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建設業のM&A動向|売却相場と業界再編の背景

後継者問題と技術者不足が深刻化する建設業では、M&Aによる業界再編が加速しています。帝国データバンクの調査(2025年)によると、建設業の後継者不在率は57.3%と全8業種で最高水準を記録し、東京商工リサーチの調査では2024年の後継者難倒産(建設業)が105件と過去最多に達しました(2025年度は96件とやや減少したものの高水準が続いています)。こうした構造的な課題を背景に、M&Aは経営者にとって重要な選択肢となっています。

建設業でM&Aが活発な背景

経営者の高齢化と後継者不足

帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2025年)」によると、建設業の後継者不在率は57.3%で、全業種平均(50.1%)を7.2ポイント上回ります。2018年には71.4%に達していた不在率は改善傾向にあるものの、依然として業種別では最高水準です。東京商工リサーチの調査では、後継者難倒産は2024年に全体で462件と5年連続の過去最多を更新し、建設業が105件(前年比6.0%増)と産業別最多でした。2025年度は全体461件と年度ベースの最多を更新した一方、建設業は96件(前年度比9.4%減)と2番目に後退しています。

技術者・職人の高齢化と人手不足

建設業の就業者構造も高齢化が進んでいます。国土交通省の統計(総務省「労働力調査」を基に算出)によると、建設業就業者の55歳以上が約36%を占める一方、29歳以下は約12%にとどまります。また、高齢の建設業従事者が今後10年間で大量に引退すると見込まれ、深刻な人手不足が予測されています。2024年4月には建設業に時間外労働の罰則付き上限規制が適用され(いわゆる2024年問題)、技術者・技能者の確保競争はさらに激化しています。

建設業許可・経営事項審査の承継ニーズ

建設業を営むには業種ごとに建設業許可の取得が必要であり、許可は5年ごとの更新が求められます。かつてはM&Aや事業譲渡を行うと許可が失効し、新規取得まで工事を受注できない空白期間が生じるケースがありました。2019年の建設業法改正(2020年10月施行)により、合併・分割・譲渡における許可承継の事前認可制度が整備され、手続きが明確化されました。この制度整備がM&Aを後押しする要因の一つとなっています。

地域での生き残りとシェア確保

地方では建設会社間の競合が激しく、単独での受注基盤維持が難しくなっています。M&Aによって施工エリアや工種を補完し合うことで、安定した受注を確保する動きも広がっています。また、新築需要が縮小する中でメンテナンス・リフォーム領域への進出を目的とした買収も見られます。

最近の動向

民間調査によると、上場企業が当事者となる建設業のM&Aは近年大きく増加しており、この5年間で件数が数倍規模に拡大したとされています。2025年に入っても件数は高い水準で推移しているとみられます。

近年は、後継者不在を理由とする売却だけでなく、「会社をさらに成長させたい」「新たな営業機会を得たい」といった成長志向のM&A案件も増えているとされています。

なお、国土交通省「令和7年度建設投資見通し」では2025年度の建設投資は75兆4,500億円(前年度比2.5%増)と予測されており、市場自体の拡大基調も買い手企業の積極姿勢を後押ししています。

実例:工藤建設(東証スタンダード)は2025年4月、土木工事業を営む松下工商(神奈川県、資本金2,000万円)の全株式を取得し完全子会社化すると発表しました(同年7月1日付で実行)。同社が持つ土木工事のノウハウや技術力を有する技能者の確保によるグループシナジー創出を目的とした案件です。

建設業のM&Aの特徴

建設業のM&Aでは、有形資産(機械・設備・土地)に加え、許認可や人的資産が重要な評価軸となります。

評価されやすい資産

  • 建設業許可の保有状況:保有業種・許可区分(一般・特定)、空白期間なしの維持実績
  • 経営事項審査(経審)の評点:公共工事入札の資格基準となるため、高評点は希少価値を持つ
  • 有資格技術者の数と資格種別:建築士、施工管理技士、監理技術者など国家資格保有者の数は買い手が特に重視する
  • 施工実績・取引先の安定性:元請け比率、公共工事比率、大手ゼネコンや自治体との継続取引は評価を高める

許認可の承継が論点になる

M&A後も建設業許可を維持するには、経営業務の管理責任者(常勤役員等)の体制と、各営業所に置く専任技術者を継続して確保する必要があります。株式譲渡(会社そのものを売買する方法)であれば許可はそのまま引き継がれます。事業譲渡・合併・分割の場合も、事前に認可を受ければ許可を承継できます(2020年10月施行の改正建設業法による事業承継認可制度。認可を受けない場合は新規の許可申請が必要)。株式譲渡と事業譲渡の違いを正確に理解したうえで、スキームを選択することが建設業M&Aの重要なポイントです。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手側の視点

後継者がいない経営者にとって、M&Aは廃業・清算を避けながら従業員の雇用と取引先との関係を守る手段です。長年築いた施工実績や許認可を譲渡価格に反映させることができ、廃業時には消滅してしまう無形資産に価値を付けられる点が大きなメリットです。早期に相談・準備を進めるほど選択肢が広がります。会社売却の進め方も参照してください。

買い手側の視点

買い手にとって建設業のM&Aは「許認可・人材・施工エリア」を一括取得できる手段です。自社で新たに許可を取得し、技術者を採用し、実績を積み上げるには相当の時間とコストがかかるため、M&Aで即戦力の体制を手に入れる方が効率的な場合があります。ただし、買収後に経営業務管理責任者・専任技術者の要件を満たせないと許可が失効するリスクがあるため、デューデリジェンスの段階で人員体制を詳細に確認することが欠かせません。

建設会社の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、建設会社が含まれる大分類「建設業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値11.6倍、四分位範囲5.9〜22.6倍(n=532)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値5.4倍(n=310)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値11.6倍を単純に当てはめると約2.3億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.2億円〜約4.5億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、建設会社に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 建設業の後継者不在率は57.3%(帝国データバンク・2025年)と全業種で最高水準。後継者難倒産も高水準で推移しており(建設業は2024年105件で産業別最多、2025年度は96件)、業界のM&A需要は構造的に高い。
  • 上場企業が関与する建設業M&Aは近年大きく増加しているとされる(民間調査)。許認可承継の法整備と2024年問題による技術者不足がM&A加速の背景にある。
  • 建設業M&Aでは建設業許可・経審評点・有資格技術者数が評価の核心。株式譲渡か事業譲渡かによって許可承継の手続きが異なるため、スキーム選定が重要な論点となる。

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出典

本記事は以下の資料・調査を参照しています。