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歯科医院のM&A・承継動向|売却相場と事例

歯科医院のM&A・承継動向と事例|M&A Times

歯科医院は全国に6万件以上あり、開業ラッシュを経た今、市場は成熟から飽和の局面に入っています。院長の高齢化と後継者不在が重なり、親族内承継だけでなく第三者への事業承継、いわゆる歯科医院M&Aが選択肢として広がっています。本稿では業界構造とM&Aが起こる背景、最近の動向、譲渡・譲受それぞれの視点を整理します。

業界の構造とM&Aが起こる背景

厚生労働省の医療施設動態調査(令和6年10月1日時点)によると、全国の歯科診療所数は66,378施設で、前年から440施設減少しました。一方、日本フランチャイズチェーン協会の統計(2024年12月度、正会員ベース)ではコンビニエンスストアの店舗数は55,736店であり、歯科医院数はこれを上回ります。「歯科医院はコンビニより多い」という言い方がされる背景には、こうした統計上の裏付けがあります。

開設者別では、個人開設が48,667施設(全体の73.3%)と依然として多数派ですが、前年比では個人が855施設減少した一方、医療法人は376施設増加しました。個人立の廃業と法人による集約が同時に進んでいる構図がうかがえます。

この開設形態の違いは、承継スキームに直結する重要なポイントです。個人立の医院は院長個人が開設者であるため、承継は資産・患者基盤・スタッフを引き継ぐ事業譲渡が基本となり、譲受側は新たに開設許可を取得する必要があります。医療法人の場合は、医療法人という法人格ごと引き継ぐため、出資持分の譲渡や社員(社員総会の構成員)交代という形をとります。詳しい選択肢は事業承継の選択肢で解説しています。

後継者不在と休廃業の現状

帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査」(2024年)によると、医療業(病院・診療所などを含む中分類)の後継者不在率は61.8%で、全国平均の52.1%を大きく上回り、全業種の中でも高水準でした。

廃業・倒産の動きも過去最多を更新しています。帝国データバンクの「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査」(2025年、2026年1月公表)によると、2025年に休廃業・解散した歯科医院は147件(前年118件)で過去最多を更新しました。倒産は25件で、過去最多だった2024年の27件に次ぐ高水準です。前年(2024年)の同調査では、診療所全体(歯科含む)で70歳以上の経営者が54.6%を占める一方、歯科医院に限ると70歳以上の割合は25.6%とやや低く、経営者の年齢構成には差がある点も示されています。

東京商工リサーチの調査(2024年)では、医療機関全体の休廃業・解散は598件で前年比14.1%増、このうち歯科医院は138件(前年119件)と、こちらも増加傾向でした。両調査は集計対象や定義が異なるため件数には差がありますが、歯科医院の廃業・休廃業が増加基調にある点は共通しています。廃業の増加自体が直ちにM&A市場の拡大を意味するわけではありませんが、第三者承継という選択肢への関心が高まっている背景として捉えられます。

広がる第三者承継・グループ化の動き

後継者のいない歯科医院を、複数の医院を束ねる経営グループが引き継ぐ動きが実例として出てきています。医療・介護・調剤・歯科の経営支援を手がける地域ヘルスケア連携基盤(CHCP)は、2024年6月に東京都・神奈川県の4拠点を運営する医療法人社団相生会、同年12月には茨城県で2拠点を運営する医療法人社団佑文会のグループ参画を相次いで発表しました。

また2024年8月には、岡山県倉敷市を中心に7つの歯科医院を運営する東風会グループが同社グループに参画しています。この事例では、理事長の2人の子がいずれも医師・歯科医師ではなく親族での承継が難しかったことが背景として語られており、後継者不在の受け皿として第三者承継が機能した例といえます。

歯科医院を取り巻く周辺業界でも再編が進んでいます。2025年8月には、産業ガス大手のエア・ウォーターが、歯科医院・歯科技工所向けの歯科用品通販大手である歯愛メディカルをTOB(株式公開買付け)により子会社化する方針を公表し、歯愛メディカル取締役会も賛同を表明しました。

この業界のM&Aの特徴

歯科医院M&Aで評価対象になりやすい資産には、立地・患者基盤(カルテ数や再診率)、ユニット(診療台)数、勤務するスタッフ(歯科衛生士・歯科技工士を含む)の定着状況、自費診療(インプラント・矯正など)の比率が挙げられます。特に自費診療比率は収益性に直結するため、譲受側が重視する項目の一つです。

スキームは開設形態によって異なります。個人立の医院は事業譲渡が基本で、資産・スタッフ・患者情報などを個別に引き継ぎます。医療法人の場合は出資持分譲渡や社員交代が中心です。ここで注意すべきは、医療法人は株式会社と異なり株式を発行していないため、株式譲渡という手法自体が使えない点です。株式譲渡と事業譲渡の違いを理解したうえで、自院がどちらのスキームに該当するかを確認する必要があります。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手(譲渡側)の視点

後継者不在の状況下でも、M&Aによって医院を存続させれば、勤務するスタッフの雇用を維持しやすくなります。また、通ってきた患者にとっても通院先が急になくなる事態を避けられます。院長自身にとっては、廃業に伴う原状回復費用や設備処分の負担を避けつつ、譲渡対価を引退後の生活資金に充てられる点もメリットです。個人の場合は開設許可の再取得手続きなど譲受側の負担も含めて、早い段階から専門家に相談することが望ましいでしょう。

買い手(譲受側)の視点

新規開業と比較すると、既存医院を譲り受けることで、立地選定や内装工事、患者ゼロからの集患といったリスクとコストを抑えられます。既に定着したスタッフやカルテ・患者基盤を引き継げる点も大きな利点です。一方で、医療機器の老朽化状況や自費診療比率、スタッフの継続勤務意向など、譲渡後の収益性を左右する要素は個別に精査する必要があります。スモールM&Aの枠組みで検討されるケースも多く、規模が小さいからこそデューデリジェンスの丁寧さが結果を左右します。

歯科医院の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、歯科医院が含まれる大分類「医療・福祉」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.2倍、四分位範囲3.5〜20.6倍(n=220)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値8.5倍(n=150)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.2倍を単純に当てはめると約1.8億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約7,000万円〜約4.1億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、歯科医院に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 歯科医院は全国66,378施設(2024年10月時点、厚労省)と競争が激しく、個人開設の減少と医療法人化が同時に進んでいる
  • 医療業の後継者不在率は61.8%(2024年、TDB)と高く、後継者不在の医院を経営グループが引き継ぐ第三者承継の実例が出てきている
  • 個人は事業譲渡、医療法人は出資持分譲渡・社員交代とスキームが異なり、医療法人は株式譲渡ができない点に注意が必要

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