不動産仲介・賃貸管理・売買を営む中小事業者は全国に広く存在し、国土交通省の調査では宅地建物取引業者数が11年連続で増加を続けています。その一方で、経営者の高齢化や後継者不在を背景に、中小不動産会社の倒産・休廃業や、事業承継を目的としたM&Aの動きも目立ち始めています。本記事では、公表統計をもとに不動産業界のM&A動向と、この業界で評価されやすい資産・売却のポイントを整理します。
業界の構造とM&Aが起こる背景
国土交通省「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果」(2025年10月3日発表)によると、令和6年度末(2025年3月末)時点の宅地建物取引業者数は132,291業者で、前年度から1,708業者増加(1.3%)、11年連続の増加となりました。業者数自体は増え続けている一方、個人経営や小規模法人が多いことが不動産業界の特徴で、経営基盤が事業者個人の人脈・信用に依存しやすい構造があります。
帝国データバンク「全国『社長年齢』分析調査(2025年)」(2026年2月16日発表)によると、2025年時点の社長の平均年齢は不動産業が62.9歳で全業種中最も高く、製造業(61.6歳)や卸売業(61.5歳)を上回りました。全業種平均は60.8歳であり、不動産業は経営者の高齢化が最も進んでいる業種の一つといえます。こうした高齢化は後継者不在の問題と表裏一体であり、親族内承継が難しい場合の選択肢としてM&Aによる第三者承継が検討される背景となっています。
また、賃貸住宅の管理業務については、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が2021年6月15日に施行され、管理戸数(自己所有物件を除く)200戸以上を扱う賃貸住宅管理業者に登録が義務付けられました。管理業務の適正化・可視化が制度的に進んだことで、管理受託件数や業務体制が事業の評価軸として意識されやすくなっている点も、この業界特有の構造といえます。
最近の動向
帝国データバンクの「倒産集計 2025年度報(2025年4月〜2026年3月)」(2026年4月8日発表)によると、不動産業の倒産件数は309件で、前年度の296件から4.4%増加し、過去10年で最多となりました。全国の企業倒産全体も1万425件と4年連続で前年度を上回っており、不動産業もこの傾向の中で件数を伸ばした形です。
一方、地価の面では、国土交通省が2026年3月17日に発表した2026年1月1日時点の地価公示によると、全国平均(全用途)は前年比2.8%上昇し5年連続の上昇、商業地は4.3%上昇(前年は3.9%上昇)と伸びが拡大しました。東京都の商業地は12.2%上昇するなど、主要都市を中心に地価は堅調に推移しています。市況自体は総じて底堅い一方で、経営者の高齢化や後継者不在を抱える中小事業者にとっては、事業を続けるか、地価・取引環境が良好なうちに譲渡するかを判断する局面が増えているとみられます。
実例:不動産管理事業を展開するエリッツホールディングス(東証スタンダード)は2026年6月、京都市のビル・マンションメンテナンス会社「共栄薬研」の全株式を取得価額約4.05億円で取得し、子会社化すると発表しました。管理物件のメンテナンス業務を外注からグループ内へ切り替えることで、コスト削減と品質管理強化を図る狙いとみられます。
この業界のM&Aの特徴
| 評価されやすい資産 | 買い手が重視する理由 |
|---|---|
| 保有物件・レントロール | 自社保有物件や賃料明細は安定収益の裏づけになる |
| 管理受託契約のストック | 賃貸管理の受託戸数は継続的な手数料収入を生む |
| 宅建業免許・宅建士 | 免許と有資格者の確保は事業継続の前提となる |
| 地域ブランド・仕入れルート | 地元での信用や物件情報の入手経路も評価される |
不動産業のM&Aで評価されやすい資産としては、まず自社保有物件とそのレントロール(賃料・稼働状況の一覧)が挙げられます。稼働率や賃料水準が安定している保有物件は、収益の裏付けとして企業価値評価の基礎になりやすい資産です。次に、管理受託契約に基づく管理手数料収入は、契約が続く限り安定的に積み上がるストック型の収益であり、契約戸数や契約の継続年数が評価上の着眼点になります。
加えて、宅地建物取引業の免許や宅地建物取引士の在籍状況も重要な評価要素です。免許の要件を満たす人材や体制がすでに整っている会社は、買い手にとって新規に免許取得や人材採用を行う手間を省ける点で価値があります。このほか、地域での知名度・信頼関係に基づく地域ブランドや、物件の仕入れルート・地主や地域の不動産事業者とのネットワークも、数値化しにくいものの重視される資産です。スキームは株式譲渡が中心ですが、特定の物件や事業のみを承継したい場合には事業譲渡が選択されることもあります。
売り手・買い手それぞれの視点
売り手にとって
後継者不在の解消が主な動機として挙げられます。個人経営や家族経営が多い業界特性上、経営者の引退時期が事業継続の分岐点になりやすく、事業承継の一手段としてM&Aを検討するケースがみられます。また、大手の資金力やシステムを活用することで、管理業務の体制強化や取扱物件の拡充を図りたいという動機もあります。地価が堅調な局面で保有物件の評価が上がりやすいことも、譲渡のタイミングを検討する要因になり得ます。
買い手にとって
買い手にとっては、管理受託契約や仲介ネットワークをまとめて取得することで、自社単独で顧客基盤を一から構築するよりも早く事業規模を拡大できる点が魅力です。また、地域に根差した会社を取得することで、その地域での仕入れルートや取引先との関係を承継できる点も、買い手側のM&A活用の目的として挙げられます。
不動産会社の売却相場の目安(実測データ)
中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、不動産会社が含まれる大分類「不動産業・物品賃貸業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値22.6倍、四分位範囲10.1〜40.8倍(n=139)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値19.6倍(n=107)です。
たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値22.6倍を単純に当てはめると約4.5億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約2億円〜約8.2億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。
なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。
この倍率は大分類全体の集計であり、不動産会社に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。
まとめ
- 宅地建物取引業者数は11年連続で増加する一方、社長の平均年齢は不動産業が全業種で最も高く、後継者不在の課題を抱える事業者が少なくない
- 不動産業の倒産件数は2025年度に309件と過去10年で最多となり、地価は堅調に推移する中でも中小事業者には厳しい環境がうかがえる
- M&Aでは保有物件・レントロール、管理受託契約のストック収益、宅建業免許・宅建士、地域ブランド・仕入れルートが評価されやすい資産となる
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