建設・運送・介護・警備・産業廃棄物・飲食など、許認可を前提に事業を営んでいる経営者にとって、「会社を売却したら許認可はどうなるのか」は避けて通れない疑問です。スキームの選び方を誤ると、買い手が営業を継続できず、譲渡そのものが白紙に戻りかねません。本記事では、売り手の視点を中心に、M&Aのスキーム別に許認可がどう扱われるかと、実務の進め方を解説します。
結論・全体像
株式譲渡であれば法人格がそのまま存続するため、許認可は原則として維持されます。会社そのものの株主が入れ替わるだけで、許認可を保有する法人格に変化はないためです。
一方で、事業譲渡や会社分割・合併では、原則として買い手側での許認可の再取得や承継手続きが必要になります。事業や資産だけが移転し、許認可の主体である法人格や事業単位が別のものに切り替わるためです。ただし後述のとおり、業種によっては近年の法改正で例外的な承継制度が整備されているケースもあります。
スキーム別に見る許認可の扱い
まずは代表的な3つのスキームについて、許認可への影響を整理します。会社分割は税務上のメリットがある一方、許認可の承継可否は業種や許認可の種類によって個別の判断が必要です。
| スキーム | 法人格・許認可の主体 | 許認可の扱い(原則) |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 変わらない(同一法人が継続) | 原則として維持される |
| 事業譲渡 | 買い手法人へ事業のみが移転 | 原則として買い手側で再取得が必要 |
| 会社分割・合併 | 業種・許認可の種類により異なる | 合併は承継されやすいが、分割は認可申請等が必要な場合が多い |
合併は消滅会社の権利義務を存続会社が包括的に承継する仕組みのため、多くの業種で許認可も引き継がれます。これに対して会社分割は、分割の方法や許認可の根拠法令によって、自動的に承継されるもの・行政庁の認可を要するもの・再取得が必要なものに分かれるのが実情です。どのパターンに該当するかは業種ごとに異なり、早い段階での確認が欠かせません。
例外と業種別の傾向に注意
株式譲渡であれば手続きが一切不要というわけではありません。業種によっては、株式譲渡による支配株主の変更であっても、監督官庁への役員変更届や事業内容の変更届が必要になる場合があります。また、経営業務の管理責任者や営業所の管理者など、人的要件の維持そのものが許可継続の条件になっている業種も存在します。
もう一つ押さえておきたいのが、近年の業法改正の動きです。建設業では2020年10月施行の改正建設業法により、事業譲渡・合併・分割を行う際にあらかじめ事前認可を受けることで、空白期間を生じさせずに建設業許可を承継できる制度が整備されました。承継者側が経営業務の管理責任者などの許可要件を備えていることが認可の前提とされており、人的要件の重要性は変わりません。
旅館業についても、2023年の旅館業法施行規則等の改正により、都道府県知事等の承認を受ければ、許可を取り直さずに営業者の地位を承継できる仕組みが設けられています。建設業のM&Aや旅館業のように、業法改正の内容や適用条件は業種ごとに異なるため、対象業種の監督官庁に個別の取り扱いを確認することが欠かせません。確認できていない業種については承継の可否を推測せず、都度専門家に照会する姿勢が安全です。
実務の進め方
許認可を伴う事業の売却では、早期に許認可の棚卸しを行うことが出発点になります。保有している許認可の種類、更新時期、人的要件の充足状況を一覧にしておくと、スキームの選定や買い手への説明もスムーズに進みます。
次に重要なのが、監督官庁や行政書士など専門家への事前相談です。業種によって手続きや必要書類、審査にかかる期間は大きく異なるため、契約交渉と並行して早めに相談窓口を確認しておくと、後工程での手戻りを防げます。費用は業種や手続きの複雑さによって幅があり、個別の見積もりで確認するのが実務的な進め方です。
法務デューデリジェンスの場面では、経営業務の管理責任者など人的要件を担うキーパーソンが、承継後も継続して勤務する意向を持っているかどうかも確認しておきたい論点です。キーパーソンの退職により許可要件を満たせなくなるリスクは、価格交渉やクロージング条件にも影響し得ます。
よくある失敗・注意点
許認可が絡むM&Aで実際に起こりやすいのが、次のようなつまずきです。契約締結後に発覚すると解消に時間がかかるため、事前の確認が重要です。
- 空白期間の発生:事業譲渡等で許認可の切替タイミングを誤り、営業を一時的に停止せざるを得なくなる
- 人的要件の喪失:経営業務の管理責任者や営業所の管理者などのキーパーソンが承継前後で退職し、許可要件を満たせなくなる
- 届出漏れ:株式譲渡であっても必要な役員変更届や事業内容の変更届を提出し忘れる
まとめ
許認可ビジネスのM&Aでは、スキームの選択が許認可の帰趨を大きく左右します。要点を整理します。
- 株式譲渡は原則として許認可が維持されるが、役員変更届などの手続きが必要な場合がある
- 事業譲渡・会社分割・合併は業種や方法によって扱いが異なり、原則として再取得や承継手続きが必要になる
- 早期の棚卸しと監督官庁・専門家への事前相談が、空白期間や人的要件の喪失を防ぐ鍵になる
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出典
本記事の制度記述は、以下の公的機関の資料に基づいて確認しています(2026年7月時点の情報です)。

