最終契約書に調印しても、M&Aはその場で完了するわけではありません。契約締結からクロージング(決済・引継ぎの実行)までの間に、あらかじめ定めた条件がすべて満たされて初めて取引は実行に移ります。本記事ではこの「クロージング条件(CP)」の内容と、条件を充足できない場合の扱いを解説します。
クロージング条件(CP)とは
クロージング条件(CP:Conditions Precedent、クロージングの前提条件)とは、最終契約書に定められた、クロージングを実行するために満たすべき条件のことです。例えば譲渡対価3億円の株式譲渡契約で「表明保証違反がないこと」「主要取引先からのCOC(チェンジオブコントロール)同意取得」をCPとした場合、これらが満たされない限り買い手は決済義務を負いません。英語では「Conditions Precedent」、略して「CP」または単に「Closing Conditions」と呼ばれます。
代表的なクロージング条件
クロージング条件は買収の規模やリスクに応じて個別に設計されますが、実務でよく用いられる項目は共通しています。特に表明保証の正確性は、ほぼすべての契約で中心的なCPに位置づけられます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 表明保証の正確性 | 表明保証の内容に重大な虚偽・誤りがないこと |
| 誓約事項の履行 | 契約締結からクロージングまでに合意した誓約事項(善管注意義務での事業運営など)を履行していること |
| 許認可の取得 | 業法上必要な許認可の承継・取得手続きが完了していること |
| COC条項の同意取得 | 主要契約のチェンジオブコントロール条項に基づき、取引先の同意が得られていること |
| キーマンの在籍 | 事業運営に不可欠な経営陣・従業員が離職していないこと |
| MACの不発生 | 契約締結後に重大な悪影響(Material Adverse Change)が生じていないこと |
充足できない場合の扱い
クロージング条件が期日までに満たされない場合、契約書の定めに従い次のいずれかで対応するのが一般的です。
- クロージング延期:条件充足の見込みがある場合、当事者間の合意でクロージング日を延期します
- 条件放棄(ウェイバー):不充足が軽微であれば、利益を受ける当事者(通常は買い手)が条件を放棄してクロージングを進めます
- 契約解除:重大な不充足が是正されない場合、契約書の解除条項に基づき取引自体を解除します
どの対応を取るかは契約書上の解除権・ウェイバー権の定め方次第です。事前のデューデリジェンス(DD)で判明したリスクをどこまでCPに落とし込むかが、契約交渉の焦点の一つになります。
実務での意味
買い手にとって
買い手にとってCPは、契約締結後に発覚したリスクから身を守るための最後の防波堤です。一方でウェイバー権を柔軟に確保しておくことで、軽微な問題で取引全体が頓挫するリスクを避けられます。
売り手にとって
売り手にとっては、CPの数が多く内容が曖昧なほどクロージングの不確実性が高まります。契約交渉の段階でCPの範囲を具体的かつ限定的に絞り込み、達成可能な内容にしておくことが実務上の注意点です。特に許認可の取得やキーマンの在籍確保など、自社だけではコントロールしにくい条件については、期限や努力義務の水準をあらかじめ明確にしておく必要があります。
まとめ
- クロージング条件(CP)とは、最終契約書に定めるクロージング実行の前提条件のこと
- 表明保証の正確性・誓約事項の履行・許認可取得・COC同意・キーマン在籍・MAC不発生が代表的な項目
- 充足できない場合は、クロージング延期・条件放棄(ウェイバー)・契約解除のいずれかで対応する
次に読む
- クロージングとは:CPを満たした後に実行する、M&A成約の最終手続きを解説します。
- 最終契約書(DA)とは:CPを定める契約書本体の構成と主要条項を解説します。
- チェンジオブコントロール条項とは:代表的なCP項目の一つであるCOC条項を深掘りします。

