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クリニック・医院の承継M&A動向と売却相場

クリニック・医院の承継M&A動向|相場と進め方|M&A Times

地域の診療所やクリニックでは、院長の高齢化と後継者不在が進み、廃業ではなく第三者への承継を選ぶケースが増えているとされます。医療は患者の生活に直結するため、承継には一般の中小企業のM&Aとは異なる制度上の制約があります。本記事では統計データで確認できる動向と、承継の基本的な流れ、売り手・買い手それぞれの視点を整理します。

業界の構造とM&Aが起こる背景

厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」(令和4年)によると、診療所の開設者又は法人の代表者の平均年齢は62.5歳とされ、開業医の高齢化が進んでいることがうかがえます。高齢の院長が引退を検討する一方で、子や親族に医師がいない、あるいは医師である子や親族はいても承継の意向がないというケースも少なくないとされます。

医院・クリニックの承継が一般の会社と異なるのは、医療法による制約があるためです。医療は非営利性が求められ、営利を目的とする株式会社などの法人は医療法人の社員(構成員)になれず、医療機関を直接開設・経営することもできないとされています。そのため承継先は医師個人や医療法人などに限られ、事業承継の進め方と重なる論点もありますが、医療特有の許認可の扱いを踏まえる必要があります。

開設形態によって承継の構造も異なります。個人開設のクリニックは開設者の地位を引き継げず、旧開設者の廃止手続きと新開設者による新規開設(開設許可・保険医療機関指定の再取得)を同時に行う形になるとされます。一方、医療法人は出資持分の譲渡や社員の交代により、法人格を維持したまま承継できる点が大きな違いです。医療法人には出資持分がある法人(社員が財産権・返還請求権を持ち相続・譲渡が可能)と、出資持分がない法人(解散時の残余財産が社員に戻らない)があり、2007年施行の第五次医療法改正以降は出資持分なし医療法人のみ新設できるとされます。持分ありの医療法人も一定数存在し、承継時には持分の評価・移転方法が論点になります。

最近の動向

帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」によると、2025年の医療機関の倒産は66件、休廃業・解散は823件、合計889件でいずれも過去最多を更新したとされます。休廃業・解散の80.3%を占める診療所では、年齢が判明した経営者のうち70歳以上が56.7%を占めたと報告されており、経営者の高齢化が増加要因の一つとみられています。

同社「全国『後継者不在率』動向調査(2024年)」によると、医療業(病院・診療所等)の後継者不在率は61.8%で、全業種平均52.1%を大きく上回っていました。2025年調査では全業種平均は50.1%まで改善したとされますが、業種別の内訳は公表されておらず、医療業の最新値は確認できていません。

日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が2020年1月に公表した「日本医師会 医業承継実態調査(医療機関経営者向け調査)」(全国の民間医療機関約4,000施設対象・2019年実施)によると、後継者候補がいない理由は「子・親族がいない」54.3%、「子・親族はいるが承継の意向がない」25.5%とされます。同調査では対象医療機関の約4割が閉院も選択肢と考えており、無床診療所では約5割に達したと報告されています。

実例もあります。2025年5月には、千葉県の医療法人社団明康会が、那覇市で1986年から診療を続けてきた古謝内科医院を事業譲渡により承継し、「いろのわクリニック」として診療を引き継ぎました。仲介を担ったのは地元の琉球銀行で、県境を越えた第三者承継により地域の診療機能が存続した事例です。

また、同じく2025年5月には、奈良県内で病院や介護施設を運営する3つの医療法人(社会医療法人健生会・医療法人財団岡谷会・社会医療法人平和会)が合併し、職員約2,400人の新しい社会医療法人健生会が発足しました。単独のクリニック承継だけでなく、経営基盤の強化を目的とした医療法人同士の統合も選択肢になっていることを示す事例です。

実例:病院・介護施設の経営支援を手がける株式会社ユカリア(東証グロース)は2025年4月、医療機関向けウェブマーケティング・経営コンサルティング事業を営む株式会社ゼロメディカルを完全子会社化すると発表しました。営業ネットワークとウェブマーケティング機能を統合し、提携医療法人の集患力強化やグループの営業体制強化につなげる狙いとみられます。

この業界のM&Aの特徴

クリニック・医院の承継で評価されやすいのは、通院患者基盤や地域での信頼・認知度、保険医療機関としての実績、医療機器・内装等の設備、看護師や医療事務スタッフの体制などとされます。個人開設は事業譲渡に近い形(患者基盤・設備の引継ぎと許認可の再取得)になりやすく、医療法人は出資持分の譲渡や社員の交代で法人ごと承継する形が中心になるとされます。

評価額の考え方も一般の中小企業M&Aと同様に純資産や収益力を踏まえますが、相場や倍率は診療科目・地域・患者数・設備の状態で大きく異なり、一概には言えないとされます。スモールM&Aと同様、金額より地域医療の継続性や患者・スタッフへの影響が重視される傾向もあるといわれます。

医院承継の一般的な流れ

ステップ主な内容
①意思決定・準備承継か閉院かの方向性を検討し、後継者候補の有無を確認。財務状況・診療内容・スタッフ体制を整理する
②承継先の探索・交渉親族・院内医師・第三者などへ相談し、条件面(承継方法・金額・引継ぎ期間等)を交渉して基本合意に至る
③行政手続開設許可・保険医療機関指定の切替等を行う。個人開設は旧開設者の廃止と新開設者の新規開設手続きが必要になり、医療法人は出資持分の譲渡や社員の変更等の手続きが中心となる
④引継ぎ・承継後フォロー患者・スタッフへの周知、地域の連携医療機関への説明、一定期間の並行診療などを経て運営を移行する
個人開設のクリニックは開設者の交代にあたり許認可が承継されず新規開設扱いとなるのに対し、医療法人は出資持分・社員の変更等により法人格を維持したまま承継できる点で手続が異なります。実際の要否は所管の保健所・厚生局への確認が必要です。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手(現院長)の視点

売り手の関心事は、長年築いた患者との関係や地域医療をどう継続してもらうかにあるとされます。金額面だけでなく、後任医師の診療方針、既存スタッフの雇用継続、引継ぎ期間中の同席診療の可否なども交渉の論点になります。個人開設は許認可の再取得に準備期間がかかるため早めの検討が望ましく、税務面(譲渡所得や出資持分の課税等)は個別事情で扱いが異なるため、原則として税理士など専門家への相談が推奨されます。

買い手(承継医師・医療法人等)の視点

買い手にとっては、既存の患者基盤や地域での信頼を活用しながら開業できる点がメリットとされます。一方で設備の老朽化状況、スタッフの雇用条件、医療法人の場合は簿外債務や過去の運営体制の適法性などをデューデリジェンスで確認する必要があり、行政手続の要否・スケジュールは開設形態で異なるため、原則として保健所・厚生局や専門家への事前確認が欠かせません。

クリニック・医院の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、クリニック・医院が含まれる大分類「医療・福祉」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.2倍、四分位範囲3.5〜20.6倍(n=220)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値8.5倍(n=150)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.2倍を単純に当てはめると約1.8億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約7,000万円〜約4.1億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、クリニック・医院に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 開業医の高齢化と後継者不在を背景に、クリニック・医院の休廃業・解散は2025年に過去最多を更新したとされ、第三者承継への関心が高まっています
  • 個人開設は開設者交代が新規開設扱いになり、医療法人は出資持分・社員の変更等で法人格を維持したまま承継できるという構造の違いを理解しておく必要があります
  • 評価額や進め方は診療科目・地域・法人形態によって異なるため、早い段階から専門家に相談しながら検討することが望ましいとされます

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