使できません。この権利行使者の指定は、一般に共有持分の過半数で決められると解されています。株主総会を開けない状態を長引かせないためにも、相続人間の早めの話し合いが望まれます。
後任代表者の選任と変更登記
代表取締役の死亡は退任事由にあたるため、会社は速やかに後任を選ぶ必要があります。選び方は、取締役会を設置しているかどうかで異なります。
| 会社の形態 | 後任代表者の決め方 |
|---|---|
| 取締役会設置会社 | 残る取締役で取締役会を開き代表取締役を選定する |
| 取締役会非設置会社 | 株主総会で取締役を選任のうえ、代表取締役を定める |
後任が決まったら、死亡による退任登記と就任登記をあわせて法務局へ申請します。会社法上、登記事項の変更は2週間以内が義務で、怠ると代表者個人が100万円以下の過料の対象になり得ます。実務では書類作成の負担から司法書士へ依頼するケースが多くみられます。
相続税と自社株評価
自社株を相続した場合、他の相続財産とあわせて相続税の対象になります。相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。非上場株式には市場価格がないため、国税庁が定める方式に沿って評価額を算定します。
会社の規模や株主構成に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式などが使い分けられ、評価額は想定より高くなることも珍しくありません。評価の仕組みは自社株評価の基礎で詳しく解説しています。
経営者保証も相続される
会社の借入で社長個人が連帯保証人になっているケースは少なくありません。民法上、相続人は一身専属的なものを除き権利義務を相続分に応じて承継します。この規定は保証債務にも及び、相続放棄や限定承認で避けられますが、他の財産も同時に手放すことになります。
なお、極度額を定めた個人の根保証契約では、保証人の死亡が元本の確定事由にあたり、死亡後に生じた債務は保証の対象になりません。保証解除の考え方は会社売却で経営者保証は解除できる?で解説しています。
こうした事態を防ぐ事前の備え
社長の急死による混乱の多くは、生前の備えである程度防ぐことができます。代表的な対策は次のとおりです。
- 遺言の作成:自社株の承継先や後任候補を指定し、必要なら事業承継と遺留分対策の民法特例も検討する
- 事業承継計画の策定:後継者・時期・引き継ぎ方を整理しておく
- 種類株式の活用:議決権の集中・分散防止に種類株式を使う方法もある
- 経営者保証の見直し:契約内容を確認し、事業承継時の保証解除を相談しておく
まとめ
- 社長が死亡しても会社は消滅しないが、代表者不在の期間はできるだけ短くする必要がある
- 自社株は遺産分割が終わるまで共有状態になり、議決権行使には権利行使者の指定と会社への通知が必要
- 相続税・自社株評価・経営者保証まで見据えた事前の備えが、急な相続による混乱を防ぐ最大の対策になる
次に読む
- 事業承継計画の作り方:急な相続に備えたい方はこちら
- 分散した自社株の集約方法:株式が複数の相続人に分散した場合の対策
- 事業承継の選択肢まとめ:承継の選択肢を幅広く比較したい方向け

