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運送・物流業界のM&A動向|売却相場と2024年問題

2024年4月施行の働き方改革関連法によるトラックドライバーの時間外労働上限規制(いわゆる「2024年問題」)を境に、運送・物流業界のM&Aが加速している。レコフデータの集計では2024年上半期のM&A件数が前年同期比42.5%増と、業界の再編は明確な増加傾向にある。ドライバー不足・経営者の高齢化・低い利益率という構造問題が絡み合い、再編の波は中小事業者にまで及んでいる。

運送・物流業界でM&Aが活発な背景

運送・物流業界でM&Aが増加している背景には、複数の構造的要因が絡み合っている。

2024年問題によるコスト増と輸送能力の低下

2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限規制が適用された。これに先立ち、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率も中小企業で25%から50%に引き上げられている(2023年4月適用)。運送業は営業費用に占める人件費の割合が高く、こうした規制強化による人件費の上昇がそのまま収益を圧迫する。国土交通省などによる「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の試算では、対策を講じない場合、2030年度には輸送能力が最大で約25%不足し得るとされている(2025年3月の再検証値)。

ドライバーの高齢化

トラックドライバーは40〜50歳代が中心で、若年層の流入が少ない。この主力世代が引退する10〜20年後にはドライバー不足が一層深刻化する見通しで、既存ドライバーを抱える企業ごと取得するM&Aが即戦力確保の手段として注目されている。

低い利益率と荷主からの値下げ圧力

全日本トラック協会の経営分析(令和5年度決算版)によると、車両10台以下の小規模事業者の営業損益率はマイナス3.6%で、小規模層の約6割が営業赤字と収益環境は極めて厳しい。トラック運送事業者の99.9%が中小企業であり(国土交通省)、個社では荷主に対して価格交渉力を持ちにくい。規模を拡大してコスト効率を高め、荷主との交渉力を引き上げることが、M&Aの重要な動機となっている。

経営者の高齢化と後継者不足

帝国データバンクの調査(2025年)によると、運輸・通信業の後継者不在率は45.7%。近年は改善傾向にあるが、なお半数近い企業で後継者が決まっていない。後継者がいなければ廃業しかないが、廃業は取引先・従業員・保有する運送業許可の喪失を意味する。第三者へのM&A(事業売却)は、事業の継続性を守りながら経営者が引退できる現実的な選択肢として普及しつつある。

最近の動向

レコフデータの集計でも物流業界のM&Aは増加基調が続いており、2024年上半期(1〜6月)のM&A件数は57件と前年同期比42.5%増、取引金額も同2.6倍に拡大した。大手物流企業やファンドによる中堅運送会社の買収・TOBも相次いでおり、規模拡大に向けた動きが続いている。

スキームの多様化も顕著で、上場企業によるMBOや海外物流企業の取得から中小事業者の事業譲渡・民事再生まで幅広い。帝国データバンクの調査では、2025年度の人手不足倒産は441件と過去最多を更新し、道路貨物運送業が55件と業種別で最多を占めており、廃業・倒産前に売却を選ぶ経営者の増加が件数増の一因となっている。

実例:センコーグループホールディングス(東証プライム)は2026年5月、低温物流事業(冷蔵倉庫業・貨物利用運送事業・通関業)を手がけるUmiosロジの株式51.00%を株式譲渡により取得し、連結子会社化すると発表しました(取得価額48億9,000万円・予定)。水産大手Umiosとの包括的業務提携の一環で、大手物流グループが冷凍冷蔵物流の拠点・ノウハウを取り込み事業基盤を強化する再編の一例とみられます。

この業界のM&Aの特徴

運送・物流業のM&Aでは、一般的な製造業や小売業と異なる評価ポイントがある。

  • 一般貨物自動車運送事業の許可:既存許可の引き継ぎは新規取得より圧倒的に速く、行政処分歴など維持状況がデューデリジェンスの重点項目となる。
  • 車両・ドライバーの数と質:稼働車両数と大型・特殊免許保有ドライバー数が即戦力の指標として直接評価される。
  • 荷主との継続取引:特定荷主との長期契約・定期便ルートは安定収益の源泉として高く評価される。
  • 倉庫・拠点の立地:幹線道路・港湾・空港に近い自社拠点は希少性が高く、買い手が重視する有形資産となる。

スキームの選択によって許可の承継方法が異なるため、弁護士・行政書士との連携が不可欠だ。会社売却の進め方も合わせて参照されたい。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手(中小運送会社)の視点

後継者不在・2024年問題対応コストの増大が重なり、「廃業より売却」という選択が広がっている。売却によって従業員の雇用と取引先との関係を維持しながら経営者が引退でき、2024年問題対応の設備投資も買い手グループの資本力で実現できる。一方、平均利益率1.0%という低水準を反映して売却価格は抑えられやすく、秘密保持の管理にも注意が必要だ。

買い手(物流大手・異業種)の視点

同業の大手・中堅はドライバーと車両の即時確保、エリア拡大、荷主取引の引き継ぎを目的とする。異業種(EC・小売・製造)は自前の物流網を内製化し、サプライチェーンの安定を図る目的で参入するケースが増えている。企業価値評価とはを参照しながら、ドライバー数・許可の有効性・荷主属性を精査した上で適正な評価額を算出することが重要だ。

運送・物流会社の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、運送・物流会社が含まれる大分類「運輸業・郵便業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値13.2倍、四分位範囲7.6〜27.6倍(n=130)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値7.1倍(n=95)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値13.2倍を単純に当てはめると約2.6億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.5億円〜約5.5億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、運送・物流会社に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 2024年問題がコスト増と輸送能力低下をもたらし、単独では対応できない中小運送会社のM&Aを加速させている。
  • 半数近い企業の後継者不在(運輸・通信業45.7%、帝国データバンク2025年調査)を背景に廃業回避の売却案件が増加しており、買い手にはドライバーと許可を一括取得できる好機でもある。
  • 評価の核心は「運送業許可の維持状況」「稼働ドライバー数」「荷主との継続取引」で、デューデリジェンスでは許認可承継スキームと労務コンプライアンスを重点確認する。

次に読む

出典
・国土交通省「トラック運送事業の現状等について」(https://wwwtb.mlit.go.jp/chugoku/content/000041561.pdf
・帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
・帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」(https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260409-laborshortage-br25fy/
・国土交通省「2030年度に想定される輸送力不足への対応方針」(https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001984794.pdf
・全日本トラック協会「経営分析報告書(令和5年度決算版)」(https://jta.or.jp/member/keiei/keieibunseki_r05.html
・マールオンライン(レコフデータ)「物流業界のM&A動向」(https://www.marr.jp/genre/market/datadeyomu/entry/53034

出典

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