M&Aの実務では、財務や法務だけでなく、対象会社が使っているシステムやITインフラを調べる場面が増えています。基幹システムが古い独自仕様だったり、セキュリティ管理が不十分だったりすると、統合後に想定外のコストやリスクが発生することがあるためです。本記事では、こうしたITシステム面を調べるITデューデリジェンス(ITDD)について、調査項目と進め方を解説します。
ITデューデリジェンス(ITDD)とは
ITデューデリジェンス(ITDD)とは、対象会社が保有・利用するITシステム、インフラ、セキュリティ体制、IT投資状況、IT組織などを調査し、リスクと価値を評価する手続きです。英語では「IT Due Diligence」と表記され、財務DDや法務DDと並ぶデューデリジェンスの一分野に位置づけられます。
たとえば、システム刷新に本来1億円かかるところを、老朽化した独自システムを使い続けていたことが調査で判明し、買収価格の交渉材料になる、といった使われ方をします。近年は基幹業務のシステム依存度やサイバーセキュリティへの関心が高まっており、ITDDの重要性は増しているとされます。
重要性が高まる背景
ITDDが重視されるようになった背景には、主に次のような事情があります。
- 多くの業種でDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、事業運営がシステムに強く依存するようになったこと
- 買収後に基幹システムを統合する際、想定以上の期間・費用がかかるケースがあり、統合リスクとして事前把握が求められること
- 情報漏えいやランサムウェアなど、セキュリティインシデントが企業価値に直結する事象として認識されるようになったこと
主な調査項目
ITDDでは、以下のような項目を中心に確認します。確認項目の重点は規模や業種により変化します。
| 調査領域 | 主な確認内容 |
|---|---|
| システム・インフラ | 基幹システムの構成、老朽化・独自仕様の有無、クラウド/オンプレの状況 |
| セキュリティ | アクセス管理、過去のインシデント有無、社内規程の整備状況 |
| ライセンス・契約 | ソフトウェアライセンスの適法性、保守・SaaS契約の内容と解約条件 |
| IT投資・コスト | 過去のIT投資実績、今後想定される更新・統合コスト |
| IT組織・人材 | 情報システム部門の体制、外部委託先への依存度、キーパーソンの有無 |
実務での意味
買い手にとって
買い手は、ITDDの結果を統合計画(PMI)の初期設計に反映させます。システム統合の難易度や追加投資の見込みを事前に把握できれば、買収価格やスケジュールの前提として織り込むことができます。逆にITDDを省略すると、統合段階になって想定外のシステム刷新コストが発覚し、計画全体が遅れる原因になり得ます。
売り手にとって
中小企業のオーナー経営者にとっては、ITDDは「日頃あまり意識してこなかった領域を初めて外部の目で点検される機会」になることが多いといえます。ライセンス管理の不備や属人化したシステム運用が見つかると、交渉で不利に働く場合があります。売却を検討し始めた段階で、社内のシステム台帳や契約書を整理しておくと、調査への対応がスムーズになり、財務DDなど他のDDとあわせて評価の低下を防ぎやすくなります。
まとめ
- ITDDは対象会社のシステム・インフラ・セキュリティ・IT組織などを調べ、リスクと価値を評価する手続きです
- DXの進展とシステム統合リスクへの関心の高まりから、重要性が増しています
- 買い手は統合計画の前提づくりに、売り手は事前の社内整理に活用できます
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