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運転資本調整とは?M&A価格調整の仕組み

運転資本調整とは?M&A価格調整の仕組み|M&A Times

M&Aの基本合意書(LOIとも呼ばれます)では大まかな売買価格が決まりますが、実際の入金額はクロージング(決済実行日)直前の財務状況を踏まえて調整されるのが一般的です。とりわけ争点になりやすいのが「運転資本」の扱いです。本記事では運転資本調整の定義と計算方法、代表的な調整方式、買い手・売り手それぞれにとっての意味を解説します。

運転資本調整とは

運転資本調整とは、対象会社の運転資本(売掛金や棚卸資産などの流動資産から買掛金などの流動負債を差し引いた金額)が、あらかじめ合意した基準額から増減した分だけ、クロージング時の最終的な譲渡価格を調整する仕組みのことです。英語では「Working Capital Adjustment」と呼ばれます。

例えば、売掛金3,000万円・棚卸資産2,000万円・買掛金1,500万円の場合、運転資本は3,500万円(3,000万円+2,000万円-1,500万円)です。契約時に基準運転資本を3,200万円と合意していたとすると、クロージング時の運転資本が3,500万円であれば差額の300万円が譲渡価格に上乗せされます。逆に基準額を下回れば、その分だけ価格が減額されます。

なぜ運転資本の調整が必要なのか

企業価値評価(バリュエーション)の多くは、事業が一定水準の運転資本を保持し続けることを前提に将来キャッシュフローを見積もっています。ところがクロージングまでの間に、売り手が意図的に売掛金の回収を急いだり、仕入れを絞って在庫を減らしたりすると、買い手は想定より少ない運転資本しか引き継げず、事業運営に支障が出かねません。運転資本調整は、こうした駆け込みの調整行動によって企業価値がゆがめられることを防ぎ、双方にとって公正な価格を実現するための仕組みです。

なお、運転資本調整は借入金や現金等を対象とするネットデットの調整とは別の論点として扱われるのが原則です。両者を合わせて最終的な支払額が確定します。

代表的な調整方式の比較

運転資本調整の実務には、主に「クロージング調整方式」と「ロックドボックス方式(完全固定方式)」の2つがあります。

方式仕組み特徴
クロージング調整方式クロージング日時点の実際の運転資本を算定し、基準額との差額を事後的に精算する実態に即した価格になりやすい一方、算定基準や集計方法をめぐり交渉が長引くことがある
ロックドボックス方式契約締結前のある基準日時点の財務数値で価格を固定し、その後の変動は原則調整しない価格が早期に確定し手続きが簡素な一方、基準日からクロージングまでの期間のリスクをどちらが負うかが論点になる
運転資本調整における2つの主要な方式

いずれの方式でも、運転資本の算定方法(対象科目の範囲や会計基準の適用)を最終契約書(DA)に明記しておくことが、後日の紛争を防ぐうえで欠かせません。

実務での意味

買い手にとって

買い手にとっては、事業を引き継いだ直後に運転資本が不足し、追加の資金調達が必要になる事態を避けることが重要です。そのため財務DDの段階で過去数年分の運転資本の推移を確認し、季節変動や一時的な要因を除いた「正常な水準」を基準運転資本として交渉することが望まれます。

売り手にとって

売り手にとっては、基準運転資本の設定次第で手取り額が変わるため、決算期特有の在庫水準や取引先の支払サイトなど、自社の事業構造を踏まえた説明力が交渉のカギになります。特に小売業や製造業など季節ごとに仕入れや在庫が大きく変動する業種では、単純な直近1年平均ではなく、繁忙期・閑散期を踏まえた基準額の設定を提案することが有効とされます。

まとめ

  • 運転資本調整とは、クロージング時の運転資本と基準額との差額を譲渡価格に反映させる仕組みである
  • 調整方式にはクロージング調整方式とロックドボックス方式があり、リスク負担の考え方が異なる
  • 基準運転資本の設定は買い手・売り手双方の手取りに直結するため、季節変動などを踏まえた交渉が重要である

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