管理会社の経営者にとって、後継者不在や人手不足は共通の悩みです。しかしながら管理戸数という安定したストック収益は、実は買い手から高く評価される資産でもあります。本記事では不動産管理会社のM&A動向と売却相場を解説します。
業界の構造とM&Aが起こる背景
賃貸管理・マンション管理の収益源は毎月の管理料です。入居者や区分所有者が入れ替わっても契約が続く限り収入は安定します。買い手にとって管理戸数はそのまま将来収益の見込みであり、M&Aで真っ先に評価される資産です。
現場では管理員や設備担当者の高齢化と採用難が進んでいます。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、世帯主の年齢は70歳以上が25.9%と前回調査の22.2%から増え、60歳代が27.8%と最も多くなっています。自社の管理物件でもオーナー側の高齢化・相続が進み、管理会社選びの見直しが起きやすい局面にあると言えます。
2021年に全面施行された賃貸住宅管理業法により、200戸以上を管理する事業者は登録が義務になりました。国土交通省によると令和7年度末時点の登録業者数は10,197社です。規模の小さな管理会社ほど法令対応の事務負担や立入検査への備えが経営を圧迫しやすく、大手傘下入りを検討する動機になります。
最近の動向
マンション管理業協会の令和6年マンション管理受託動向調査(2024年4月1日時点)では、会員348社の受託戸数が655万1,427戸に達し、全国のマンションストックの92.7%を占めます。既存物件の受託のうち18.8%は事業譲渡や合併によるものです。大手管理会社や不動産テック企業、投資ファンドが管理契約というストックを買い集めるロールアップと、後継者不在による第三者承継の両方がM&Aの主な構図です。
実例:東証スタンダード上場のデュアルタップは2025年12月、関東で19棟の分譲マンションを管理する朝日管理の全株式を取得し完全子会社化しました。管理品質の標準化と建物管理事業の強化が目的で、開発・販売・管理を一貫して手がける総合不動産会社が地域密着型の管理会社を取り込む典型例です。
不動産管理会社M&Aの特徴
買い手が重視するのは管理戸数の規模だけではありません。契約の継続率、オーナーとの関係の深さ、宅地建物取引業や賃貸住宅管理業の登録の有無、入居者募集力も評価対象です。管理料に加えて仲介手数料や更新料が積み上がる会社ほど収益性が高く評価されます。
スキームは株式譲渡が中心です。管理契約をそのまま引き継げるため、オーナーへの説明負担が小さく済みます。ただし契約書にチェンジオブコントロール条項があると、経営権の異動時にオーナーの承諾や通知が必要になる場合があり、事前の契約点検が欠かせません。
不動産管理会社の売却相場の目安(実測データ)
中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、不動産管理会社が含まれる大分類「不動産業、物品賃貸業」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値22.6倍、四分位範囲10.1〜40.8倍(n=139)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値19.6倍(n=107)です。
たとえば年間の純利益が2,000万円の管理会社で考えると、中央値22.6倍で約4.5億円、ばらつきの幅(四分位範囲)では約2.0億円〜約8.2億円が実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり個社の売却価格を保証するものではありません。
この大分類は全11業種のなかで最も倍率が高い一方、収益不動産を保有する会社(資産性の評価)も含まれるため、管理専業の会社の実勢はこれより低くなることがあります。倍率よりも管理戸数・契約継続率といったストックの質が価格を左右します。
倍率試算は利益が出ている会社を前提としていますが、赤字でも管理契約や人材が評価されて成約するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで、業種比較は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で解説しています。
売り手・買い手それぞれの視点
売り手の視点
管理戸数と契約継続率を高めておくほど評価は上がります。宅建業や賃貸住宅管理業の登録状況、重要書類の整備状況も査定に影響します。譲渡後もオーナーや入居者への説明を丁寧に行い、契約の巻き取りを防ぐことが重要です。
買い手の視点
買い手にとっての焦点は管理契約の実質的な継続率です。名目上の戸数だけでなく、解約予告が来ていないか、賃料滞納や訴訟を抱えていないかをデューデリジェンスで確認します。統合後の人員体制やシステムの一本化計画も成否を左右します。
まとめ
- 管理戸数は安定収益として買い手から評価されるストック資産です
- 賃貸住宅管理業法の規制強化と人手不足がM&Aを後押ししています
- 相場は業種平均で中央値22.6倍、実際は管理戸数・契約継続率の質が価格を左右します
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