会社の株式譲渡価額は、しばしば「純資産の何倍か」という倍率で語られます。しかし中小企業庁の統計をみると、この倍率は会社の規模によって大きく異なります。本記事では、登録支援機関を通じた成約データから、純資産規模別のPBR・PERの実測値を解説します。
純資産規模でみる相場の全体像
中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」は、2022〜2024年度に成約した株式譲渡案件を純資産規模帯別に集計したものです(譲渡側の報告分)。PBRは株式譲渡価額を純資産で割った倍率、PERは株式譲渡価額を純利益で割った倍率です。
集計結果を規模帯別にみると、PBRは純資産が小さい会社ほど高く、PERは純資産が大きい会社ほど高いという逆方向の傾向がみられます。PBR中央値は純資産500万〜1,000万円帯の2.2倍から1億円超の各帯では1.1〜1.3倍まで下がり、PERは同じ500万〜1,000万円帯の8.0倍から3億円超〜5億円帯の14.8倍まで上がります。
PBRは小さい会社ほど高くなる
純資産が小さい会社ほど倍率が高くなるのは、純資産に対して「のれん」(事業そのものの価値)の比重が大きくなるためと考えられます。純資産が薄くても、技術・顧客基盤・許認可などの無形の価値が評価されれば、株式譲渡価額は純資産の何倍にも膨らみます。逆に純資産が厚い会社では、価値の土台がすでに表れているため倍率は小さくなりやすいのです。
| 純資産規模帯 | 中央値 | 四分位範囲 | n |
|---|---|---|---|
| 5百万円以上~1千万円以下 | 2.2倍 | 1.0〜7.3倍 | 182 |
| 1千万円超~2千万円以下 | 1.8倍 | 1.0〜4.2倍 | 306 |
| 2千万円超~3千万円以下 | 1.6倍 | 0.8〜3.2倍 | 262 |
| 3千万円超~4千万円以下 | 1.3倍 | 0.7〜2.5倍 | 213 |
| 4千万円超~5千万円以下 | 1.3倍 | 0.7〜2.8倍 | 175 |
| 5千万円超~1億円以下 | 1.2倍 | 0.6〜2.2倍 | 758 |
| 1億円超~1億5千万円以下 | 1.1倍 | 0.6〜1.9倍 | 400 |
| 1億5千万円超~2億円以下 | 1.2倍 | 0.8〜1.8倍 | 280 |
| 2億円超~3億円以下 | 1.2倍 | 0.8〜1.8倍 | 362 |
| 3億円超~5億円以下 | 1.3倍 | 0.9〜2.0倍 | 343 |
| 5億円超 | 1.3倍 | 0.8〜1.9倍 | 488 |
表で注目したいのは、11の規模帯すべてで中央値が1倍を超えている点です。成約案件の半数以上で純資産以上の価格が付いており、時価純資産に営業利益の数年分を上乗せする年買法の「+α」の裏付けといえます。ただし第1四分位は0.6〜1.0倍の帯が多く、下位25%は純資産割れでの成約も現実にあります。
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PERは大きい会社ほど高くなる
PERは会社の規模が大きいほど中央値が高くなる傾向があり、PBRとは逆方向に動きます。500万〜1,000万円帯の8.0倍に対し、3億円超〜5億円帯は14.8倍、5億円超帯も14.1倍です。規模が大きい会社ほど経営体制や収益基盤が整い、利益の持続性が評価されやすいためと考えられます。
| 純資産規模帯 | 中央値 | n |
|---|---|---|
| 5百万円以上~1千万円以下 | 8.0倍 | 117 |
| 1千万円超~2千万円以下 | 8.4倍 | 196 |
| 2千万円超~3千万円以下 | 9.7倍 | 185 |
| 3千万円超~4千万円以下 | 11.6倍 | 156 |
| 4千万円超~5千万円以下 | 10.0倍 | 130 |
| 5千万円超~1億円以下 | 11.1倍 | 586 |
| 1億円超~1億5千万円以下 | 11.3倍 | 314 |
| 1億5千万円超~2億円以下 | 13.1倍 | 227 |
| 2億円超~3億円以下 | 11.7倍 | 300 |
| 3億円超~5億円以下 | 14.8倍 | 289 |
| 5億円超 | 14.1倍 | 403 |
PBR・PERはいずれもマルチプル法の一種です。同じ集計からはEV/EBITDA倍率も規模帯別にあり、2024年度単年ながら中央値はおおむね6〜11倍に収まっています。
純資産1億円の会社で試算する
たとえば純資産1億円・年間純利益2,000万円の会社を考えます。該当する純資産帯「5千万円超〜1億円以下」はPBR中央値1.2倍、PER中央値11.1倍です。計算するとPBRでは約1.2億円、PERでは約2.2億円となります。
2つの物差しで挟んで考えられるのが実用的な使い方です。開きが出るのは、純資産に対して利益水準が高い会社ほどPER側が大きく出やすいためです。この試算は公表データの中央値を機械的に当てはめた参考値で、個別案件の価格を保証しません。
データを読むときの注意点
この集計には前提となる制約があります。財務データの報告は任意であり、報告案件に一定の偏りが生じている可能性を中小企業庁自身が「相当程度ばらつきがある」「参考として活用されたい」と注記しています。純資産等の算定基準が時価か簿価かも、案件によって統一されていません。
規模帯によって集計件数(n)にも差があり、117件から758件まで幅があります。EV/EBITDA倍率は2024年度のみの集計で、2022・2023年度分は対象外です。集計対象も登録支援機関経由の成約案件に限られ、当事者同士の直接交渉などは含まれません。
出典:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(https://ma-shienkikan.go.jp/statistics-report、2026年8月2日取得)
まとめ
- PBR(純資産倍率)は小規模ほど高く、500万〜1,000万円帯で中央値2.2倍、1億円超は1.1〜1.3倍です
- PER(利益倍率)は逆に大規模ほど高く、500万〜1,000万円帯8.0倍に対し3億円超〜5億円帯は14.8倍です
- 全規模帯でPBR中央値が1倍を超え、純資産以上の価格で成約するケースが半数以上を占めます
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