M&Aの「リアル」を伝える経済メディア

読了目安 約6分

アパレル業界のM&A動向とは?売却相場とポイントを解説

アパレル業界のM&A動向とは?売却のポイントを解説|M&A Times

原材料費の高騰や国内市場の頭打ちを前に、単独での存続に不安を感じているアパレル企業の経営者も少なくないのではないでしょうか。矢野経済研究所の調査によると、2024年の国内アパレル総小売市場規模は8兆5,010億円(前年比101.7%)と4年連続でプラス成長を維持したものの、伸び率は鈍化しています。市場の伸び悩みと供給過多が続くなか、M&Aは会社の存続・成長戦略の一つとして選択肢に入りつつあります。本記事ではアパレル業界特有のM&A動向と、売却のポイントを解説します。

アパレル業界の構造とM&Aが増える背景

国内のアパレル業界は、需要を上回る供給が続く構造的な過剰基調にあります。経済産業省の資料によると、国内のアパレル供給点数は1990年の約20億点から2022年には1.8倍以上に増加した一方、衣料品の輸入浸透率は2022年時点で数量ベース98.5%に達し、国内生産の縮小と海外生産依存が進んでいます。安価な輸入品との価格競争にさらされるなか、単独でのブランド投資やEC化が難しい中小企業は少なくありません。

生産を支える繊維関連の事業所数も、2021年時点で全国約1.3万にとどまり、産地の縮小と職人の高齢化が進んでいます。後継者が見つからないまま廃業すれば、取引先のサプライチェーンごと失われかねません。そのため同業や取引先が事業を承継し、生産体制を維持する動きも出ています。こうした構造要因から、規模拡大やEC・海外販路の獲得を目的にしたM&Aが増えています。

最近の動向

倒産や事業縮小の動きも、M&Aを後押しする要因の一つです。帝国データバンクの調査によると、2025年度の「円安倒産」は69件にのぼりました。業種別では卸売業の38件が最多でしたが、原材料や製品を輸入に依存する繊維・アパレル関連(製造・卸・小売りの横断集計)も25件と目立っています。円安による輸入コストの上昇で採算が悪化し、事業継続を断念する企業が目立っています。

自力での立て直しが難しいと判断した企業が、事業を売却して大手グループの傘下で再建を図るケースも珍しくありません。実例:サザビーリーグは2024年9月2日付で、D2Cブランド「COHINA」を運営していたnewnから同事業を譲り受けました。新設子会社のEGBAが運営を引き継ぎ、newnが培ったファンコミュニティやデジタルマーケティングのノウハウを生かし、DtoCビジネスの拡大を目指すとしています。

この業界のM&Aの特徴

アパレル業界のM&Aは、売り手の事業内容によって評価されるポイントが大きく異なります。本記事では代表的な3つの類型に分けて整理します。

1つ目は、自社ブランドを持つ小売企業です。長年培ったブランドの知名度や顧客のロイヤルティが評価の中心となり、店舗網や在庫の質も加味されます。こうした無形の価値は会計上「のれん」として扱われることが多く、算定の考え方はのれんの記事で解説しています。

2つ目は、ECサイトを主軸とするD2Cブランドです。実店舗を持たない、または少ない企業では、EC化率や顧客データの蓄積、SNSでのファン層の厚みが評価軸になります。前述のCOHINAの事例のように、ブランドの世界観やファンコミュニティごと引き継ぐケースが目立ちます。

3つ目は、OEM・縫製工場など生産を担う企業です。特定の縫製技術や設備、熟練の技術者を抱える工場は、自社で生産機能を持たない企画・販売企業にとって貴重な生産基盤になります。ただし後継者不在のまま廃業に至る例も多く、技術者の年齢構成や継続的な受注確保の見通しが評価を左右します。

評価される資産買い手が見るポイント
ブランド力と顧客ロイヤルティ知名度・世界観の独自性、リピート購入率、店舗の立地と契約条件
EC比率と顧客データEC化率の水準、会員・購買データの蓄積量、SNSのフォロワーとエンゲージメント
OEM生産基盤と技術者特殊技術・設備の有無、技術者の年齢構成と定着率、主要取引先との継続見込み
在庫の質季節・トレンドずれによる不良在庫の割合、評価損リスク、回転率
アパレル業界のM&Aで買い手が重視する評価ポイントの例

売り手・買い手それぞれの視点

売り手の視点

売却を検討する経営者にとって重要なのは、自社がどの類型に近いかを客観的に把握することです。ブランド力で勝負するのか、EC・データ資産で勝負するのか、生産基盤で勝負するのかによって、アピールすべきポイントも交渉相手も変わります。特にOEM・縫製業では、技術承継の道筋を具体的に示せるかどうかが評価に直結します。

買い手の視点

買い手として想定されるのは、大手アパレル企業、商社、EC・IT企業、PEファンドなど多様です。大手アパレルは商品ラインナップの拡充や生産基盤の内製化を、商社は川上から川下までのサプライチェーン強化を目的に買収を検討します。近年はEC事業者やIT企業が、データ活用を目的にD2Cブランドを取得する動きも見られます。買い手の類型ごとの特徴は中小企業M&Aの買い手企業の類型でも解説しています。

PEファンドは、複数のブランドをまとめて再生・成長させる戦略の一環として、アパレル企業に投資するケースもあります。買い手の目的によって、求める資産も交渉の進め方も異なるため、自社がどの買い手層に合うかを事前に見極めることが重要です。

アパレル企業の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、アパレル企業が含まれる大分類「卸売業・小売業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値12.0倍、四分位範囲5.9〜21.0倍(n=484)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値7.7倍(n=336)です。なお、アパレルは業態により製造業(中央値10.7倍)に分類される場合もあります。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値12.0倍を単純に当てはめると約2.4億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.2億円〜約4.2億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、アパレル企業に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 国内アパレル市場は横ばい〜微増基調が続く一方、供給過多と輸入依存という構造要因からM&Aが増えている
  • 売り手はブランド・小売、EC/D2C、OEM・縫製工場の3類型で評価される資産が異なる
  • 買い手は大手アパレル・商社・EC企業・PEファンドなど多様で、自社の強みに合った相手選びが重要になる

次に読む

出典