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自動車整備業界のM&A動向と売却相場

自動車整備業界のM&A動向|M&A Times

自動車整備業は車検・鈑金・一般整備などを担う生活インフラ産業ですが、近年は休廃業・解散や倒産が増加傾向にあります。整備士の高齢化と人手不足、経営者の後継者難、電動化(EV化)や先進安全装備への対応投資という構造的な課題が重なり、事業承継の手段としてM&Aを選ぶ中小整備工場が増えています。

業界の構造とM&Aが起こる背景

自動車整備業界でM&Aが増えている背景には、複数の構造要因が重なっています。

第一に整備士の高齢化と担い手不足です。整備要員は専門性の高い資格職であり、若年層の入職が採用競争の中で伸び悩む一方、現役世代の高齢化が続いています。

第二に経営者自身の高齢化と後継者不在です。家族や社内に後継者がいない事業者では、廃業か第三者への譲渡かの選択を迫られます。

第三に技術対応投資の負担増です。EV・ハイブリッド車の整備には専用の診断機器や高電圧対応の研修が必要になり、先進安全装備(ASV)搭載車の増加に伴って電子制御診断の比重も高まっています。2024年10月以降、国産車から順次本格運用が始まった「OBD検査(OBD車検)」も、対象車種の整備事業者に診断機及び関連設備への投資を求めるものです。こうした投資を独力で継続するのが難しい小規模事業者にとって、ディーラー系列や大手グループ傘下に入ることは設備・研修体制を確保する現実的な選択肢になっています。後継者不在という課題は、業界を問わず中小企業の事業承継に共通する構造ですが、整備業では設備投資負担がその決断を早める要因になっています。

最近の動向

帝国データバンクによると、自動車整備事業者の2024年度(2024年4月〜2025年3月)の休廃業・解散件数は382件、倒産(負債1000万円以上)を合わせた市場からの消滅件数は445件で、いずれも過去最多となりました(2025年5月4日発表)。同社が全国約1万7400社の経営者年齢を調べた結果では60歳以上が57.0%を占め、2023年調査時点の後継者不在率は59.7%と、経営者の高齢化と後継者難が広く存在することが確認できます。

一方で業界の技術者数そのものは減っていません。日本自動車整備振興会連合会(JASPA)の「令和7年度自動車特定整備業実態調査」(2025年6月30日時点、2026年1月発表)によると、整備要員数は402,367人で前年度比342人増と4年連続で増加しました。ただし整備要員の平均年齢(自家整備を除く)は47.7歳で前年度より0.3歳上昇しており、就業者数は維持されつつも高齢化は進行しています。事業者数の減少と要員数の高止まりが同時に進む状況は、小規模事業者の淘汰・集約が進んでいる可能性を示唆しています。

実例:株式会社オートバックスセブン(東証プライム)は2025年4月、全国70拠点でカー用品販売・自動車整備事業を展開する株式会社ジェー・シー・エーの全株式を取得し、完全子会社化すると発表しました。中期経営計画に基づく新規拠点・チャネル拡大策の一環とみられ、大手カー用品チェーンが整備事業者を取り込みグループ化する動きの一例です。

この業界のM&Aの特徴

評価されやすい資産買い手が重視する理由
認証・指定工場の資格分解整備や車検を行える資格は事業継続の前提となる
車検リピートの顧客基盤定期的な車検・整備の顧客は安定収益を生む
整備士人材有資格の整備士の確保・定着が引き継ぎ後を左右する
立地・設備・系列関係工場設備やディーラー系列との関係も評価される
自動車整備業のM&Aで評価されやすい主な資産

自動車整備業のM&Aで評価されやすい資産は、単純な売上規模だけではありません。まず、道路運送車両法に基づく認証工場・指定工場の資格です。指定工場(民間車検場)は自社完結で車検を行える許可であり、新規取得には検査ラインの設備投資と実績が必要なため、既存の指定を持つ事業者はそれ自体が承継価値を持ちます。

次に車検リピートの顧客基盤です。車検は2年(新車は初回3年)ごとに発生する反復需要であり、既存顧客との継続的な接点は買い手にとって収益の予見可能性を高めます。

加えて整備士人材そのもの、立地・設備、そしてディーラーや部品商との系列関係も、単独では再現しにくい資産として評価対象になります。バリュエーションの目線は事業規模や収益性、保有する資格・顧客基盤により幅があり、一律の相場観で語れるものではない点には留意が必要です。譲渡スキームは事業譲渡・株式譲渡のいずれも用いられ、スキーム選択は許認可の承継可否や負債の扱いによって検討されます。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手にとって

後継者が不在の経営者にとって、M&Aは廃業による従業員の雇用喪失や顧客への車検対応の空白を避けられる選択肢です。特に指定工場の資格や長年の顧客基盤は、廃業すれば失われる価値であり、第三者承継によって従業員の雇用と地域の整備インフラを維持できる点は、単なる譲渡対価以上の意味を持ちます。

買い手にとって

買い手側、特にディーラー系列や整備工場チェーンにとっては、新規出店より既存の認証・指定工場を取得する方が開業までの期間とコストを抑えられる利点があります。既存の車検リピート顧客と整備士人材を一体で獲得できる点も、人手不足が続く中で採用コストを抑える手段になります。一方でEV・ASV対応の設備投資余力や、譲渡後の従業員定着の見通しは、買収前のデューデリジェンスで確認すべき論点です。

自動車整備業の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、自動車整備業が含まれる大分類「サービス業(他に分類されないもの)」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値13.9倍、四分位範囲7.5〜29.2倍(n=253)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値7.8倍(n=147)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値13.9倍を単純に当てはめると約2.8億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.5億円〜約5.8億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、自動車整備業に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 整備士・経営者双方の高齢化とEV化・OBD検査対応の投資負担が、整備業でM&Aが選ばれる主な背景
  • 帝国データバンク調べで2024年度の休廃業・解散は382件、消滅件数445件と過去最多。JASPA調べで整備要員は402,367人(令和7年度調査)と増加も平均年齢は47.7歳まで上昇
  • 評価される資産は認証・指定工場の資格、車検リピート顧客基盤、整備士人材、立地・設備・系列関係

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