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葬儀業界のM&A動向|売却相場と後継者不足時代のポイント

葬儀業界のM&A動向とは?後継者不足時代の売却ポイント|M&A Times

「会館は地域で長く続いているのに、継ぐ人がいない」——葬儀社の経営者からそうした声を聞く機会が増えています。日本は年間の死亡数が高水準で推移する多死社会に入っており、葬儀そのものの需要が消えることは考えにくい状況です。しかし件数が下支えされていても、一件当たりの単価は下がりやすく、後継者不在と重なって、地場の葬儀社が第三者への承継を選ぶ動きが広がっています。

業界の構造とM&Aが起こる背景

葬儀業は会館(式場)の維持費や人件費がかかる装置産業であり、宗教者や葬祭ディレクターとのネットワーク構築にも時間を要します。地域で信頼を築いた葬儀社は競争優位を持ちますが、裏を返せば後継者は代替わりのたびにその信頼関係をゼロから築き直す負担を抱えることになります。後継者不在のまま廃業すれば、地域で頼れる葬儀の担い手を遺族が失いかねません

くわえて、家族葬や一日葬、直葬(火葬式)といった小規模な葬儀形態が広がり、通夜・告別式を伴う一般葬の実施割合は下がる傾向にあります。件数自体は当面減らないとみられる一方、規模の縮小で収益性は年々厳しさを増しており、設備投資や人材採用への余力を欠く中小葬儀社ほど、単独での存続が難しくなっています。

最近の動向

厚生労働省の人口動態統計(令和7年・2025年概数)によると、2025年の死亡数は158万9,489人で、5年ぶりに前年を下回ったものの、統計開始以来なお高い水準にあります。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(令和5年推計)でも、年間死亡数は2040年頃まで増加基調が続くと推計されており、葬儀の潜在需要が当面縮む可能性は低いといえます。自社の商圏で見れば「件数は大きく減らないが、選ばれ続けられるか」が経営の分かれ目になるでしょう。

単価をめぐる構図はより深刻です。鎌倉新書の「お葬式に関する全国調査」(2026年・第7回)によると、葬儀費用の総額は通夜・告別式を行う一般葬で122.01万円である一方、家族葬96.39万円・一日葬74.43万円・直葬(火葬式)49.56万円と、規模の小さい形態ほど費用は下がります。実施割合は家族葬47.0%・一日葬11.9%・直葬10.8%で、一般葬(30.2%)より安価な形態が合わせて約7割を占めました。件数が横ばいでも、一件当たりの単価が下がりやすい構造は変わっていません

実例:葬祭大手の燦ホールディングス(東証プライム・9628、公益社などを展開)は2024年、「家族葬のファミーユ」を運営する東証グロース上場のきずなホールディングス(7086)に対し1株2,120円・買付代金最大149億8,300万円の公開買付け(TOB)を実施し、2024年8月に成立し、その後完全子会社化しました。地域ごとに会館網を広げてきたきずな側の株主にはPEファンドも含まれており、上場企業同士でも地域を面で押さえるロールアップ型の再編が進んでいることを示す事例です。

この業界のM&Aの特徴

葬儀社のM&Aで評価されやすいのは、決算書に表れにくい無形の強みです。具体的には、長年の施行実績で培った地域での信頼・紹介ネットワーク、住宅地や駅前に立地する会館そのものの立地と稼働率、寺院・神社・教会など宗教者との関係、そして深夜・早朝でも対応できる搬送体制と人員が挙げられます。これらは一から構築すると年単位の時間がかかるため、買い手にとっては時間を買う意味合いが強くなります。

買い手の顔ぶれは幅広く、同業の葬儀社が近隣エリアの会館ごと買収して施行件数を積み増すロールアップ型のほか、冠婚葬祭互助会や葬祭大手が地盤を補完するために取得するケースがあります。加えて、価格の分かりやすさを武器にする葬儀仲介サービスを運営するIT企業や、小売・鉄道といった異業種の買い手が、集客導線や遊休不動産を生かして地場の葬儀社を系列化する動きも広がっています。スキームは非上場の中小葬儀社であれば株式譲渡が中心ですが、会館などの不動産を切り離す事業譲渡が選ばれることもあります。

バリュエーションの目線は、安定したキャッシュフローに着目する倍率法(EBITDA倍率)や、会館などの資産価値をもとにした純資産法が用いられることが多く、案件ごとの規模・立地・稼働率で幅が生じます。数字だけでなく、宗教者ネットワークや紹介元との関係を譲渡後も引き継げるかが、価格交渉の重要な論点になります

売り手・買い手それぞれの視点

売り手にとって

後継者不在を抱える経営者にとって、M&Aは廃業を避けて従業員の雇用と地域の受け皿を残す選択肢になります。家族経営が中心の葬儀業では「継がせられる子がいない」という個別の事情が根強く残りやすく、売却後もオーナー自身が一定期間現場に残る条件がつくことが少なくありません。従業員の雇用や、宗教者・葬儀用品業者との取引関係が維持されるかどうかは、価格と同じくらい重視すべき点です。

買い手にとって

買い手にとっての魅力は、新規に会館を建てるより短期間で施行件数と売上を積み増せる点にあります。ただし地域ごとに宗教慣習や単価水準が異なるため、他エリアで成功した運営モデルがそのまま通用するとは限りません。取得後も現地の葬祭ディレクターや紹介ネットワークを維持できるかが、投資回収の成否を左右します

葬儀社の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、葬儀社が含まれる大分類「生活関連サービス業・娯楽業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.5倍、四分位範囲5.8〜18.2倍(n=102)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値5.1倍(n=72)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.5倍を単純に当てはめると約1.9億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.2億円〜約3.6億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、葬儀社に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 死亡数の高水準は当面続く見通しだが、家族葬・一日葬・直葬へのシフトで一件当たりの単価は下がりやすい
  • 評価されやすいのは地域の信頼・会館の立地と稼働率・宗教者ネットワーク・搬送体制といった無形の強み
  • 買い手は同業のロールアップから異業種参入まで幅広く、承継後も紹介ネットワークを維持できるかが成否を分ける

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