日本企業のM&A件数が「過去最多」というニュースを見て、大企業や上場会社の話だと感じた経営者の方も多いのではないでしょうか。実際にはこの増加を押し上げているのは中小企業の事業承継型M&Aであり、統計の中身を追うと、会社の譲渡が特別な決断ではなく経営の選択肢の一つになりつつある実態が見えてきます。本記事では日本企業のM&A件数の推移と、増え続ける背景を整理します。
M&Aの件数が増えているという実感のなさ
地元の同業者が会社を譲渡した、取引先が買収されたといった話を耳にする機会は、以前より増えていると考えられます。それでも「自社には関係のない話」と受け止めている経営者は少なくないでしょう。しかし件数の推移を長期で見ると、M&Aが一部の大企業の専売特許だった時代から、後継者不在という構造課題を背景に裾野が広がってきた変化が読み取れます。増加の中身を知っておくことは、いずれ自社にも訪れうる選択肢を、慌てずに検討するための土台になります。
統計が示す推移の実態
日本企業のM&A件数を長期で追う代表的な統計が、M&A専門誌「マール」・情報サイト「MARR Online」を運営するレコフデータの調査です。1990年代は年間500件程度で推移していましたが、2000年代に入ると増加ペースが加速し、2004年には2,211件、2006年には約2,800件に達しました。その後、2008年のリーマンショックを機に企業の投資マインドは急速に冷え込み、2011年には1,687件まで落ち込みました。
2012年以降は回復基調に転じ、2017年に3,000件、2019年には4,000件を突破します。新型コロナウイルス感染症の拡大で2020年は一時的に鈍化したものの、2021年には4,280件まで回復し、2024年には過去最多水準に達しました。そして2025年の国内M&Aは5,115件・35.7兆円と件数・金額とも過去最高を更新し、2年連続の最多更新となっています(レコフデータ調べ、2026年1月5日発表)。
| 年 | M&A件数(レコフデータ調べ) |
|---|---|
| 2004年 | 2,211件 |
| 2006年 | 約2,700件(当時のピーク) |
| 2011年 | 1,687件(リーマン後の底) |
| 2017年 | 3,050件(3,000件突破) |
| 2021年 | 4,280件 |
| 2025年 | 5,115件(過去最多) |
増加を支える4つの構造変化
件数が右肩上がりで推移している背景には、複数の構造変化が重なっていると考えられます。
- ①後継者難による事業承継型M&Aの浸透――帝国データバンクの2025年調査では、全国の後継者不在率は50.1%と前年から2.0ポイント低下し、7年連続で改善しました。それでもなお半数前後の企業で後継者が定まっておらず、事業承継を目的としたM&Aが件数の裾野を広げています。
- ②スモールM&A市場の形成とマッチングサイトの普及――従業員数十名規模の会社でもM&Aマッチングサイトを通じて数百万〜数千万円規模の譲渡が成立するようになり、これまで統計に乗りにくかった小規模案件が件数として表面化しています。M&A支援機関の登録数も、中小企業庁の資料によれば2026年3月時点で約3,400者に達し、仲介・FAの担い手自体も増加しました。
- ③PEファンド・金余りを背景にした買収余力――国内外のPEファンドが積み上がった資金を投資先に振り向ける動きが続き、事業承継の受け皿としての存在感も増しています。
- ④大企業の事業ポートフォリオ再編――ノンコア事業の切り出しや事業譲渡が活発化し、大企業発のM&Aも件数を押し上げています。構造的な背景の詳細はなぜ今、中小企業のM&Aが増えているのかで説明しています。
実務への示唆
統計上の増加を自分ごと化するために、経営者が明日から取り組めることがあります。まず、決算書・株主名簿・許認可関係の書類など、譲渡や資本提携の検討時に必ず求められる資料を、日頃から整理しておくと初動が早くなります。次に、相談先を一つ決めておくことです。公的機関であれば事業承継・引継ぎ支援センター、民間であれば顧問税理士やM&A仲介会社への相談が選択肢になります。
検討が具体化した段階では情報管理にも注意が必要です。資料は関係者を限定して保管し、社内での呼称は伏せ、面談は社外の会議室を使うといった配慮が、取引先や従業員への影響を最小限に抑えることにつながります。
まとめ
- 日本企業のM&A件数はレコフデータ調べで2025年に5,115件となり、2年連続で過去最多を更新した
- リーマンショック後の落ち込みを経て、2010年代以降は後継者難やマッチングサイトの普及を背景に裾野が拡大してきた
- 増加の中心にあるのは中小企業の事業承継型M&Aであり、経営者にとって会社の譲渡は特別な決断から経営の選択肢の一つになりつつある
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