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食品製造業のM&A動向とは?売却相場と後継者不足時代の戦略

食品製造業のM&A動向とは?後継者不足時代の売却戦略|M&A Times

食品製造業は、原材料や包装資材の高騰、深刻な人手不足、そして経営者の高齢化と後継者不在が同時に押し寄せている業界です。多くが家族経営の中小・零細企業であるため、単独での設備投資や衛生管理体制の強化に限界を感じる経営者が増えています。本記事では、公的統計と実際の買収事例をもとに、食品製造業でM&Aが広がる背景と、売却を検討する際のポイントを整理します。

業界の構造とM&Aが起こる背景

食品製造業は、事業所の97.4%が中小企業・零細企業で占められ、家族経営や地域密着の工場が中心です(農林水産省調べ、2024年6月時点)。出荷額でも中小企業・零細企業が合わせて7割超を占め、大企業が5割超を占める製造業全体とは対照的な構造です。有効求人倍率は2024年度で2.89倍と全産業平均(1.31倍)の2倍以上で推移し、採用難が慢性化しています。労働生産性も710万円と全産業平均(968万円)を下回り、単独で人手不足とコスト高の両方に対応する体力を欠く事業者が少なくありません。

衛生管理面の負担も増しています。2021年6月に完全施行された改正食品衛生法により、原則すべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理への対応を求められるようになりました(農林水産省)。大手はシステムや専門人材で対応できますが、中小の工場では設備更新や記録体制の整備が重荷になりやすいのが実情です。原材料価格の上昇も追い打ちをかけており、帝国データバンクの調査では食品主要195社の値上げ理由として「原材料高」が92.5%に達した一方、コスト増を価格転嫁しきれない中小事業者ほど収益を圧迫されています。

最近の動向

経営者の高齢化に、後継者不在の問題が重なっています。帝国データバンクの「後継者不在率」動向調査(2025年)によると、全業種の不在率は50.1%と7年連続で改善したものの、製造業でも依然として4割超(42.4%)が後継者「不在」または「未定」という状態です。原材料高や人手不足で先行きの見通しを立てにくいなか、体力のあるうちに第三者への承継を検討する経営者が増えています。

価格転嫁の難しさは、廃業・倒産という形でも表れています。東京商工リサーチの集計では、2024年1〜11月の食品業の倒産は619件(前年同期比10.5%増)に達し、うち製造業は171件と前年同期を16.3%上回りました。原材料やエネルギーコストの上昇分を販売価格に十分転嫁できない小規模な工場ほど、資金繰りが厳しくなりやすい構図です。

実例:東証プライム上場のヨシムラ・フード・ホールディングスは、後継者不在などで事業の継続が難しくなった中小食品企業を、売却目的ではなく継続保有を前提にグループ化する「中小企業支援プラットフォーム」を掲げています。同社はこのモデルで多数の中小食品メーカーを傘下に収めており、単独では大手の買収対象になりにくい規模の食品メーカーにも、承継の受け皿となる買い手が存在する事例となっています。

この業界のM&Aの特徴

食品製造業のM&Aで評価されやすいのは、決算書には表れにくい無形の資産です。具体的には、消費者に浸透したブランドやロングセラー商品のレシピ・製法、スーパーや卸を通じた販路・取引関係、保健所からの営業許可、そしてHACCPに対応した工場設備と品質管理体制が挙げられます。これらをゼロから構築するより、既存の工場と取引先ごと引き継ぐほうが早く、買い手にとっては投資回収の見通しも立てやすくなります。

買い手の顔ぶれは幅広く、大手食品メーカーが自社にない商品カテゴリーやブランドを補うために取得するケースのほか、同業が近隣の工場を束ねて調達・物流を効率化するロールアップ型の再編も見られます。近年は外食チェーンや小売など異業種の買い手が、製造拠点や許認可を取り込む目的で食品メーカーを子会社化する動きも広がっています。バリュエーションは工場設備の資産価値や収益力をもとに検討され、案件ごとに幅が生じます。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手にとって

後継者が見つからないまま経営者の高齢化が進めば、廃業によってブランドやレシピ、従業員の雇用を失うことになりかねません。工場や取引先との関係が良好なうちに動くほど、引き継ぎ手は見つかりやすくなります。売却にあたっては、保健所の営業許可や食品表示の届出を新しい経営主体にどう引き継ぐか、取引先との契約が承継後も続く条件になっているかを事前に確認しておくことが欠かせません。

買い手にとって

買い手にとっての魅力は、新規に工場を建設し許可を取得するより短期間で生産能力とブランドを獲得できる点にあります。ただし、レシピや製法が特定の職人の経験に依存している場合、その人材が残るかどうかが品質維持の鍵を握ります。取引先との関係を承継後も維持できるかが、投資回収の成否を左右します

食品製造業の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、食品製造業が含まれる大分類「製造業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値10.7倍、四分位範囲5.6〜18.5倍(n=551)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値6.3倍(n=358)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値10.7倍を単純に当てはめると約2.1億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.1億円〜約3.7億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、食品製造業に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 食品製造業は中小・零細企業が9割超を占め、人手不足と原材料高で価格転嫁力に乏しい事業者ほど苦境に立たされやすい
  • 後継者不在(製造業でも4割超)を背景に、廃業ではなくM&Aで事業を引き継ぐ動きが広がっている
  • 評価されるのはブランド・レシピ・販路・営業許可・工場設備で、承継後は許可の引き継ぎと取引先との関係維持が課題になる

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