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印刷業界のM&A動向|売却相場と市場縮小下の再編

印刷業界のM&A動向|市場縮小下の再編と売却の選択肢|M&A Times

印刷業界は、ペーパーレス化や出版市場の縮小によって長期的な構造不況にあります。帝国データバンクの調査によると、2025年度の印刷業の休廃業・解散は230件と前年度から18.6%増え、年間で過去最多を更新しました。倒産(法的整理、負債1000万円以上)91件と合わせると、年間300件超の印刷業者が市場から退出しています。一方で、こうした縮小局面ではむしろ同業同士の統合や周辺分野への進出を狙ったM&Aが活発になっており、単独での存続が難しくなった会社にとって売却は現実的な選択肢になりつつあります。

印刷業界の構造とM&Aが起こる背景

印刷業界の需要縮小は一時的な景気変動ではなく、構造的なものです。日本印刷産業連合会によると、印刷・同関連業の事業所数は1998年の43,693事業所から2010年には29,179事業所へと約3割減少し、2023年6月時点の経済構造実態調査では13,520事業所までさらに縮小しています。背景には、Web・SNSの普及による紙媒体からデジタル広告への需要シフト、電子書籍の普及に伴う出版市場の縮小、業務のデジタル化に伴う帳票・伝票印刷の減少などがあります。

加えて、印刷機は高額な設備投資を伴うため、需要が減っても償却負担だけが残りやすく、経営者の高齢化・後継者不在と重なると事業継続の判断が難しくなります。後継者がいない会社の選択肢として、廃業ではなくM&Aによる譲渡を検討する中小印刷会社が増えているのはこのためです。

最近の動向

帝国データバンクの調査によると、印刷業の売上高はピークだった2007年度の8.3兆円から約7割の水準にとどまっています。日本印刷産業連合会の年次データでも、印刷・同関連業の製造品出荷額は2022年で5兆462億円となり、事業所数・出荷額とも長期的な減少基調が続いています。こうしたなかで印刷各社の間では、同業の買収による事業エリア・顧客基盤の拡大や、パッケージ・包材など需要が底堅い分野への展開を進める動きが目立ちます。

実例:販促サービス・印刷事業を展開する株式会社KYORITSU(東証スタンダード・7795)は2025年9月、連結子会社の西川印刷を通じて福岡の三栄印刷株式会社の全株式を取得し、孫会社化すると発表しました。三栄印刷は創業62年の印刷会社で、熊本・福岡を中心とする西日本での販促サービスの提供エリア拡大や、クロスメディア展開による新規顧客獲得が狙いとされています。

この業界のM&Aの特徴

印刷業界のM&Aで評価されやすいのは、印刷機など生産設備、長年の取引先との顧客基盤、そして熟練オペレーターや営業人材です。とりわけ大判機・特殊印刷機など代替の効きにくい設備を保有している会社は、買い手が自社で新規投資するより取得したほうが早いと判断しやすい資産になります。

典型的なスキームは、同業による株式譲渡での完全子会社化、いわゆる水平統合です。地域の生産拠点を集約してコストを下げたり、顧客層が重なる会社を取り込んでクロスセルにつなげたりする狙いがあります。一方で、印刷そのものにとどまらず、Web制作・広告・BPO(バックオフィス業務受託)など周辺事業への多角化を目的にした買収や、需要が底堅いパッケージ・ラベル印刷への事業シフトを狙った買収も増えています。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手にとって

需要が縮小し続ける業界だからこそ、経営者にとって「誰にも譲れず廃業する」ことが最大のリスクになります。設備は稼働できても後継者がおらず、廃業すれば従業員の雇用も取引先との関係も一度に失われます。M&Aであれば、従業員の雇用継続や取引先との取引維持を条件に交渉できる余地があり、経営者自身も譲渡対価を得たうえで引退できます。

買い手にとって

買い手にとっての印刷業界M&Aは、自社で一から設備投資・人材採用をするより早く生産能力や顧客基盤を獲得できる手段です。地方の印刷会社は地域に根ざした顧客基盤を持つことが多く、大手にとっては営業エリア拡大の近道になります。一方で、印刷機の老朽化の程度や主要取引先への依存度に偏りがないかは、デューデリジェンスで必ず見極める必要があります。

印刷会社の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、印刷会社が含まれる大分類「製造業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値10.7倍、四分位範囲5.6〜18.5倍(n=551)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値6.3倍(n=358)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値10.7倍を単純に当てはめると約2.1億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.1億円〜約3.7億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、印刷会社に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 印刷業界は事業所数・出荷額とも長期的な縮小が続いており、休廃業・解散は2025年度に過去最多を更新した
  • 縮小局面では同業による水平統合や、パッケージ・周辺事業への多角化を狙ったM&Aが活発になっている
  • 売り手にとっては廃業よりM&Aのほうが雇用・取引先を維持しやすく、経営者自身も譲渡対価を得られる選択肢になる

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