M&Aの「リアル」を伝える経済メディア

読了目安 約6分

整骨院・接骨院のM&A動向と売却相場

整骨院・接骨院のM&A動向と売却相場|M&A Times

「地域で長く通われてきた接骨院を誰に託すか」を考え始める経営者が増えています。柔道整復師の有資格者と施術所はいずれも年々増加し、保険診療(療養費)への依存度が下がるなかで、個人経営の院は集客と人材確保の両面で厳しさを増しています。こうした環境の変化を受け、多店舗展開するチェーンや異業種の健康関連企業が、承継の受け皿としてM&Aで院を取得する動きが広がってきました。

業界の構造とM&Aが起こる背景

柔道整復の施術所(接骨院・整骨院)は、厚生労働省の令和6年衛生行政報告例によると2024年末時点で50,924か所です。就業する柔道整復師も78,666人にのぼり、いずれも2014年(施術所45,572か所、柔道整復師63,873人)から着実に増えてきました。自院の商圏に新規開業が加わる可能性は以前より高いと考えておいたほうがよいでしょう。

もっとも直近2年(2022年→2024年)の施術所数の増加はわずか8か所にとどまり、柔道整復師数の増加(1,034人)に比べて伸びが鈍っています。有資格者は増え続ける一方で新規開業の勢いは鈍化しており、既存院を取り巻く競争環境も変わりつつあります。

接骨院の多くは柔道整復師本人が施術管理者を兼ねる個人事業、または小規模な法人として運営されています。第三者に譲渡する場合、株式譲渡という選択肢がそもそも使えず、資産や患者基盤、スタッフを個別に引き継ぐ事業譲渡のスキームを取るケースが少なくありません。個人事業主の承継全般は個人事業主の事業承継の進め方で解説しています。

保険請求(受領委任)を扱う施術所は、施術管理者として届け出る柔道整復師に実務経験と研修受講を課しています。2018年4月の制度導入以降、必要な実務経験は段階的に引き上げられ、現在は3年となっています。買い手側の柔道整復師がこの要件を満たしていない場合、受領委任の届出をやり直す必要があり、譲渡のタイミングや人員体制の検討に影響します。許認可・届出が絡む承継全般はM&Aで許認可は引き継げる?で整理していますので併せてご覧ください。

最近の動向

保険請求である療養費の総額は2012年度を境に減少局面に入っています。厚生労働省が2017年にまとめた資料によると、柔道整復療養費は2008年度の3,933億円から増加し、2011年度の4,085億円をピークに減少へ転じ、2014年度には3,825億円まで減少しました。施術所数が増える一方で、1施術所あたりの保険収入は目減りする構図が続いてきたことになります。

この構造を受け、骨盤矯正や姿勢改善、パーソナルトレーニングなど、療養費に頼らない自費メニューへ収益源を広げる院が増えています。買い手からみても、自費比率が高い院は保険制度の見直しに左右されにくく、評価対象として選ばれやすくなります。

実例:整骨院最大手のケイズグループは2022年3月、関西で鍼灸整骨院をそれぞれ14院・13院展開する光井JAPANと太洋メディカルの全株式を取得し、完全子会社化しました。地域の有力チェーンを傘下に収め、両社の従業員雇用を維持したまま経営基盤を強化した事例です。

この業界のM&Aの特徴

M&Aで評価されやすいのは、施術者の体制と患者基盤、そしてレセプト(保険請求)の健全性です。買い手が実際に確認するポイントを整理すると、次のようになります。

評価ポイント買い手が見るポイント
施術者・施術管理者の確保有資格者の定着率、施術管理者の要件を満たす人材がいるか
自費メニューの比率保険収入への依存度、収益構造の安定性
立地・商圏競合の密度、住宅地やオフィス街など患者属性との相性
レセプトの健全性不正請求のリスク、審査・返戻の発生状況
買い手が整骨院・接骨院のM&Aで確認する主な評価ポイント

譲渡価格は、決算書の純資産に数年分の営業利益を上乗せする年買法を目安に検討されることが一般的です。ただし自費比率や立地、施術者体制によって差が大きく、一律の相場を示すことはできません。考え方の詳細は会社売却の相場はいくら?で解説しています。

売り手・買い手それぞれの視点

売り手(譲渡側)の視点

後継者がいない場合、廃業すれば通院中の患者は行き場を失い、従業員も職を離れることになります。M&Aで事業を引き継げれば、患者の通院先とスタッフの雇用を維持したまま、経営者自身も引退や次のキャリアに進むことができます。施術管理者の要件を満たす後継者が院内にいない場合も、外部への譲渡は現実的な選択肢になります。

買い手(譲受側)の視点

多店舗を展開するチェーンにとって、既存院の買収はロールアップによる店舗網拡大の手段です。新規出店より短期間で商圏と患者基盤、有資格者を確保できる利点があります。フィットネスや美容、リラクゼーションなど隣接業種の企業が、健康関連事業への多角化を目的に整骨院を取得する例もみられます。買い手の類型は中小企業M&Aの買い手にはどんな企業がいる?で解説しています。

整骨院・接骨院の売却相場の目安(実測データ)

中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」(2022〜2024年度に成約した中小M&Aの譲渡側報告)によると、整骨院・接骨院が含まれる大分類「医療・福祉」のPER(株式譲渡価額÷純利益)は中央値9.2倍、四分位範囲3.5〜20.6倍(n=220)でした。2024年度のみ集計のEV/EBITDAでは中央値8.5倍(n=150)です。

たとえば年間の純利益が2,000万円の会社で考えてみます。中央値9.2倍を単純に当てはめると約1.8億円、ばらつきの幅(四分位範囲)で見ると約7,000万円〜約4.1億円が、実際に成約した価格帯の目安です。純利益×倍率の機械計算であり、個社の売却価格を保証するものではありません。

なお、この倍率試算は利益が出ている会社を前提にしています。赤字や利益がわずかでも、純資産や顧客基盤・人材・許認可が評価されて売却が成立するケースはあります。詳しくは赤字会社でも売却できる?買い手がつくケースと評価されるポイントで解説しています。

この倍率は大分類全体の集計であり、整骨院・接骨院に特化した値ではありません。業種ごとの比較や倍率を使った試算の考え方は会社売却の相場は業種でいくら違う?成約1.4万件の実測倍率で詳しく解説しています。

まとめ

  • 施術所数・柔道整復師数は増加を続ける一方、療養費(保険請求)は2011年度をピークに減少局面にあります
  • 個人事業や小規模法人が多く、株式譲渡ではなく事業譲渡のスキームが用いられるケースが少なくありません
  • 施術管理者の要件を満たす人材の確保、自費メニュー比率、レセプトの健全性が、M&Aでの評価を左右します

次に読む

出典