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旅行会社・旅行代理店のM&A動向と売却相場

旅行会社・旅行代理店のM&A動向と売却のポイント|M&A Times

店舗の来店客数が減り、若手スタッフの採用もままならない。そんな悩みを抱える旅行会社の経営者は少なくありません。訪日需要の回復で市場全体は上向く一方、業界の足元では小さな旅行会社の売却や事業承継が静かに進んでいます。本記事では旅行業の構造とM&Aの動向、売却を検討する際のポイントを解説します。

旅行業の構造とM&Aが起こる背景

旅行業を営むには、旅行業法に基づく登録が必要です。観光庁によると、旅行業者は業務範囲に応じて第1種・第2種・第3種・地域限定旅行業者・旅行業者代理業・旅行サービス手配業(ランドオペレーター)に区分され、海外パッケージツアーまで扱える第1種のみ観光庁長官登録、それ以外は都道府県知事登録です。登録区分によって扱える商品の範囲と登録行政庁が変わるため、M&Aで会社を引き継ぐ際もどの区分の登録を持つ会社かが重要な論点になります。

東京商工リサーチが国内旅行業1,110社を対象に行った調査(2022年公表、2021年12月期決算ベース)では、従業員10人未満の小・零細企業が75.6%を占め、業界の大半を家族経営に近い小規模事業者が支えている実態が示されました。加えて日本旅行業協会(JATA)が2025年7月に観光関連事業者・自治体1,107者へ行った意識調査でも人手不足を課題に挙げる回答が半数を超えており、採用難がそのまま事業継続の壁になっている経営者は多いはずです。

後継者不在の問題は、旅行業特有の登録制度によってさらに重くなります。旅行業法では、合併や事業の全部譲渡・全部の会社分割で会社が消滅する場合、旅行業登録もいったん失効し、存続会社や譲受人が改めて登録を受けたうえで営業保証金の権利承継届を6か月以内に提出して初めて、従来の保証金が引き継がれたものとみなされます。株式譲渡なら登録主体の法人格自体は変わらず新規登録は不要ですが、事業譲渡や会社分割では買い手が事前に登録を取得しておく必要があります(M&Aで許認可は引き継げる?スキーム別の注意点も参照)。

最近の動向

観光庁の調査(令和7年4月1日現在)によると、2025年の旅行業者数(代理業含む)は1万134事業者で前年比1.1%増加しました。内訳では、地域限定旅行業者が687から784へ、旅行サービス手配業者が前年比23.9%増の3,243事業者へと大きく伸びる一方、店舗を構えて他社商品を取り次ぐ旅行業者代理業は492から460へ減少しています。小規模・専門特化型の登録は増え、従来型の代理店網は縮小するという二極化が進んでいます。

東京商工リサーチによると、2023年に設立された旅行業の新設法人は520社と前年比90.4%増加し、同年5月の新型コロナ5類移行によるインバウンド需要の急回復と符合します。倒産件数も低水準で、2024年(1〜12月)の旅行業の倒産は22件と過去30年で2番目に少ない水準でした。とはいえ業界の新陳代謝が止まったわけではなく、体力の乏しい小規模事業者ほど廃業ではなくM&Aによる譲渡を選ぶ動きに置き換わっていると見るほうが実態に近いといえます。

旅行業界のM&Aで目立つのは、オーナー経営者の高齢化・後継者不在を背景にした第三者への事業承継型の譲渡です。加えて、鉄道・レジャー大手や異業種の企業がインバウンド需要の取り込みを狙い、専門性の高い旅行会社を買い手として取得するケースも増えています。PEファンドが保有していた旅行会社を、シナジーを見込む事業会社へ売却する投資回収(イグジット)型の譲渡も見られます。

実例:西武ホールディングスは2025年1月、外国人旅行客向けの体験型ツアーを企画する奥ジャパン(京都市)の全株式を、投資ファンドのエンデバー・ユナイテッド2号投資事業有限責任組合から取得し、子会社化したと発表しました。ホテル・鉄道事業を持つ西武グループが、体験価値の創出という長期戦略に沿って、ファンドが保有していた専門特化型旅行会社を事業会社が引き取った譲渡です。

この業界のM&Aの特徴

旅行会社のM&Aで買い手が重視するのは、単なる売上規模だけでなく独自の資産も対象となります。とりわけ次の4点は評価されやすいポイントとして押さえておきましょう。

資産買い手が重視する理由
旅行業登録新規登録の審査・準備期間を省き、既存の登録区分をそのまま活用できるため
顧客基盤・法人契約団体旅行や社員旅行など継続的な送客が見込める安定収益になるため
専門人材(旅行業務取扱管理者など)有資格者の採用難が続くなか、即戦力の人材をまとめて確保できるため
企画力・仕入れルート独自の着地型コンテンツやランドオペレーター網は模倣しにくい強みになるため

バリュエーションは業績や保有資産によって幅がありますが、登録・人材・仕入れルートといった無形の資産が価格に反映されやすい業界とされます。スキームは株式譲渡が中心で、事業譲渡や会社分割は買い手が事前に旅行業登録を取得する手間とリスクがあるためです。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手にとって

店舗網や顧客基盤を築いてきた経営者にとって、後継者不在のまま廃業すれば、長年の取引先や従業員との関係も一度に途切れてしまいます。M&Aなら屋号やスタッフの雇用を維持したまま経営を引き継げ、売却資金を引退後の生活や次の事業に充てることもできます。ただし登録の空白期間が生じないよう、スキーム選定は早めに専門家へ相談しておくことが望ましいでしょう。

買い手にとって

買い手にとって旅行会社の取得は、時間をかけても得にくい登録・人材・送客網を一度に獲得する手段です。特に地域限定旅行業や旅行サービス手配業など、地域・領域に特化した会社は自社では代替しにくい価値を持ちます。一方で、旅行業務取扱管理者の配置義務や営業保証金の承継手続きなど、業法上の実務対応を引き継ぐ前提でスケジュールを組むことが欠かせません。

旅行会社の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、旅行会社・旅行代理店が含まれる大分類「生活関連サービス業・娯楽業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.5倍、四分位範囲5.8〜18.2倍(n=102)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値5.1倍(n=72)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.5倍を単純に当てはめると約1.9億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.2億円〜約3.6億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、旅行会社・旅行代理店に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 旅行業は登録区分によって扱える商品と登録行政庁が異なり、M&Aでは登録の承継方法(株式譲渡か、事業譲渡・会社分割か)を最初に確認する必要がある
  • コロナ後は人手不足や店舗型代理業の縮小を背景に、後継者不在の小規模事業者による事業承継型M&Aが進んでいる
  • 買い手は登録・顧客基盤・専門人材・企画力を重視するため、売り手はこれらの資産を可視化しておくと交渉が進めやすい

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