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訪問看護ステーションのM&A動向と売却相場

訪問看護ステーションのM&A動向と売却のポイント|M&A Times

住み慣れた自宅で医療・介護を受けたいというニーズの高まりを背景に、訪問看護ステーションは増え続けています。厚生労働省の令和6(2024)年介護サービス施設・事業所調査によると、2024年10月1日時点の事業所数は18,042か所で、前年から1,619か所(9.9%)増加しました。一方で、看護師の確保が難しく管理者一人に運営が依存しがちな小規模事業所では、事業継続の選択肢としてM&Aや事業承継への関心が高まっています。

訪問看護ステーション業界の構造とM&Aが起こる背景

訪問看護ステーションは在宅医療・地域包括ケアの担い手として需要が拡大する一方、経営の実態は小規模事業所が中心という構造を抱えています。同じ厚労省調査(2024年10月1日現在)では、開設主体の66.8%が営利法人(会社)で、医療法人は18.2%、社会福祉法人は4.5%にとどまります。多くが数名規模の看護師チームで運営されている実態がうかがえます。

訪問看護ステーションには、保健師・看護師・准看護師を常勤換算2.5人以上配置し、うち1名は常勤とすること、管理者は原則として保健師または看護師が常勤・専従で務めることという人員基準があります(指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準)。管理者や中核となる看護師が欠けるとサービス提供自体が難しくなるため、小規模事業所ほど人材の確保・定着が経営の生命線になります。

最近の動向

一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によると、2025年4月1日時点の稼働数は18,754か所で、前年から1,425か所増加しました。同時に、2024年度中の新規開設は2,487件で過去最多を記録した一方、廃止は886件、休止は355件といずれも過去最多となっています。開業と撤退の双方が同時に過去最多を更新している状態は、事業所の新陳代謝が急速に進んでいることを示しています。

大手介護事業者に加えて、在宅対応を強化したい調剤薬局など異業種による取得も見られます。看護師人材や利用者基盤をまとめて獲得できることが、これらの買い手にとっての狙いです。

実例:介護大手の株式会社ツクイは2025年11月28日付で、栃木県宇都宮市で居宅介護支援と訪問看護の2事業所を運営する合同会社KIZUNA・絆の持分を取得し、完全子会社化しました。地域で信頼を築いてきたオーナー系事業所を大手が引き継ぐ、承継型M&Aの一例です。

この業界のM&Aの特徴

訪問看護ステーションのM&Aで評価されやすいのは、看護師チームの確保状況や定着率、利用者基盤の規模、近隣の医療機関・ケアマネジャーとの連携関係、そしてエリア内の稼働率です。建物や設備よりも「人」と「紹介ネットワーク」が価値の源泉になりやすい点が、この業界ならではの特徴といえるでしょう。

スキームは、対象会社の株式を譲り受ける株式譲渡が中心です。株式譲渡であれば法人格は継続するため、介護保険法上の指定は原則としてそのまま引き継がれ、代表者変更等の届出で足ります。

一方、事業譲渡や合併では扱いが異なります。内閣府の規制改革推進会議に厚生労働省が提出した資料によると、介護保険法・老人福祉法などには合併・事業譲渡等に特有の規定はなく、譲受側の事業所は原則として新規の指定申請が必要です。吸収合併等で事業所が実質的に継続運営される場合は提出書類の一部簡素化が認められていますが、指定そのものが自動的に承継されるわけではありません。デューデリジェンスの段階で、人員基準の充足状況とあわせて確認しておくべき論点です。

スキーム指定の扱い実務上の主な論点
株式譲渡法人格が継続するため原則そのまま承継代表者変更等の届出で足りる
事業譲渡譲受側で新規の指定申請が必要空白期間を避けるため早めの事前相談が要点
合併・会社分割譲受側で新規の指定申請が必要(書類の一部簡素化あり)職員・利用者の継続性の説明を整理

売り手・買い手それぞれの視点

売り手にとって

後継者がおらず、自身が管理者を兼ねて事業を支えてきた経営者にとって、M&Aは利用者への訪問看護を途切れさせずに引き継ぐ現実的な選択肢です。スモールM&Aとして、比較的小規模な事業所同士でも成立しやすい点も特徴といえます。譲渡後の雇用条件や利用者への説明のタイミングは、契約交渉の初期段階から詰めておく必要があります。

買い手にとって

買い手にとっての魅力は、採用が難しい看護師人材をチームごと獲得できることと、既存の医療・介護ネットワークにエリアを広げられることです。指定の承継可否とスキーム選定を早期に見極めることが、対象事業所のサービスを途切れさせないための実務上の要点になります。

訪問看護ステーションの売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、訪問看護ステーションが含まれる大分類「医療・福祉」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.2倍、四分位範囲3.5〜20.6倍(n=220)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値8.5倍(n=150)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.2倍を単純に当てはめると約1.8億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約7,000万円〜約4.1億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、訪問看護ステーションに特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 訪問看護ステーションは事業所数が増加を続ける一方、新規開設・廃止・休止のいずれも過去最多を更新しており、小規模事業所の新陳代謝が進んでいる
  • 評価されやすいのは看護師チームや利用者基盤、医療機関との連携ネットワークであり、建物や設備そのものではない
  • 株式譲渡なら指定は原則そのまま引き継がれるが、事業譲渡・合併では新規の指定申請が原則必要で、スキーム選びが実務上の重要な論点になる

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