「事業を止めてから何年も放置している会社をそろそろ整理したい」と考えたとき、清算ではなく売却という選択肢が気になる方は少なくありません。休眠会社にも買い手が付くのか、付くとしたら何が評価されるのか、判断材料が乏しいまま迷いがちです。本記事では事業実態のない休眠会社を保有し、売却するか清算するかを検討しているオーナー向けに、売却の可能性と実務上の注意点を解説します。
休眠会社の売却は「可能だが限定的」
結論から言うと、休眠会社の売却は可能ですが、買い手が付くのは限定的なケースに絞られます。登記が残っているだけの会社そのものに市場価値はほとんどなく、買い手が評価するのは会社が持つ許認可・繰越欠損金・不動産などの固有の資産です。該当する資産がなければ、売却より清算のほうが手間・費用の面で合理的になる場合が多くなります。まだ事業を継続している会社の売却を検討している場合は、「会社売却の進め方完全ガイド」で全体の流れを確認してください。
買い手がつくのはどんなケースか
休眠会社に買い手が付くのは、主に許認可・繰越欠損金・会社に残る資産という3つの価値に着目される場合です。それぞれ引き継げる条件や税務上の制約が異なるため、順に見ていきます。
業種によっては、新規に許認可を取得するより既存の許可を持つ会社を取得するほうが早いと判断され、買収対象になることがあります。ただし、株式譲渡と事業譲渡のどちらのスキームを選ぶかによって許認可を引き継げるかどうかは変わり、業種ごとの個別ルールも存在します。詳しくは「M&Aで許認可は引き継げる?スキーム別の注意点」で解説しているので、対象の許認可が引き継ぎ可能かは個別に確認してください。
もう一つが繰越欠損金です。過去の赤字を将来の黒字と相殺できる繰越欠損金が残っている場合、買い手にとって税負担を抑える材料に見えることがあります。
しかし、休眠会社を買収して繰越欠損金だけを利用しようとする行為は、法人税法57条の2により制限されています。支配関係が生じた欠損等法人が、旧事業を廃止して新たな事業を始めるなど一定の要件に該当すると、繰越欠損金の使用そのものが認められなくなる仕組みです。節税目的での休眠会社買いは税務上否認されるリスクがあるため、繰越欠損金を理由に売却を進める場合は契約前に必ず税理士へ相談してください。
3つ目は、会社に残っている資産そのものがセールスポイントになるケースです。代表的なのは本社や遊休地などの不動産で、不動産を保有したまま休眠している会社は、会社ごと株式を売買する不動産M&Aの対象になり得ます。ほかにも、登録済みの商標や特許などの知的財産、設立から年数を重ねた業歴のある法人格そのものが評価される場合もあります。
ただし、買い手の目的が特定の資産だけにあるなら、会社ごと売買せず資産単体を切り離して売却するほうが手続きが簡単なこともあります。会社ごと売るか資産だけを売るかで税負担も変わるため、どちらが有利かは税理士など専門家に確認したうえで判断してください。
休眠会社の売買で注意すべきポイント
休眠会社の売買では、事業を行っている会社以上に慎重な確認が必要です。休眠期間中の税務申告や社会保険の手続きが未処理のまま残っているケースがあり、買い手に承継された後で発覚すると、簿外債務としてトラブルの原因になります。登記上は動いていなくても、税務・労務上の義務は休眠中も発生し続けている点に注意が必要です。簿外債務の具体的な内容や調査方法は「簿外債務とは?M&Aで問題になるケースと調査方法」で解説しています。
もう一つ注意したいのが、犯罪目的で法人を買い取ろうとする業者の存在です。国家公安委員会の犯罪収益移転危険度調査書では、休眠会社が転売や不正な登記変更を経て法人名義口座の乗っ取りに悪用され、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺などの犯罪収益の隠匿に使われる事例が指摘されています。登記や事業内容を確認しないまま高値での買い取りを持ちかけてくる相手には警戒し、身元の分かる仲介者を通じて取引を進めることが重要です。不審な勧誘を受けた場合は、契約前に司法書士や弁護士に相談してください。
放置するとどうなる?みなし解散制度
売却も清算もせずに休眠会社を放置し続けると、最後の登記から12年が経過した株式会社は、会社法472条に基づく「みなし解散」の対象になります。法務大臣による官報公告から2か月以内に必要な登記や事業継続の届出をしないと、登記所が職権で解散登記を行う仕組みです。みなし解散はほぼ毎年秋に一斉実施されており、令和6年度は全国で約2万7,000件が対象となりました。みなし解散の登記後も3年以内であれば株主総会の特別決議により会社を継続できますが、放置する期間が長いほど選べる選択肢は狭まっていきます。
売却より清算が合理的なケース
許認可や繰越欠損金など、買い手が評価できる資産が見当たらない休眠会社は、無理に買い手を探すより清算を選んだほうが合理的な場合が多くなります。買い手探しには一定の時間がかかるうえ、見つかったとしても簿外債務の調査など売り手側の対応負担は小さくありません。
デューデリジェンスの範囲が事業会社より限定的なため短期間で進むケースもありますが、仲介や専門家に依頼する場合の費用は契約内容により異なるため、着手前に見積もりを確認してください。清算の手続きや費用については「廃業にかかる費用はいくら?解散・清算の内訳と売却との比較」で整理しているので、判断材料として参照してください。
まとめ
- 休眠会社そのものに市場価値はほとんどなく、売却の可否は許認可・繰越欠損金・不動産など固有の価値の有無で決まる
- 繰越欠損金目当ての売却は法人税法57条の2により税務否認のリスクがあるため、税理士への確認が必須
- 放置すると最後の登記から12年でみなし解散の対象になるため、売却・清算・継続のいずれかを早めに判断する
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