自社のゴルフ場をこの先誰に託すか、頭を悩ませているオーナーは少なくないでしょう。ゴルフ人口の減少や預託金の償還負担が経営を圧迫する一方、運営大手による集約が進み、売却・承継の選択肢は以前より広がっています。最新データと実例から、ゴルフ場M&Aの動向を解説します。
業界の構造とM&Aが起こる背景
公益財団法人日本生産性本部・余暇創研の「レジャー白書2025」(2025年7月公表、2024年の余暇活動を対象とした調査)によると、2024年のゴルフ(コース)の参加率は5.0%にとどまりました。年間平均活動回数は16.4回、年間平均費用は15万4,700円で、限られた愛好者層が支える構造がうかがえます。裾野の広がりを欠いたまま会員が高齢化すれば、客数の維持は一段と難しくなります。
多くのゴルフ場は1980〜90年代のバブル期に開場し、コースやクラブハウスの更新投資が重荷になっています。加えて開場時に会員から集めた預託金は、償還期限が到来しても十分な返還原資を確保できていないケースが目立ちます。単独での事業継続が難しくなったとき、M&Aによる第三者承継が現実的な選択肢に浮上します。
日本企業全体でも経営者の高齢化は深刻な課題で、後継者不在は業種を問わない共通の悩みです。ゴルフ場経営も例外ではなく、創業家・オーナーの高齢化により事業を託せる相手を探す動きが、M&Aの主要な動機の一つになっています。
最近の動向
帝国データバンクの「ゴルフ場業界」動向調査(2025年12月公表、2024年度実績)によると、業界の市場規模は8,100億円で前年度比3.0%増となり、4年連続で拡大しました。8,000億円を上回るのは2018年度以来6年ぶりです。若年層や訪日客の取り込みが増収を後押ししたとみられます。
一方、一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会の集計では、2025年2月末時点の全国のゴルフ場数は2,154場で、対前年末比15場減少しました。閉場が本格化したとされる2010年度以降の15年間では、累計273場が姿を消しています。売上が持ち直しても、施設の淘汰は止まっていないのが実情です。
こうしたなかで存在感を増しているのが、運営大手によるロールアップです。パシフィックゴルフマネージメント(PGM)を傘下に持つ平和は、2025年1月にアコーディア・ゴルフの親会社を完全子会社化し、自社発表ではゴルフ場運営会社として国内最大、保有ゴルフ場数ベースでは世界最大(YH Research調べ)の運営グループになったとしています。スキームは株式譲渡による丸ごと取得が主流で、預託金債務を含めて会社ごと引き継ぐのが一般的です。買い手は運営大手にとどまらず、不動産・レジャー企業やPEファンドが再生を見込んで取得する例もあります。
実例:2026年7月、平和は子会社のPGMを通じ、京浜急行電鉄の連結子会社である市原京急カントリークラブ(千葉県市原市)の全株式を取得する契約を締結しました。対象会社は2026年3月期に純資産がマイナス約13億6,000万円の債務超過でしたが、株式譲渡によりコース運営を維持したまま平和グループ入りする形です(関連記事)。
この業界のM&Aの特徴
ゴルフ場M&Aで評価されやすいのは、アクセスの良い立地、安定した会員基盤、コースやクラブハウスの整備状況です。都市部から近く集客力のある施設ほど、運営大手やレジャー企業にとって魅力的な取得対象となります。反対に交通利便性が低く老朽化が進んだ施設は、評価が伸び悩む傾向があります。
最大の論点となるのが預託金債務の扱いです。償還請求に応じきれていないゴルフ場は珍しくなく、買い手はデューデリジェンスで償還債務の規模を精査します。事業譲渡で運営資産のみを切り出す手法もありますが、会員契約や許認可を丸ごと引き継げる株式譲渡が主流です。
買い手は運営大手のロールアップだけでなく、PEファンドや不動産デベロッパーにも広がっています。再生局面のゴルフ場を取得し、コース運営を続けながら周辺不動産の有効活用まで見込むケースもあります。
売り手・買い手それぞれの視点
売り手の視点
オーナーにとっては、預託金債務や老朽化投資を自力で解決できないまま廃業すれば、会員や従業員への影響は避けられません。運営ノウハウを持つ大手に譲渡すれば、コースを存続させながら債務処理を進められる点が大きな利点です。譲渡後も地域の雇用やクラブの歴史を維持できる可能性が高まります。
買い手の視点
買い手にとっては、新規開発が難しいゴルフ場を取得することで、短期間に会員基盤とコースを獲得できる利点があります。一方で、預託金債務の規模や会員との関係性、維持コストを見誤ると、想定した収益を確保できないリスクもあります。取得後の運営統合による管理コスト削減が、投資回収の鍵を握ります。
ゴルフ場の売却相場の目安(実測データ)
中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、ゴルフ場が含まれる大分類「生活関連サービス業・娯楽業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.5倍、四分位範囲5.8〜18.2倍(n=102)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値5.1倍(n=72)です。
たとえば年間の純利益が2,000万円の運営会社で考えてみます。中央値9.5倍を単純に当てはめると約1.9億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約1.2億円〜約3.6億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。とくに預託金債務が大きいゴルフ場では、株式価値がこの目安を大きく下回る場合があります。
この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、立地や会員基盤・コースの状態が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。
この倍率は大分類全体の集計であり、ゴルフ場に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。
まとめ
- ゴルフ人口の構造変化と預託金の償還負担が、ゴルフ場M&Aを後押ししている
- PGM・アコーディアなど運営大手によるロールアップが業界再編の軸になっている
- 株式譲渡による丸ごと取得が主流で、預託金債務の精査が取引成否を左右する
次に読む
出典
- 帝国データバンク「ゴルフ場業界」動向調査(2024年度)
- 一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会「2024年度ゴルフ場利用者数・2025年2月末ゴルフ場数について」
- 公益財団法人日本生産性本部 余暇創研「レジャー白書2025」(速報版)詳細資料
- 株式会社平和「株式会社アコーディア・ゴルフの親会社であるPJC Investments株式会社の株式の取得完了…に関するお知らせ」(2025年1月31日)
- 京浜急行電鉄「(株)市原京急カントリークラブのパシフィックゴルフマネージメント(株)への株式譲渡について」(2026年7月15日)
- M&A Online「平和<6412>、京浜急行電鉄<9006>傘下でゴルフ場運営の市原京急カントリークラブを子会社化」(2026年7月15日)

